風香町への帰還
8:50 霊法駅
桜は大急ぎで風香行きの電車に乗った。
空いている席を探して車内をうろうろしていた。
(黒葉美運…神と称する能力者)
考えをまとめると彼の一連の行動の全ては、あのサイボーグを蘇生させる為なら結局こういう結果を招くことになっていたのかもしれない。
「だろうな、あいつの雰囲気はそれをよく醸し出していた」
向かいの席から声が聞こえてくる。
驚いて桜は顔を向けると、そこにいたのは中年のガサガサの髪
「ゼノサキス?」
白衣ではなく余所行きの服装だったので全く気付かなかった。
「帰り?」
桜はその格好から予想してみた。
「そうだ、すこしギルドに近況を報告した」
そこまでいって、左腕を広げて
「ついでに最近能力の調子がおかしいから診てもらってきた」
「能力がおかしい?」
桜は興味がわき、更に問いてみる。
「ちっと前から浸透心理がうまく使えなくてな」
腕をわきわきとさせ、桜に相談をみせていた。
「あなたは図体の割に身体ちっぽけだからね~」
桜は軽く煽って反応をみてみる。
「そうなんだよ、俺ってこんな図体の割にお前よりもへっぴり腰でよぉ」
ゼノサキスは言っていることに気づき、表情が固まる。
が、すぐに冷たくなり、桜に怖い目を向け
「うるせぇよ。喧嘩売ってんのか?てめぇ」
車内で笑い声を響かす二人の能力者達。
はた迷惑な事である。
咳払いをし、ゼノサキスは表情を落ち着かせ桜を改めて見る
サイボーグが無くなっている事に気付き
「ところでその様子だとサイボーグの件はうまくいったようだな」
ゼノサキスは車内電子掲示板の内容を見て携帯をマナーモードにしていないことに気付き、とりだしてすぐにしまいこんだ。
「ええ、なんか負けた感じだけどね」
ゼノサキスは?を浮かべるような表情をしたが特に気にせず
「そうか、じゃあこれからどうするんだ?」
桜は売店で購入したメンテスの封を開け一粒口に含み
「桜木警察署に行くわ、司令部の救出の任がまだ残ってるから」
「そうか、大変だな」
二人して古い付き合いでの仲は簡単に崩れたりはしなかった。
「こんな付き合いも、あまりしなくなったな…」
二人、窓越しに景色をみて黄昏れる
「そうね…」
二人の長い付き合いは学生時代、高校生活の中で始まった。
西暦2107年 風香国立風香自由民権学園
風香町がまだ戦争の拠点になる前の事
国の許可によって動いている学園が存在した。
広大な広さと多額の資金が投入されたここは設備も豊富で、ありとあらゆる科があった。
桜が19歳の機械科生、ゼノサキスは37歳の生物学講師
生物学と機械科の生徒間で、ある大きな問題が発生した。
その問題とは機械科の授業の一環として生物に近い動きをする生物型のロボを作るという内容で、その時のテーマ決めとして決定したのがその頃から目撃情報が相次いでいた覚醒生物を作るという事に決まった。
しかし、設計図の段階で、ある疑問が発生した。
そもそも覚醒生物とは、どのような姿、形をしているのか元となるものが全くなかったのだ。
そこで機械科生達は生物学科に覚醒生物について、できる限りの事について情報を要求したのだ。
ところが生物学科生はその情報についてはまだ国ですら見当がつかないことも多かった。
その為、極秘に近い内容のものだったわけである。
なのにもかかわらず機械科生は力づくででも、その情報を奪おうとした。
その結果、機械科生と生物学科生との能力対抗戦が起こった。
当時のリーダーは生物学科は海化:咲詠という女性で、機械科は桜だった。
桜はこの対抗戦には反対していたが、単位を取るために日々生物学科に交渉を持ちかけていた。
生物学研究室
「何度言ったらわかるんですか!?」
そう、何度目の交渉の事だったのか、うんざり気味に毎日聞いていた咲詠という人物はついにその堪忍袋を爆発させた。
「あなたがたは軽い気持ちで考えているんでしょうけど、私達にとってはそんな物じゃないんです!」
