地上
同時刻 廃棄地下鉄駅
薄明かりの中で桜は駅にようやく辿り着く
寂れた駅には当然の様に人の姿などはない。
人型のサイボーグを抱えたまま3時間以上線路を伝って歩いてきていた。
「この駅は特急が走っていたのかしらん?」
ホームの段を飛び乗り、近くのベンチにサイボーグを一度下ろす。
「ふぅ…喉が乾いたわね。持ってきた水はもうないし…」
言ってから桜は財布を取り出し、小銭を取り出してバックに仕舞う
「少し待っててねー、お水買ってくるから」
頭部がなくなりプログラムを失って動くことのないサイボーグに言付けて桜は自販機へと向かった。
あの後、桜は一度自分の工場だった場所へ戻り頭部の修復をしてみたが、どういうわけか桜の知らないパーツが使用されていることがわかった。
無視して、そのまま元の頭部にしても良かったが起動しなかった場合を考え、風香町にいる研究員に訪ねてみることにしたのだ。
そして今まさに長い地下鉄駅までずっと抱えていたわけだ。
桜も疲れた表情は見せじとしているが、我慢してるのが余計に疲れてみえてしまっている。
サイボーグにないのは頭部だけで胴体に接続されているマニピュレーターは自立発電式によって動いているため、情報を取得することはできるが頭部のプログラム機能の一つに記憶デバイスが搭載されていたため、頭部のない今ではただ、撮影しては保存せず破棄しているという状況だった。
「なにこれ!?お金食べられたじゃない!」
一方、桜の方はというと廃棄地下鉄に置かれていた自販機に販売停止なのにも関わらず、入れたお金が返ってこないことに対して数分程いがみ合っていた。
しばらくして、桜はベンチまで戻りサイボーグと荷物を抱えてホームのエレベーターを使って上がっていった。
利用者のいなくなった改札口は軽く飛び越えて出口の看板と書かれた階段を上がっていく
5:00 風香町
自然に溢れた町といわれ、たくさんの観光客で年中賑わっている。
それが風香町。
今は雨のシーズンで観光客は激減しているようだ。
チャンスとばかりに桜は案内板を見始めてた。
「あいつのところは…ここから2m先ね」
すぐに歩き出し始め目的の場所へと向かう。
桜は焦っていた。
今の格好…十二単の姿はあまりにも目立ちすぎる事に
桜の言うあいつのところに行けば何か服を貸してもらえるかもしれないと、急ぎ足で向かっていったのだった。
やがて、大きな高層ビルが見えてきた。
すぐに玄関まで入ると、目的の人物が出席しているのを確認し階段を上がっていく、が
「どうして24階にいるのよ~!!」
5/6と目の前の壁に書かれた数字が見える場所で桜は立ち尽くし叫んだ。
さっきから階段、階段と階段ばかりを上がってきていた桜はサイボーグを一度、段におろし桜も座った。
「よりによって24階とか、もっとエレベーターを使っておけばよかったわ…」
桜が顎を付いて、ふてくされていると
「なら、エレベーターを使えばよかっただろうに」
後ろから低めな男性の声がした。
振り返ると中年っぽい姿で無精髭を生やした男が書類の束を片手に桜を見下ろしていた。
「ゼノサキス」
桜の目的の人物はこの男だった。
白衣姿にガサガサの髪、手入れはかなり怠っているようだ。
「うちの会社に何の用だ?ここは覚醒生物の研究をしている生物会社だ。お前は機械系じゃなかったか?」
ゼノサキスという男は桜の隣にある頭部のないサイボーグを見て言った。
「お願いがあるの。この子を少し見てくれないかしら?」
ぶしつけな頼みだが聞いてくれると信じて桜はお願いをしてみた。が、
「おいおい、馬鹿言うんじゃねえぞ!さっきも言ったようにここは、覚醒生物の研究を一環としている会社だ。機械の研究なんざやってねえ!それに俺に機械を見せて俺に何かわかるのか!?」
ゼノサキスは怒鳴る様に言葉を強く言い放った。
しかし桜も負けじと
「私にもわからないパーツがあるの、もしかしたらあなたならわかると思って」
「機械にちんぷんかんぷんな俺に何がわかる?いいから仕事の邪魔だ!出て行け!」
ゼノサキスは階段を降りていき、桜の隣にあったサイボーグを蹴り倒した。
「あー!」
2段ほどだったので傷などはつかなかったが、ガシャン!と狭い階段の踊り場には、これでもかという程に響いた。
「さっさとそんな壊れたサイボーグなど処分してしまえ!全くお前は機械にも命があるなどと、わけのわからんことを言いよって!だいだいお前はっ・・・むっ!」
そこまで言ってゼノサキスは言葉を止めた。
サイボーグの頭部から何やら機械に合わない様なパーツが見え隠れしている。
ゼノサキスの詰まりに気づいた桜はサイボーグを子供守るかのように抱くと
「この子…本当は命のある子だったかもしれない・・・わよ」
静かに桜はそう呟いた。
5:26 覚醒生物研究ビル24F
自動式のドアがスライドしゼノサキスと桜は入室する。
「俺はこの書類を届けてくる。それまでここで自由にしておいてくれ、いいか?他の部屋に入ったり、あんまり周りのもんは触るんじゃないぞ!いいな?」
そう言付けて、ゼノサキスは再び部屋を出た。
桜は部屋の中を見渡す
