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第三章 第二話 初めての戦い

 住むだの住まないだのの話を聞いている内に眠ってしまった。俺は空音に蹴り起こされると既に並べられた朝食に手をつける。たぶんアジの塩焼きに真っ白いごはんにお味噌汁。無言の食卓だったが、味は二重丸を付けたいぐらいおいしかった。さすが、救世主のお世話係というやつかもしれない。朝風呂は祖父の家を再現した五右衛門風呂だったのだが、空音はいつの間に祖父の家の風呂まで調べたのだろうか、と空音のポテンシャルに恐怖を感じる。

 投げるように渡された制服は陽の光も反射しそうに真っ白い学ランで、俺は六つのボタンを止めながら、異世界に来るというよりもただの転校生の気分だと思う。ちなみに、空音の制服は落ち着いた紺色のブレザーに赤色のネクタイ、チェックのスカートが知的な雰囲気を感じさせた。学科や学園によっては制服が違ったり、竜機人をメンテナンスをする整備科の学生は四六時中作業服で絶対にこの制服を着る必要があるというわけではないらしいのだが、やはり先日の行動が目立ちすぎ為最低限のカモフラージュということだろうか。

 自宅の時計が九時に合わさったところで、空音が腰を上げた。

 

 「行くわよ」


 と言われれば、早歩きの空音に引っ張られるように大急ぎで家を飛び出した。八時半には全都市的にホームルームが始まるらしく、学園から五分もしないところに住んでいることもあり、他の誰かとすれ違うようなことはなかった。どうやら、目的の学園へ行く時間をずらしてあるらしいのだ。


 「なあ、ところで、学園に行ってどうするんだ」


 空音の背中へ向けてそう投げかける。


 「実王、貴方は乗りながらにして竜機神の戦いというものを知らない。だからこそ、竜機神を自分のものとするための訓練が必要なの。今から私と貴方で行うのは竜機神の操縦のための特訓よ」


 特訓、竜機神の訓練といっても全然理解できない。困っている俺を知ってか知らずか空音は早歩きのままで、学園の校門をくぐる。俺の言葉を聞かずに、どんどんと空音は学園を進んでいく。

 あれだけ目立った後に迷子にもなりたくない俺はその背中を駆け足で追いかけた。




                  ※


 空音を追いかけた先は見覚えのある場所だった。

 先日も通ったシグルズの格納庫をさらに奥に進めば、これまた薄暗い通路に遭遇する。映画で見る潜水艦の通路のようにどこか息苦しい金属で覆われた通路を進めば、再び扉。空音が近づけば自動で扉は開くと、そこに見えた先は開けた空間になっていた。その部屋の中には、たくさんのコードが大型のパソコンに繋がり、さらにそのパソコンもからもコードが大きなコンテナにも似た機械に繋がれていた。そのコンテナには扉が付いているところをみれば、どうやら人が入るためのもののようだが。


 「ここは一体……」


 「ここで実王を鍛えるの。竜機人の仮想戦闘をしてもらうわ」


 「してもらうわって、そんなこと言われても……どうしたらいいんだ」


 「ほら、そこに大きな箱があるでしょ」


 空音が先ほどのコンテナに指を指す。俺はその視線を追いかけるままにそれを見つめれば、頷きで返事をする。


 「そこが操縦席の役割を持っているの。竜機人も竜機神も操縦席は同じ構造になっているみたいだから、実際に搭乗した時とはさほど違和感は感じないはずよ。……まあ、いろいろ説明するより慣れる方が早いわね。とりあえず、その手前の操縦席に入って。搭乗したら、そのバルムンクの指輪から自動的に機体のデータを読み取りようになっているの。そのまま操縦桿を握るだけで準備は完了するから」


 「あ、ああ……」


 言われるがままに俺は手前の操縦席の扉を開く。確かにそこは自分が乗ったバルムンクの操縦席と酷似していた。細かいところは機械の性質上違うかもしれないが、俺はそのまま座席に腰掛ける。モニターが映像を映し出す。

 なるほど、こりゃ確かに凄い。

 全方位のモニターに映し出される映像は現実の映像と何ら変わらない。辺りは一面の荒野、このまま扉を開ければ外の風も感じられそうだ。しかし、仮想戦闘という以上は敵もいるはずだ。

 俺は見えない人間に見えない敵に、不安を隠すように声を上げた。


 「おい、空音。訓練するなら敵がいるんだろ。一体どこにいるんだ……!」


 『――遅くなったわね、ここよ』


 俺は頭上から聞こえた声に機体を傾けた。燦々と輝く太陽に重なるように一体の竜機人が舞い降りる。シグルズでありながら、シグルズではない機体に見える。色は淡い青が全身を覆い、一つ目のはずなのに丸々とした目が二つ。昨日見た体格の良いシグルズとは違い、とてもスリムな姿をしており、盾なども持つ様子はなく、両手に持つのは二本のグラディウス。両刃の剣が太陽の光を浴びてキラリと光る。

