『そして、ボクは――』
あの時と同じように、絞首の苦しみがタカヒトを襲う。酸素を失い、視界は歪み始める。目隠しが無いせいで、余計に視界の歪みが苦しみへと転嫁されていく。やがて、視界に赤みが交じってきた。そう、あの感覚…『死』がもうすぐそこに迫ってきている。
「もういやだ…助けて…」
そんな叫びも、喉から溢れてきた血の泡にかき消されていく――
「――ッ!?」
タカヒトは跳ね起きた。独房の中、タカヒトはまだ、生きていた――
「夢…?」
ホッとするタカヒト。その時、独房の扉が開いた。
「42731番、時間です。出なさい」
タカヒトの顔が恐怖に凍り付く。看守の声は、タカヒトの声だった。
『今度は、始めから全部自分自身でやってもらうよ…死刑台から全部♪』
どこからか聞こえた言葉に、タカヒトは半狂乱になる。
「いやだああぁぁっ!」
中から連れ出そうとする看守の手を払いのけ、泣きながら外に出るのを拒むタカヒト。やがて、もう一人の看守が応援に駆けつけてきた。その看守の顔も、タカヒトだった。
「うわあぁっ!?」
実は看守達は、タカヒトとは似ても似つかない顔をしていた。タカヒトの壊れた意識は、誰の顔も自分自身に見えている。
そして、遂に取り押さえられ、二人の看守に両腕を捉まれて、タカヒトは連れていかれる…
「いやだああぁぁっ!!」
「やめろおおぉぉっ!!」
「助けてええぇぇっ!!」
廊下に、タカヒトの叫び声が響き渡る。徐々に遠ざかる叫び声。やがて、廊下には静寂が戻り、風にのってタカヒトの声が微かに聞こえた――
「誰か、誰か僕を殺してくれえぇっ…!」
最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。いつもと違う文体に挑戦してみましたが、果たして…(苦笑)