『斬殺』
どれくらいの時間が経ったのか…永劫のような、刹那のような時を経て、タカヒトは目覚めた。
周りは、またしても真っ赤な闇。上下も無く、自分が立っているのか寝ているのかも分からない。どちらかというと、浮かんでいる、いや、浮かべられているといった感じだった。
「ボク…?生きてる…?」
生きてる、という問いは、正確には間違っている。タカヒトは既に死んでいる。生きてるというのは、魂を破壊された筈なのに、もとに戻っている事を指している。
「よかったぁ…あのままボクがボクに殺されるなんて死にきれないよね?」
そう嘯きながら、身体のあちこちを確認する。あれだけの殴打にあった形跡はまるで無い。
「また何か起きるのかな?出来ればボク以外の人に殺される方がいいけど…」
そんな事を考えていると、背中に鋭い痛みが走った。次いで、痛みが走った箇所が熱くなる。タカヒトは、何が起きたのか分からなかった。
「何?これ、初めての感じだけど…」
タカヒトの背中は、肩口から腰にかけてバッサリと斬られている。
『ばって〜ん♪』
タカヒトの背後で、またしても、あの声が聞こえ、背中に再び痛みが走った。
「またなの?またボクがボクを殺すの…?」
タカヒトの声に、今までに無い響きが混じる。それは…“恐怖”。自分の死や痛みにではなく、それらを与えるモノに対する恐怖。
影はタカヒトの声には答えず、無言でタカヒトの手首を切り落とす。切り口からダラダラと溢れる鮮血。鼓動に合わせて響く鈍い痛み。
だが、今のタカヒトは、そんな感触を楽しむどころでは無い。
「どうして…どうしてボクがボクを殺すの!?ボクは他の誰かに殺される事を望んでいるのに…!」
タカヒトの目に大粒の涙が浮かぶ。自分に殺される。タカヒトには、その事実が耐えられなかった。
何人も殺してきた自分。ならば、自分への罰は、今までに殺してきた『作品』達の手による『復讐』だと思っていた。なのに―
影は次々とタカヒトを切り刻んでいく。肘、肩、太股、腹…ついに、腹の切り口から、内臓がはみ出して来はじめた。
「あ…あ…」
タカヒトは呆然として、己の腹から吹き出す体液と臓物を見つめている。
「ボクはもう嫌だ…」
小さな呟き。
「嫌なんだ…!」
はっきりとした声。
「いやだああぁぁぁっ!!」
大きな叫び。だが…
タカヒトの首が、影に切り落とされた――