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Five Brade  作者: 有栖
1章 聖剣アシュタルト
2/35

#1-2

「ば、化物だ...」


帝国兵は恐怖のあまり尻餅をつき、カタカタと震える。

その見つめる先はただ1つ。

爆炎の中からゆっくりと歩いてくる少女。

彼女は英雄。彼女は伝説の女神そのもの。

しかし、帝国兵からはもはや化物か、もしくは悪魔にしか見えなかった。


「殺さないでくれ...助けてくれ誰か!」


必死な命乞いも聞かず、彼女は聖剣を振るい、剣から放たれる蒼き業火によって帝国兵を焼き殺した。


「...」


彼女は黒こげになった死体をじっと見つめた後、何事もなかったかのように前進を開始した。


「魔導カノン、全砲門撃てぇ!」


指揮官と思わしき帝国兵の合図と共に、丘のほうから魔導カノンでの砲撃が彼女に放たれる。

魔導カノンは帝国が保有する魔導兵器の1つで、魔力を注入するだけで収束し弾として放つことができる兵器だ。

その高い実用性はさることながら、純粋な魔力の塊なので威力も申し分ない。

しかし、


「消えなさい」


彼女の一言によって魔導カノンの弾は蒼き業火に包まれて焼失する。

普通ならば魔力の塊なんて燃えるはずがない。

しかし、聖剣アシュタルトから放たれる蒼き業火に燃やし尽くせないものは存在しない。

魔力のような一種のエネルギーのようなものであっても例外ではないのだ。


そして彼女は聖剣アシュタルトを天に掲げ、振り下ろした。

聖剣から放たれた蒼き業火は丘ごと帝国兵達を焼き、初めから何も無かったかのように消し炭に変えた。

運良く生き残った兵士はその無残な光景に我を失い、全力で逃げていく。

彼女はまたゆっくりと前進し始めた。


次に彼女が歩いていると少年兵に囲まれる。

ざっと人数は9人ほどか。

少年兵達は彼女達よりももっと若い、10歳前後の子供ばかりだ。

虚ろな目をし、自らの国が信仰する絶対神の名をひたすら連呼しながら、武器を持って彼女に近づいてくる。

彼女は何の躊躇いもなく剣を振るった。蒼き業火により少年兵達は焼かれる。

彼らの軽い体はいとも簡単に吹き飛び、9人全員地面に倒れ伏す。

腕が燃え、足が燃え、顔が燃え。徐々に炎は広がっていく。

死ぬ間際に正気に戻った彼らは死にたくない、死にたくないと涙を流しながら、また一人また一人と死んでいく。

そんな姿をじっと見つめた後、彼女はまた歩きだした。


彼女に逆らう者はもう居ない。

帝国の基地、もう無人のもぬけの殻となったそれを蒼き業火で焼き払う。

基地は灰となり、跡形もなく燃え散る。

彼女の周りには何もなくなった。

ただあるのはくすんだ空と、黒く焦げた土のみ。






凱旋を終え、クーデリアは自室に戻ってきた。

もはや自室だけがクーデリアの心の休まる場所だ。

ベッドに座り、聖剣がしまわれてある鞘を置く。

その瞬間、クーデリアの体は崩れ落ちる。

絹を裂くような音の悲痛な叫びを上げながら、ベッドの上で悶える。


聖剣アシュタルトは使用者に神に等しい力を与える。

蒼き業火を自由自在に操り、仇なす者全てを焼き尽くす絶対的な破壊の力。

しかし、聖剣であれどその身に見合わない膨大な力には相応の代償が必要となる。

蒼き業火は何を依り代として燃えているか。

それは使用者の命。

聖剣を振るう度に命を削られ、着実に死へと近づいていく。

クーデリアの体は蒼き業火に蝕まれ、既に満身創痍だ。

左足に至ってはもう感覚すら感じない。


しかし、聖剣を振るう英雄や女神は絶対でなければならない。

民に痛みを堪える表情や動かなくなった左足など見せてはいけないのだ。

そのため聖剣を持っているときだけ痛みからは開放される。

だが、聖剣は精神を蝕むため長く持てば持つほど、自分ではなくなっていく。

初代の所持者、即ちスラクジャンヌは命を全て聖剣で燃やし尽くし、

先代の所持者、現国王の祖母は体と精神を蝕まれた末、自殺した。


「クーデリア様!」


偶然悲鳴を聞いたディアナがクーデリアのところへ駆け寄ってくる。


「もうおやめください!これ以上ボロボロになっていくクーデリア様を見るのは耐えられません!」


ディアナは涙を流しながら訴える。

このクーデリアの現状を知っている者はディアナただ一人だ。


「ですが、私が居なければ、この国は滅んでしまう、だから、私が、やらなくては。」


「だからといって、クーデリア様だけがお辛い思いをされるのは...」


「ディアナ、分かって。」


王女としてではなく、一人の親友としてディアナに言う。


「私が何を言おうと、貴方が止まらないのは分かっています。ですが...!」


ディアナはクーデリアの顔を見て言葉を堪える。

民衆の前では見せない、やつれた弱った顔。

だが、その目はとても真剣だ。


「...痛みを和らげる薬を持ってきました。これを飲んで安静にしてください。」


「止めてもいいんです。誰が何と言おうが、私だけは貴方を責めません。」


そう言い残してディアナは部屋から出て行った。

クーデリアは左足を引きずりながら、薬を手に取って飲み干した。

しばらくすると体を這いずりまわっていた痛みは若干和らいだので、少しの間寝ることにした。



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