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第十八章 第五話 レヴィ救出作戦

 ブルドガングとザイフリートは対峙をする。

 ザイフリートは大剣をゆったりとした動作で腰へと持ち上げ、ぐっと引き水平に。ブルドガングは拳を前に突き出した状態で、全く動こうともしない。この状況でまず最初に痺れを切らすことになるのは、時間に余裕のない者になる。――ザイフリートが低い音を立てて足を上げた。

 大剣を体ごと突き刺すようにザイフリートはブルドガングの懐に飛び込む。ブルドガングは向かってくる大剣の先よりも早く、その炎の拳を素早く動かす。瞬間、炎の手は燃え盛る勢いを上げれば手を三倍は大きくさせて、ガッシリと大剣の刃を挟み掴む。先程までの弱く掴むだけで全力だったものとは違い、動きを完全に止める強力な拘束力。

 強く引きちぎるような炎の腕の力のせいで大剣をその手から離す、ザイフリート。


 『どこから、そんな力を……』


 重く分厚い壁のような大剣は、ブルドガングの頭上まで持ち上がる。ギラギラと燃え盛る右腕の関節を曲げて振りかぶり投げれば、敵を貫くはずの大剣が宙を流れて落ちていく。

 無様にも無防備になるザイフリート。レオンはその隙を逃さない。

 炎の腕を曲げ、脇腹の辺りで捻じ込むように腕を曲げる。そして、爆音を腕の関節部分で鳴らしつつ拳を真っ直ぐに突き伸ばした。その先へ待つ、ザイフリートの胸部へと。


 『ここまでやるとはな』


 セトが呟きをもらす。

 ブルドガングの炎の拳は先のほうを槍にも似た形で鋭く尖らせ、ザイフリートの胸部を貫通させていた。


 『その口もすぐに黙らせてやるよ』


 ブルドガングは前進すれば、ザイフリートへ貫通させた穴をさらに大きく広げる。


 『離れなさい……』


 静かにセトが口にすれば、密着するブルドガングを無理やり押し返せば、鎧を溶解させつつ後退する。

 再び剣を前へ構えようとするザイフリートにレオンは舌打ちをする。


 『今の一撃で操縦席を狙うつもりだったのでしょうが、外れて残念ですね』


 セトは自機に風穴を空けられたことなど関係ないと言わんばかりに淡々と言葉を並べる。


 『確かに残念だ。――ならば、何度でも穿つだけだ。避ける余裕など与えないほどにな!』


 今度は相手の出方を窺う対峙の時間など必要はなかった。

 レオンの強い呼気と共にブルドガングは地表を駆ける。一瞬で距離を詰めるブルドガングは腰を落とし次の攻撃に移る。


 『受けろ! メルガルの痛みを!』


 ザイフリートは壁に突き刺さる大剣をすぐに掴むと盾のように刃を前へ向けて炎の拳を受け止める。手を伸ばした先に武器があるのは運が良かった、それでも今のレオンは止まることを知らない。すぐさま、ブルドガングは体を反転しつつ次の一撃へ。


 『その身に刻め! 俺達の涙! 後悔を!』


 炎の腕の関節を曲げ、小さくジャンプをすると炎の腕はブイ字に変形すれば、そのままの形で頭上への一撃。それは炎の鎌が首を切り裂くように、強力な一撃。

 ザイフリートは大剣の隙間をかいくぐり、飛び出してきた変則的な攻撃に体をよろめかせる。

 着地したブルドガングは今度は両足の関節を曲げる。


 『ここは俺達の住む居場所! 汚れた存在め……ここから消えうせろ――!』


 足の関節を伸ばす。そのまま堅く絞った拳をザイフリートの顎へと伸ばす。

 レオンの渾身の一撃を受けたザイフリートはその巨体を宙に浮かせて後退する。だらりと垂れる腕、そして盾の役目を担っていた大剣。その隙をレオンは見逃すことはなく、灼熱の炎の腕を真っ直ぐに伸ばす。しかし、腕の長さとしては距離の離れたザイフリートには今一歩。しかし、神にも等しい力を得たブルドガングには届く距離――。


 『――その汚れを穿つっ!』


 届くはずのない腕が真っ直ぐに伸びる。弾丸のように的を狙う達人の弓矢のように早く鋭く。――ザイフリートの顔を炎の腕が抉った。

 ザイフリートの体が地面に吸い込まれるように体勢を崩せば、尻餅をつくようにその場に倒れこんだ。レオンの視界の中には、切れた首から先がブルドガングの残した炎でチリチリと燃える敗者の姿が目に焼きついた。


 『やったのか……?』


 やっと、という感じでレオンは声に出す。今まで無意識に出していた言葉とは違い、緊張を解いて声を出すという行動がレオンにはとても困難なものに思えたからだ。それほどまでに、レオンはザイフリートという脅威を恐れ、異常なまでの緊張状態を起こさせていた。

