『刺殺』
「…やっぱり、リセットされるんだね…」
タカヒトは憮然とした顔で一人ごちた。またしても真っ赤な闇に浮かべられている。傷も全て消え失せて、痛みも無い。
「次はどう殺されるのかな…やっぱりボクに殺されるのかな?」
口調は軽いが、かなりショックは大きかった。他人事みたいに考えないと、とても耐えられない。
「あっ…!?」
何の前触れも無く、タカヒトの脚に激痛が走る。見ると、ナイフのような物が太股に刺さっている。
「これって…カッターの刃じゃない?」
カッターの刃…タカヒトには、身に覚えがあった。
『黒ひげ風ゲーム♪』
あの声がして、二本目が脇腹に刺さる。流れる血、脳内に響く鈍い痛み。
「やっぱりボクか…記憶違いじゃなければ…?」
そう、これは三人目の『作品』の時の『技法』だ。カッターの刃を使って、『黒ひげ危機一髪ゲーム』を模したデザインだった。薄く、深い傷口に半ばまで埋まる刃が、えもいわれぬ美を醸しだしていた。そう、あれは最高の作品といえる出来だった…
自分自身があの作品のようになるのは構わない。むしろ、是非ともなりたいと思う。『殺し手』が自分でなければ。
「もうたくさんだよ…」
涙声で呟くタカヒトの右目に、薄い刃が押し込まれる…間違いなくタカヒトの刺し方だ。少し上方向からやや下に刺す。抵抗もなく刺せる、理想的な刺し方。そして、ゆっくりと引き上げられる刃。やがて、血や粘液と共に流れ落ちるタカヒトの眼球…その感触にタカヒトは酔った。
『あ〜ぁ、ゲームオーバーだね…』
またしてもあのタカヒトの声。
「最高の気分だったのに…台無しだよ…サイテー」
その言葉は、無数の刃に遮られた。数百、いや数千の刃がタカヒトを刺す。無数の肉片に刻まれながら、タカヒトは考えていた。
(もう…いやだ…ボクに殺されるのだけは…)