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その選択に悔いあらんことを



 白く、ひたすらに白が広がる空間。

 壁も、床も、天井も。その全てが白で埋め尽くされている。一定間隔で配置された照明は影の存在することを許さず、無機質さを強調している。


 その部屋の中央には、規則正しく円形に並ぶ百基の培養槽があった。透明な筒状をしたそれらの容器は全て、白濁とした液体に満たされ、その中心には──人間の脳が、静かに浮かんでいた。


 それぞれの培養槽には無数のチューブとケーブルが伸び、部屋の中央に吸い込まれるように繋がれていた。天井には監視を目的としたであろう、これまた白に染められたカメラが幾重にも配置されている。


 ここはとある山奥の研究施設。対外的にはゲーム会社として存在しているが、その実態は道徳的的に、あるいは法律的に禁止されている実験を行うための非人道的空間。


  「西暦2045年だったか。人類は急速な科学技術の発展により、地球上のありとあらゆる問題を解決し終え、最後に一つ強大な難題が立ちはだかった」


 そんな異様としか呼べない空間に不釣り合いな程落ち着いた声が響き渡る。白衣を着た、三十代の研究者らしき女性。彼女は培養槽のある空間の隣の部屋に設置された操作卓の前に立ち、まるで誰かと会話するかのように言葉を紡いでいる。


 「それは人類最大の夢にして悲願。決して老いず、決して死なない究極の肉体。すなわち不老不死。それを越えるべく、政府は二千億ドルの懸賞金をかけた。本当に大したものだよ」


 彼女は肩をすくめ、小さく息を吐く。そこには、呆れとも嘲りともつかない軽い笑いが混じっているように感じた。


 「まあ、そんなことはどうだっていい。金なんて現代ではあってないようなものだからね。資源もエネルギーもエントロピーの減少を成し遂げられた今はほとんど無限と変わらない。貨幣の価値もあると便利だからあるという状況だ」


 その価値も、支配者階級にとっての価値しかない。 そう彼女は小さく呟き、目の前にあるレトロ品──個人用電子計算機、つまりパソコンを操作する。

 画面上には複数のウィンドウが表示されていた。

 仮想環境同期率向上速度、脳波変化量解析データ、培養槽内サローフローム減少量……どれもこれも、一般人には理解できない情報ばかり。

 それらを軽く指で弾くように操作しながら続ける。


 「私にとって重要なのは政府が不老不死を求めたことだけだ。政府が求めたということは、世界が求めたということでもあるからね」


 視線がゆっくりと目の前の培養槽の方に向く。

 百の脳。

 百の人生。

 そして、百の落伍者達。


 「私はこれまで、たった一人で不老不死という至上の命題に取り組んで来た。そのためにできることは全てやった。そのためなら何でもできた」


 「医者となって仕事の合間を縫って研究を行い、人類の寿命を十倍に引き上げた──不老不死は叶わなかった」


「医者を辞めて本格的に研究者となり、不老を成し遂げた──不老不死にはなれなかった」


 その声は小さく低く、おぼつかない。しかし、確かな覚悟と執念が滲んでいた。


 「結果、人が不死となることは有り得ないということだけが分かった。私は初めて神を嫌った。だから……」


 白衣の胸ポケット付近から、小さな電子音が鳴る。短く、規則的なアラーム音。


 「あぁ、あぁ、失礼。私としたことが、つい長話をしてしまった。それで何の話をしていたか」


 そう言う彼女は、先程までの狂気的な気迫が別人であるかのように、ゆったりとした声音をしていた。


 「そうだ、君達がこれからすることの最終確認をしていたのだった。とは言っても殆ど言ってしまったからな……」


 視線を手元のパソコンへと戻し、慣れた手つきで作業を進める。


 「もう一度おさらいと行こうか。君たちはこれから仮想世界へと行くことになる。滞在時間は一万年。仮想世界の名前はカクリヨだ。」


 「カクリヨは異世界をモチーフとしたゲーム的な空間だから、ゲーム的なものが沢山ある。その中にはかなり凶暴な魔物もいる」


 「君達は一万年という長い時間を生き残らなければならない。まあ死んでも問題はないが」


 「精々、生き足掻いてみせてくれ」


 そう言って数瞬もしない内に部屋全体が光に包まれ、仮想世界カクリヨへのダイブが始まった。





 《仮想世界カクリヨへの接続を開始します》


 ……あの人、結局自分の言いたいことだけ言って終わったなぁ。ホント、質問色々したのに自分の世界に入り浸っちゃって。

 