 横たわる首のないザイフリートに視線を送る。その脇にはカイムがじっと前を見ていた。ザイフリートが倒れれば、ブルドガングが迫れば死ぬかもしれない状況だというのに、静かに目を閉じるカイム。


 「相性が悪かった。今の君なら本物のヒルトルーンも、あの日戦ったバルムンクでさえも倒すことはできない」


 カイムはぼそりと声を漏らす。


 『相性だと……? だろうな、今の俺を倒せる者など――』


 ふっとカイムは笑みを浮かべた。


 「――違うよ。そうじゃない」


 深く閉じていた目を開いた。

 レオンは察する。決して油断をしていたわけではない。状況を見ても、このあり溢れる力からしても勝利を確信していた。……直感的に知る。まだ勝利ではない。戦うための選択を一つ間違えたことを気づく。

 すぐさま、レオンは距離を開くために地面を蹴る。


 「相性が悪いよ。――だって、ザイフリートは絶対に倒せないのだから」


 直後、ブルドガングの左腕が宙を舞う。


 『なっ……なんだとっ……』


 地面に着地するブルドガング。その瞬間を待ちわびていたとばかりに、左腕の付根が血を吐き出す。限界まで回したスプリンクラーの水のように、鮮血が壁を染める。

 無くした左腕の痛みに苦しむようにブルドガングが右膝をついた。それだけでは体を支えられないのか、燃え盛る炎の右手が地面に手を置く。

 呆然とするレオンは、その目の前の光景を見る。

 驚きで目を見開くレオンの耳に、セトの静かな声が届く。


 『その名は――王の棺ファーブニール』


 ザイフリートの右腕が宙を浮き、ブルドガングの左腕を引きちぎったのだ。その瞬間は見えなかった。何が起きるか分からないという予測ができていなかったという面もあったが、こういう事態など想定の範囲外だった。


 「こういうこともできるのさ、レオン」


 カイムの嘲笑混じりの声。目の前で空間を浮かびその右腕が手を開いたり閉じたりを繰り返す。まるで、自分を馬鹿にするように。――怒りで停止しかけていた思考を再び活動させるレオン。


 『ふっざけるなぁ――!』


 目の前で漂うその右腕を、ブルドガングの炎の腕を振り上げて叩きつける。一瞬、先程まで漂っていた黄金騎士の右腕は地面に叩きつけられば内部からの爆発、そして発火。ブルドガングの足元で溶解し炎の中で形を変形させながら、欠片一つ残さずその 場から消滅した。

 塵も残さず燃え尽きたことを確認すれば、横になっているはずのザイフリートの方を見る。しかし、そこにはザイフリートは既にいない。先程まで地面に横になっていた形跡が残るばかり。


 『どこだ! ザイフリートッ!』


 叫べば、頭上に気配を感じて上を見上げた。


 『こちらです。レオン』


 「お前……。その姿はなんなんだ……!?」


 レオンは驚愕の声を上げた。

 ブルドガングの頭上では、先程まで横になっていた黄金の鎧が空を漂う。

 胴体、大剣を握る左腕、脚部、浮かび上がるのは大きく三つに分かれた体のパーツ達。その体の一部たちが、まるで天井から糸で一部分ずつを紐で引っ張れられているようにぷかぷかと浮かぶ。その光景には現実感など感じられず、レオンは夢の中にでもいるような錯覚を感じた。

 パンパンパン。拍手の音が加わり、非現実が加速する。カイムは愉快そうに手を叩き始めた。


 「相手が悪いんだよ、レオン。セトは無口だから、私が教えてあげるよ。……それは種も仕掛けもなければ手品でもない。ブルドガングも機体の能力を高める特性であるアンドラスモードを持つだろう。これも一緒さ、今レオンが見ているそれは、紛れもないザイフリートが本来持つ特性の力。――王の棺ファーブニール」


 刃を交えたレオンの脳裏に悪い予感が浮かぶ。

 鎧を貫通させ、炎で敵の腕を燃え溶かした。これだけ考えれば、相手に致命傷を与えているはずだ。例えば敵が物体を浮かす能力なら、空を漂う鎧を全て燃やし尽くせばいい。それなら跡形もなく奴を消滅できはずだ……しかし――。


 「……まさかな」


 レオンの呟きが聞こえたのか、カイムは歪みぱなしの口元さらに曲げた。


 「……馬鹿げている、とでも言いたいのかな。いいや、君の予想は恐らく正解だ。……試してみるといいよ」


 レオンは余裕の溢れたカイムの声に神経を思い切り撫で回されるような不快感を感じる。

 自分の中にある悪い想像も考えも未来も搔き消すように宙に浮かぶ鎧へ向けて地面蹴り上げて跳躍した。


 

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