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『葬式』

「42731番、時間です。出なさい。」

薄暗い部屋の中に居る若い男に無機質な声がかけられた。その部屋の住人、カガミタカヒトは、ゆっくりと立ち上がり扉へと向かって歩く。

「お世話になりました」

迎えに来た看守に頭を下げ部屋を出る。あと一時間もしない内に自分は死ぬ…その事実が、タカヒトを高揚させていた。

連続猟奇殺人鬼タカヒト。八人を惨殺した男。彼は、“美”の表現として人を殺してきた。そんな彼の究極の“美”は、『自殺ではない自分の殺害』。

今、遂にそれが叶う。高ぶるな、という方が無理な話だった。狭い廊下を抜け、地下へと降りて行く。やがて、奇妙な部屋に入った。正面には祭壇があり、蝋燭の焔が揺らめいている。漂う線香の煙の中で、タカヒトは気付いた。

そっか、ボクのお葬式なんだ。“故人”は此処に居るのにね…

タカヒトは気付かれないようにクスリと笑う。

「それでは、お焼香を」

看守の声に、タカヒトは三回焼香した。

殺した『作品』に。

“死刑”の『先輩』に。

そして、自分に。

「何でも好きな物を食べていいですよ。」

看守が祭壇に盛られたお菓子を指し示した。

「“虫歯”になっちゃうからいいです。」

看守は怪訝な顔をしながら、そっとタカヒトに小さな錠剤を手渡した。

「穏やかに“逝く”為の薬です。飲みますか?」

タカヒトは薬を返し、笑顔で答えた。

「大丈夫です。」

そして、タカヒトは祭壇の裏の扉を開けた。

さあ、いよいよだ。タカヒトはひとり、階段を昇りはじめた。

人生最期の道をタカヒトはゆっくりと進んだ。陶酔した瞳で前を見つめ、口元には微笑みすら浮かべて…

「遂に、“夢”が叶う瞬間(とき)がきた…」

そう呟くタカヒトに、執行官の一人が目隠しの布を巻き付けた。

「規則ですから…」

タカヒトはその言葉に小さく頷いて応え、一歩前に進んだ。そして、タカヒトの首にロープの環が架けられた。

「42731番、いえ、カガミタカヒトさん。何か最期に云いたい事はありますか?家族とか、恋人等に…」

タカヒトは一言だけ呟いた…自分に向けて。

「最高だね、この気分」

執行官は無言でその場を離れた。

「…死刑、執行」

誰かの合図と共に、タカヒトの足元の床が消えた。首に架かる身体の重み、締め上げられ、急速に失われる酸素…それらも今のタカヒトには、苦痛ではない。

『ああ…これだよ…ボクはこの瞬間の為に生まれてきたんだ…』

目隠しの中の闇に、唐突に真っ赤な闇が広がっていく。何もかも包み込んでいく赤い色の奔流。赤く、赤く…

『きた…“きた”よ…』

歪みきった自己陶酔の中でカガミタカヒトは絶命していった…

「絞首、止め。医師の確認を…降ろせ。」

事務的な合図で、タカヒトであった肉のヒトガタは、医師の死亡確認によって、その死亡が確認された。

そんな光景を、タカヒトは上から見下ろしていた。

「あ〜あ、死んじゃったよ、ボク…」

さて、これからどうなるのかな…?タカヒトは“お迎え”が来るのを待った。

しかし、タカヒトが期待したような『お迎え』は来ない。段々と退屈になり、不機嫌になるタカヒト。

「何だかなぁ…これってカミサマの放置プレイ状態って感じ?」

ここに居ても埒が開かないとばかりに、タカヒトは安置部屋を離れようとした。その瞬間。タカヒトの意識は急速に薄れ、視界は赤く染められていく…


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