 《被験体No.66:同期確認》


 なるほど。彼女は僕達を番号で管理しているらしい。やれお前達は社会不適合者だとか、やれ脳しかない癖に学がないとか何とか言っていたから言っていたから驚きはしないけど。


 《神経信号の再構築を開始》


 光が見えた。最初は赤、続いて青、緑というように、少しづつ色が増え、広がっていく。と同時に突然、体の重みを感じた。

 落ちる──と思ったが、別にそんなことはなく、足はしっかりと地面に着いていた。


 それにしても……


 足元を見る、足がある。手元を見る、手がある。息を吸う、現実と変わりなく呼吸ができている。現実では脳だけの存在であるというのに。


 オーバーテクノロジーというレベルを遥かに超えているような気がするのは気のせいだろうか。

 ……まあいいか。それより、他にどんなことができるか一度試してみよう。


 《仮想世界カクリヨへようこそ》


 そうやって屈伸でもしようかと試みたとき、目の前に半透明のウィンドウらしきものが映し出された。

 ステータス、設定、インベントリ……どこからどう見てもゲームのそれである。


 《基本操作の確認を行います。右足を一歩、前に出してください》


 チュートリアルってことでいいのかな?

 そう思い、とりあえず、言われるがままに右足を前に出す。


 《左足を一歩、前に出してください》


 ……いや、これはあくまで動作確認。きっとこの後は歩くことを指示されるはずだ。指示の通りに左足を前に出す。


 《右足を一歩、前に「スキップ」一度スキップしてしまうと「スキップ」本当に「スキップ」基本操作の確認を終了しました。お疲れ様でした》


 面倒な手順を飛ばせたことに、思わず心の中でガッツポーズを……


 「……飛ばしたら駄目なやつでは?」


 僕達は烏合の衆。足りなければ人員を追加することもできるはず。それなのに、ここまで面倒な指示を出すということは運営側も慎重にならざるを得ない何かがある?いや万全を期してということもあるかもしれない。きっとあの培養槽を用意するのにも時間と労力が《これよりキャラクタークリエイトを開始します》 ……とりあえず一からできないか聞いてみるか。


 「動作確認をもう一度することはできる?」


 《キャラクタークリエイトを開始します》


 無情にも、帰ってきたのは定型文だけだった。まあ、つまりはそういうことなのだろう。


 「キャラクリするか……」


 過ぎてしまったものはしょうがない。仕方なくキャラクタークリエイトを始める。

 目の前にある半透明のウィンドウには、種族や職業、そして数え切れない程のスキルがあった。


 種族は人族と魔物の二つだけ。魔物は種類が豊富で珍しい所ではカタツムリみたいなモノもある。そこに需要はあるのだろうか?


 職業は種族の延長線上にあるらしい。例えば、人族とカタツムリ。人族は家具職人になれるがカタツムリだとなれない、という仕様になっている。

 また、人族は職業に就けるが、魔物を選ぶと職業欄が消えるとある。その分魔物はステータスが人族より高くなっているらしいけど。


 最後に、スキル。スキルは種族スキルと職業スキル、共通スキルがあり、スキルポイントで取得することができる。その数は脅威の五万。膨大な数のスキルには、運営も把握していないものも多いだろう。ゴミ箱シュートなんて誰が使うんだ……


 ……これどこまであるんだ?



 好奇心で下の方までスクロールしてみたけど、一分もかかるとは思わなかった。幸いにして、事前に配られたマニュアルを読み込んでおいたから既にやることは決まっている。


 僕は吸血鬼になる。


 吸血鬼。夜に紛れ(日光を浴びると死ぬ)、夜は最強とも言える力を発揮し(日光を浴びると死ぬ)、日光を浴びると死ぬ(太陽に嫌われている種族)──ロマンだ。


 そんなクソ雑、限定的な条件下で強くなる種族を選ぶ理由はただ一つ。つまり、なんかかっこいいから。


 そんな想いを込めて、


 僕は種族:魔物から吸血鬼を選択して──《最大許容人数を超過しています》



 ……はぁ?

誰もが書くといふVRMMOものといふものを、素人なる私も書きてみむと思ひて、書くなり。むりぽ

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