第二章~入口からの声~
「起立、気を付け、礼」
『おはようございます』
日直の声とともに始まるHR。今日の日直は、委員長だ。委員長――阿波井総一は、爽やかな顔つきに誰にでも優しい性格。スポーツ万能、成績も学年トップ。その上先生受けがとても良いという名前の通り総てが揃っている。校内で知らない人は居ないと言う位有名だ。
僕のクラスの担任、鈴城凛先生は、社会科担当している。真っ黒な髪の毛に、濡れ羽色の瞳、皺一つ無い黒のスーツ。その反面、肌は透けるように白い。若干ずれた眼鏡は、赤い縁だ。
「連絡は二つ。今日は、帰りのHRで新しい委員会を決めるから考えといて。それから……本宮は後で私のところまで来るように。じゃ、以上」
呼び出しか……何のことだろう? 思い当たることは特に無いけど。後でってことはHR終わってすぐかな。
窓側の僕の席からは、校庭が一面見渡せる。秋に入ったばかりとは言え、落ち葉がヒラヒラと落ち始めていた。
委員長がまた号令を掛けてHRを終わった。
〈HR終了後、社会科準備室にて〉
鈴城先生に此処――社会科準備室――で待つように言われたのだが、なかなか来ない。そろそろ次の授業が始まってしまう時間なのだが……。
「ごめん、遅れた」
ドアが開いて入って来たのは、鈴城先生と……誰だろう?
鈴城先生の後ろから入って来たのは、紺色っぽい髪の毛に灰色の瞳をした長身の男の人だった。凄く綺麗な整った顔をしている。服装は……コスプレなんだろうか……? 黒いロングのコート(パーカー?)グレーのTシャツに黒い革のズボン。首には十字架のペンダント。左手首にもブレスレットが幾つかチャラチャラと音をたてている。
「鈴城先生……あの、次の授業に遅れそうなんですけど……」
「そのことなら心配ない。本宮は私の私用で一時間目は欠席ということになっている」
「え……? 私用って……学校関連じゃないんですか?」
「ええ、違うわ」
サラッと認めたけど、学校に私用で通るのか……。凄いな。
僕としては、苦手な一時間目の科学を受けなくて済んだから、ラッキーだと思っておこう。
「じゃあ、僕は、何についての話で呼ばれたんですか?」
「そうね、とりあえず座って話しましょう」
社会科準備室には、四人で座るのが限界な小さめの机がある。
僕の向かいに鈴城先生。鈴城先生の隣にあの男の人が座る。
それより……この人誰なんだろうか?
「鈴城先生、あの……隣の男性は……?」
「ああ、紹介が遅れたわね。これから話す話に関係あるの」
あの男の人が僕の目をまっすぐ見てくる。そして、口を開いた。
「覚えてるか? サランだ。正式には、サラン・ジェ・ロードという。サランと呼んでくれ」
聞き覚えのある低い声は、今朝の夢に出てきた声だ。サランと名乗ったのだから本人で間違いないのだろう。
「サランって夢に出てきた……」
「それは、声だけだが確かに俺だ。詳しいことは、今から凛が説明する。いいか? 今から話すことは、決して嘘でも冗談でもない。事実だ」
「は……はい」
サランの気迫に押されたのか咄嗟に「はい」と言ってしまった。
「そうね。まず、私たち――サランと私は……異世界から来た魔術師よ」
「魔術……師……?」
「そう、魔術師よ」
すごく驚いた……と言うか、急に魔術師だ、異世界から来たなどと言われたら普通は驚くはず。
それより、本当なんだろうか……。
「まだ信じてもらえてなさそうね。サラン、見せてあげて。抑えてね」
サランは黙ったまま席を立ち、十字架モチーフのペンダントに手をかけた。そして……。
「うわっ!」
思わず目をふさいだ。ぱあっと溢れるきらきらとした光に耐えられなくて。
次にサランを見たとき、サランの手にあったのは――。
「剣だ……」
そう、見ればすぐわかる。剣だ。
見間違うはずがない。鋭く光る剣先。サランの身長より少し短いくらいの長剣だ。サランが持っている部分には、十字架の面影が残っている。
「信じてくれたか?」
目の前でこんなコト見せられたら、信じないわけにもいかない。
それに……なんだろう、この本を読むときに似た感覚。
「簡単に説明するけれど、私たちの元居た世界――魔法界は今、あなたのお父さんが封印したはずの男によって滅ぼされようとしているの」
「えっ! 父さん!?」
「そうよ。弥生でしょ? 私たちと共に旅をした仲間よ」
ということは、父さんも……魔法を使ってたのか?
「正確に言うなら、俺たちの隊の隊長だったんだ」
付け加えるようにサランが言った。
「で、本宮には、その男に気を付けておいてほしいの。きっと弥生の息子であるあなたは狙われるから」
「はい、まだよく分からないところもあるんですけど……とりあえずその男に気を付けとけばいいんですよね?」
「そうだ。それから“夢の扉”にも気を付けた方がいいだろう」
そういえば、“夢の扉”って今朝の夢の中でも言ってたな。
「あの……。その、“夢の扉”って何のことですか?」
次は、鈴城先生が説明してくれた。
「“夢の扉”っていうのは、今日サランがあなたにやったような魔法の事なの。夢の中に魔法界への扉を作る。そして、寝てる間に魔法界に引き込まれる」
「気を付けるってどうすればいいんですか?」
「気を確かに持つこと。自分の選んだ道に迷いが無ければ、引き込まれることはない」
父さん、今どこに居るんだろう……。その魔法界というところに居るんだろうか。生きているのかも分からない。心配なのに……心配で仕方ないのに僕にはどうすることも出来ない。
「わかりました。それから、父さん、その……魔法界の方に居るんでしょうか……? 四年前から行方不明の状態なんですけど……」
俯きながら僕は言う。僕の言葉から少しの間を置いて、サランが答えてくれた。
「すまないが、俺は知らないな」
「私もよ。力になれなくてごめんなさい」
鈴城先生も少し俯きつつ言った。
「いえ、知らないならいいんです……」
サラン達なら知ってるかと思ったのだが、知らないらしい。もし、これで安否がわかればと思ったのだが……。
「じゃあ、そろそろチャイムもなるので行きますね」
サランの横を通り過ぎて、ドアをガラガラと開け廊下に出た。
廊下は肌寒く、シーンと静まっていた。僕は独り自分の教室に向かって歩き出した。
この後、いつも道理授業を受けた。
『僕の中のもうひとつの物語』前回、第一章に引き続き、第二章です。
第一章を読んでくださった方ありがとうございます。
まだまだ続くと思われますので、飽きずに見ていただけたらと思います。……飽きられないような作品にしていきたいと思います。努力します。
でわ、この辺で。