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1、遅刻者根絶計画  作者: 黒十二色
第6章
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第6章-2 ペダルを蹴り込んだ

 秋川のこと、あんじぇらのこと、全てを思い出した。

 二人が居なくなって数日後、あたしは、時田まことに問い詰めに行ったんだ。


「私……失敗したですか?」

 時田まことという女は、瞳をグラグラさせた後、逃げるように俯いた。

「何で目逸らしてるのよ。真面目に会話する気あるの?」

 まだ高校二年だった頃のあたしは、あたしよりも背の低い彼女の胸倉を掴んで、彼女の目を見てそう言った。

「私……」

「失敗って何よ」

「秋川あきひとの遅刻癖を治そうと……」

「どうしてあんたがそんなことをする必要があるのよ」

「それは……」

「言えないっての?」

「言えません」

「どうして?」

「言ってはいけないからです」

「何が失敗なの?」

「あきひとさんは、遅刻をしないどころか、人として壊れてしまいました」

「壊れた? な……何……言ってるの? 秋川は何処にいるの? それからあんじぇらは?」

「あきひとさんは、遠くの街に居ます。あんじぇらさんは、消えました」

「え?」

 耳を疑った。消えた、と言ったのか、と。

「消えた?」

「正確に言いますと、最初からいなかったことになりました」

 そんなことあり得ない、とその時のあたしは思った。

 だけど、事実、あんじぇらが生徒指導室に呼び出された翌日に、あんじぇらと秋川は失踪していた。

 時田まことは、一体何者だろう。

 少し他人よりも発育の遅い女だということしか、あたしにはわからなかった。

 きっと自分の正体を明かすこともしないだろうから、気にしても仕方がなかった。

 訊かなければならなかったのは、秋川のことだった。秋川は、遠くの街に居るだけで、消えたりしたわけではないらしいんだから。

「秋川の居場所、詳しく知ってるんでしょう? 教えてよ」

「ダメです」

「どうして?」

「そういう、きまりなんです。江夏さん。貴女の記憶も、消させてもらいます」

「記憶を消す?」

「ハイ。痛みはありません。すぐに済みます」

「……っ」

 その時、あたしは、逃げようと走った。だけど、すぐに捕まったのだろう。

 その後の記憶は曖昧だ。


 失敗?

 秋川が壊れた?

 ――あり得ない。

 秋川はそんなことくらいでダメになったりしない。

 なっていたとしても、あたしがこっち側に引き戻してやるんだ。

 絶対に!

 どうしてあたしは、あんじぇらのことだけではなく、秋川のことまで忘れてしまっていたのだろうか。あんなに好きだったのに。

 秋川も秋川だ。

 時田まことなんていう女に振り回されて、あたしのことを信じもしないで、遠くに行くなんて。

 会ったら、一発蹴ってやろうと思った。

 運命に敗北した罰としてだ。

 家に帰って、すぐに大荷物を準備して、家を出ることにした。

 秋川を見つけるまで帰らない覚悟だった。

 少しも遊ばずに勉強したおかげで、お小遣いを使い込んでなくて、何日か過ごせるだけのお金があった。

 そのお金も持って出る。

「いってきまーす!」

 あたしがそう言うと、お母さんがパタパタと歩いてきた。

「なつみ、行くって、何処に? そんなに大きな荷物持って……」

「ああ、これね。中身は全部お菓子だよ。友達の家でパーティーやるから」

 あっさりと嘘を吐いた。中身は、服とか寝袋とかだ。

「そう、行ってらっしゃい」

 お母さんの笑顔が、痛かった。

 きっと、心配されるだろうな。

 帰ったら、怒られるだろうな。

 だけど、それでも、あたしは、この世界のどこかで苦しんでいる秋川を助けたいんだ。

 その為には、何千何万の嘘でも吐いてやる。

「……行ってきます!」

 あたしは、外に出て、自転車に跨った。

 目指すのは、目指すのは……何処?

 秋川は何処にいるだろう。

 あたしの記憶の中の時田まことは、「遠くの街に居る」言った。

 ――遠くって、何処?

 あたしは最初に、秋川の家に行ってみることにした。

 でも、秋川の気配どころか、誰も住んでいないようだった。

 次に行ってみたのは、あたしたちの住む街を見渡すことのできる丘だった。

 そこにも彼の姿は無く、あたしは引き返そうとする。

 と、その時、輝く光の線が見えた。

 この光の先に行けば良いんだ。と思った。

 秋川の居る場所が、何となくわかる。秋川の通った道が見える気がする。

 あたしの直感と霊感で、すぐに見つけ出す自信があった。

 あたしは、絶対に運命に敗北したりしない。

 奇跡は、このあたしが起こしてやるんだ。

 その為に、友達が待つ卒業式の打ち上げにも行かず、お母さんに嘘まで吐いた。

 勝手な考え方だけど、あたしにここまでさせておいて、秋川が見つからない筈がないんだ。

 このあたしに。

 光の線に導かれるように、あたしはペダルを蹴り込んだ。





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