かなりの広さであるざっと60坪はあるんじゃないだろうか?置かれているもの物は注射器やビーカー、フラスコや試験管等、理科室の様な空間を容易にイメージできるような感じだった。
しかし、そうは思わせないのがこの広い空間を最も阻めている箱檻
幾つもあるその中には一般に知っている猫、犬、鼠と言ったものではなく、ハイエナ、ワニなどの危険生物に果ては透明化した生物までいた。
しばらく見入っていると自動ドアが開き、ゼノサキスが戻ってきた。
「早かったわね」
桜の言葉にゼノサキスはホッとしたように
「ガサ入れ等はしていないようだな」
と言葉を返した。
「私がそんなことするわけないでしょう?あなたとは古い付き合いでわかっているはず」
やけに気に障ったようで桜は頬を膨らましていた。
ゼノサキスが腰掛に座ると
「悪かった悪かった。で、まずはその部分を調べる必要があるな」
すぐさまゼノサキスはテーブルを用意しサイボーグをその上に寝かせ、
大きな機械を押して来た。
「それは何?」
桜は見たこともないやたらとごちゃごちゃした機械を見てたゼノサキスに聞いた。
「すぐにわかる。といっても独語だから意味は不明だろうな…こいつが、このサイボーグの不明な部分がなんなのか」
ゼノサキスはサイボーグの腹部当たりの硬盤を外すと、幾つもの端子部が現れた。
その端子部に色の合う端子をつなげていく。
「この会社も戦争に参加させられている。コンプレクシティに対抗するためには、それに見合うモノを作らなければならない。」
ささっとサイボーグの端子部に無数の端子で埋め尽くされ、大きな機械の電源を入れた。
「その辺の箱檻の奴らは、全て実験生物だ。俺達は覚醒生物を作り、奴らにに目にものを見せてやろうとしている」
機械に取り付けられた液晶画面に解析中の文字が流れ始める。
すぐに解析終了と切り替わり、画面が切り替わったが
その結果を見るやいなや、訳のわからない英数字の羅列。
何かの暗号か何かだろうか?
「やはりな…」
桜は頭がおかしくなりそうになりながらもゼノサキスの方に首を向ける
「俺の思った通りだ。お前は貴重なモノを生かしたな」
6:00 風香町:覚醒生物研究ビル前
桜は再び駅へと向かった、正規に稼働している駅の方へと
先ほど、ゼノサキスから言われた事を思い返してみた。
「これは人間の皮膚だ。それも覚醒生物ではなく、俺達能力者と密かに共存していた地球人だ。」
ゼノサキスは解析結果の表示された画面をさらに見て言った
「その上、こいつはまだ生きている。お前が頭を無くすだけでよかった」
ゼノサキスは桜の何から何までの行動が全て良点だったと言った。
その桜は、これからどうしたらいいのか問いた。
「とりあえず俺にできるのはここまでだ。こいつの修復は霊法町のセイレーン教を頼れ」
ゼノサキスは椅子に再び腰を下ろす。
その時、桜は自分の耳を疑った。
「え?…今なんて言ったの?」
聞いてはいけない事の様な悪感のようなものが伝わってきていながら、恐る恐る聞き返す。
「霊法町の邪教徒セイレーン教を頼れ、彼等ならこの皮膚の修復など容易いだろう」
ゼノサキスは事務机の引き出しから定期券を出し、桜に差し出した。
「あいつらと関わりがあるの?」
桜は少し強ばった表情で聞いた。
「研究の一環として一度だけだが教祖とも対面したよ。好青年のような姿をしていたぞ。あれでお前より4倍近く歳があるとはとても思えん」
腕組みをしながら煙草を加えた。
「そう、また乗り移ったのね」
「その様だな」
火を点けふかし始める。
桜は立ち去ろうとしていたがもう一つ…
「えっとね」
頼むことがあった。
「何だ?まだ何か…」
「服…かしてくれないかしら?」
ゼノサキスが言い終わる前に桜は十二単をくいっくいっと指でつまんでこれこれっと、おねだりしてみせた。
とても236歳がする仕草とは思えなかっただろう。
ゼノサキスはしばらく、しかし何度も今の言葉と桜の仕草を思い返しやがて
考えるような素振りのあとに「俺は、お前のサイズがわからないから少し脱いでもらおうかな?」と、長く考えた末こんな言葉を返してきた。
はうっ!っと桜は自らを守るように腕をクロスさせて胸に当て、精一杯ダメだという合図をしてみせた。
しかしそのあとでゼノサキスは似合わないような高笑いをし「冗談だ」と申し訳なさそうに見えない態度を返した。
彼から見て前方の方を指差し
「そこに家内の服が何着かある。好きなのを来ていけ」
と言った。
桜は誂われた事に悔しくなり
「へぇ~奥さんなんていたんだ」
と、逆手に取ってやろうとすると
「やはり脱がすか?」
怖い顔をしたので頭を下げて謝った。
今の格好はゼノサキスの奥さんの格好をしている。
「一体、どんな人なんだろ?」
あの男の奥さんとは思えない。
腕を上げればヘソが見えてしまうくらいタイトなタンクトップ、その上に半袖のシャツを羽織る。尻の肉がはみ出してしまうのではないかというくらい短くカットされたジーンズから伸びるお御足は肉がなさすぎず付きすぎずでスラリと長い、一体どのような人なのだろうか???
「まあいっか」
と桜は気にも止めずサイボーグと荷物を再び抱え、風香駅へとむかったのだった。