その頃の機械科生というのはサボりの多いものだった。
登校しても煙草、早退はては喧嘩も絶えないものだった。
しかし、必要とあれば、やる気を出すようなそんな者の集まりだった。
常に真面目な態度をプライドにしている生物学科の咲詠からしてみればそれが気に入らなかった。
しかし桜はその一生懸命さを評価していた。
例え生物学科に及ばなくとも、他の科にも不良達は幾らでもいる。
馬鹿にするのも大概にして欲しいと言わんばかりに表情を強ばらせ桜も対抗した
「ですから私達はこんなに頭を下げています。どうかお願いします」
二人が一向に話がまとまらない中、突然、生物学研究室の戸が開き、中年の男性が入ってきた。
その男性は二人を見るやいなや問う
「どうした、さっきから、他の科がうるさいと苦情を受けているぞ!いい加減にそんな書類さっさと渡してしまえ」
男性は機嫌が悪そうだった。
その頃は特に機嫌の悪い時だったとよく覚えている。
「あ、はい、加藤先生」
咲詠は桜に書類を渡した。
加藤というのは当時のゼノサキスの本名だった。
そして咲詠はそんなゼノサキスの片思いでもあったのである。
これで単位は取れると、桜は機械科棟へと作業に戻っていったのだった。
そして数日後
ピンポンパンポーン
校内放送で桜が呼ばれた事だった。
同時に生物学科には一人の大切な生徒を失った事が明らかになった。
桜が職員室へと入るとすぐさま加藤が、面談室の鍵をもって桜の手を引いていった。
面談室
加藤と桜は大切な生徒…咲詠の自殺の件での話し合いをすることになった。
なぜなら二人は咲詠の勘違いから互を信頼し合う仲だと誤解を受けたからである。
しかし、誤解であろうとその自殺した事実を消すことはできない。
考えた末に二人は信頼し合う仲を周りに偽るしかなかった。
9:56 風香駅
「結局あの後、私達は何やってたんだろうて話し合ってたのよ」
そして今となっては、二人は咲詠の勘違いを現実のものにするほどになっていた。
「あの時は、流石に俺も言いすぎたと思っている」
二人は改札口を出て、風香町へと入ると
「桜木に行く前に、墓参りしていかないか?」
ゼノサキスは誘った。
「そうね」
と桜は大人っぽい、表情で風香町からでた近くの墓地を訪れた。
海化家墓地と書かれた石碑の前で二人は軽く両手を合わせて頭を下げる。
「咲詠、かつてのお前の講師、加藤だ」
「覚えてる?桜です」
二人は目の前にあの生物学科の女生徒が立っているかのように言葉を上げていった。
「私達、あなたの思う仲になったよ。きっと私達を勘違いしているのは嘘で、本当はこうなることをわかった上で言ったのよね…?」
「全くもって、お前は優秀な奴だ。俺達を引き合わせるために自らあんなことを仕出かすなんてな…」
今となっては、真実は闇の底。
あの時の咲詠は一体どういう気持ちで死んだのか?
過去の言葉でさえもそれはわからない
「あなた達ってば、そんな仲だったのよね!?」
「先生を味方につけるなんて卑怯な手を使ったものね!」
「でも覚えていなさい!私はあなたみたいな軽い女なんかじゃない!」
「私は真面目な女、だから私は自分を見失ってしまった!」
「もうどうしようもない。取り戻しようもない」
「でも、自分のプライドだけは守れたわ!ラー家のあなたに性格で勝てた」
「それだけで私は十分だわ!」
「もう、涙も尽きた」
「私、もうこのまま無に縛られるのなんてゴメンだわ!」
「だから、なくなってやる!あなたと!先生を繋げて!」
学園の屋上で叫んだ女生徒は鉄の柵に足をかける。
「さよう・・な・・・ら」
そのまま海化:咲詠は死の入口へと身体を残して去っていった。
墓地の前の二人は行き先々で一輪の花を買い、墓地の前に飾した。
そしてもう一度両手を合わせて頭を下げ、墓地を後にした。
風香町に戻り、二人は覚醒生物研究所の前で挨拶を交わして別れた。