 その竜機人の姿にも驚くが、それ以上に驚くのがその機体の主。


 「お、お前、まさか……」


 俺の驚きで震える声を無視して、その声の主ははっきりと声を発する。


 『そうよ、実王の仮想訓練の相手であり、貴方の初めての敵は……私とこのノートゥングが相手をするわ。こう見えても竜機人部隊の中隊長もしているの。私を倒せないなら、絶対に竜機神は倒せないし、この大陸も救えない。ごちゃごちゃしたこと考えているなら、もうやめて。何も考えずにひたすら向かってきなさい。私に言えることは、これだけ。以上よ』


 空音の竜機神、ノートゥングが二本の剣を二度三度手の中で回転させる。左の剣を突き出し、右の剣を頭の上に掲げる。


 微動だにしないところを見れば、どこからでもかかってこいということなのだろう。いいだろう、ずっと胸の中にあったモヤモヤも解消したいところだ。ここで白黒はっきりつけてやる。

 俺は大きく深呼吸をすれば、操縦桿を強く握る。目の前に堂々と立つノートゥングへ向けて、地面を蹴った。


 「丁度いい機会だ。どっちが上か分からせてやる……!」


 戦い方は感覚で分かる。実際に斬り合うわけではない、恐怖はない。どこかゲームのようにも感じるが、俺は今自分の扱うこのメカが思いのままに動くという優越感が全身に溢れる。この機体は特別な力の象徴なのだ、絶対に負けるわけがない。

 腰の日本刀を右手で抜く、刃を頭の上に上げると同時に自分の攻撃範囲までノートゥングへと接近。俺は力いっぱいの強さで刀をノートゥングの胴へと振り下ろす。


 『振りが大きい、点数は上げられないわ』


 空音の機械的な声が聞こえる。

 気が付けばノートゥングは頭の上に。空中で体を捻らせれば、バルムンクの背後へ到着。その仕草に余分な動きはなく、まるで地に這う獲物を狙う鷹のようにでもある。そして、その時になって、やっとノートゥングに気づく。

 しまった、と心の中で吐き捨てた。声に出してしまえば、負けを認めてしまう。ここで負けるのだけは嫌だ。俺はとっさに前方の地面へ飛び込む。その時、今までバルムンクの立っていた場所をノートゥングの右手のグラディウスが貫く。空を裂くのを確認したので安心が生まれる。


 『あら、残念。でも、次はどうかしら』


 ノートゥングのもう一本の左手のグラディウスが怪しく光る。モニターの隅で、刃の輝きに生まれた安心感を全て持っていかれる。二撃目が来る、俺はそのまま前転をするようにバルムンクを転がるままに転がし、立ち上がりながら刀を横へ薙ぐ。

 キィン。初めて刃と刃がぶつかり合う音を聞いた。

 我ながらうまく、グラディウスを弾いたと思った。油断できないままに息を吹き返した右手の剣の突きが向かう。

 早い。だが、さっきとは違う、今度は真正面だ。

 息を止めて前方に集中。迫る刃を見つめれば、真っ直ぐと伸びる剣を回避する。狙っていた首を外したノーゥングは僅かに動揺したように思えた。大きなチャンスだ。斬るか、それとも距離をとるか。違う、どれを選んでも空音の剣さばきとノートゥングのスピードの前では敵わない。こうなれば、選択肢なんて捨ててしまおう。


 「俺を甘くみんなよ!」


 バルムンクは地面を蹴る。刀を振るう。その刀が向かう先はノートゥング本体ではなく、その手に持つグラディウス。もう一本は、俺が避けた時に死んだ。しかし、もう一本あれば空音なら、すぐに形勢逆転できる。俺はその可能性を殺す為に、自機の刀でノートゥングのグラディウスを切り上げた。


 『しまった……』


 空音の驚きの声。空中に舞うのはノートゥングのグラディウス。だが、この瞬間に俺の刀も死んだ。再び刀を持ってくる時には、もう一本のグラディウスが息を吹き返し、俺を狙う。それならば――。


 「――ただ突っ込むだけだ」


 バルムンクはグラディウスを弾いた体制のままでノートゥングに突進する。砂埃を巻き上げながら、二機は後方へと倒れ込む。

 仮想空間でありながら、操縦席を大きな振動が襲う。予想外の揺れのせいで反応が遅れた。砂埃の中で押し倒したノートゥングの目が怪しく光る。押し倒されながらも右手に握った剣を放すことはなかったのだ。ノートゥングの手に力が入ると剣が容赦なく操縦席へ向かう。


 「ここまで来て、負けるかっ」


 間に合うか分からない。それでもここで引くという発想はない。あるわけない。これは訓練でもありゲームでもあるかもしれない。それと同時に俺と空音の意地の張り合いもある。

 バルムンクはすぐさま上体を起こす。手にした刀を真っ直ぐにノートゥングの操縦席があると思われるそこへと振り落とす。


 『吼えときなさい、ビビリ救世主!』


 「うっせえよ、無愛想女!」


 二本の刃が交錯する。ほぼ同時にお互いの刃がお互いの操縦席を貫いた。

 


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