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1、遅刻者根絶計画  作者: 黒十二色
第6章
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第6章-1 卒業式の後

「なつみー、写真撮ろう、写真」

「いいよー」

 カシャ。

「あたしのもお願い」

「うん」

 パシャ。

 ピースサイン全開。あたしは友達と、インスタントカメラで記念撮影合戦をしていた。

 フラッシュで肌が焼けそうなほど、大量の写真を撮り合った。

 卒業式が終わって、担任教師の話も終わった。あとは帰るだけで、高校生活とはお別れだ。

 高校三年間、色々なことがあった。

 一年生の時、先輩から呼び出しをくらったことも、二年生の時に顧問の先生が学校をやめて、所属していた卓球部が廃部になってしまったことも、三年生の時は勉強漬けだったのに、結局どこの大学にも合格できなくて浪人が決定したなんてこともあったけど、高校生活は楽しくて、かけがえの無いものを、あたしに与えてくれた。振り返ればあっという間だった日々。

 何となくノスタルジー。

 望んでいた「彼氏」というものは、とうとうできなかったけれど……それ以外は最高の日々だった。

 友達の卒業アルバムにメッセージを書き込みながら、そんなことを考えていた。

「ねえ、打ち上げやろうよ、打ち上げ。なつみも来るでしょう?」

「もちろん!」

「決まりね! 飲むぞぉ!」

「飲むって、何を」

「お茶に決まってるじゃない」

 フワフワとした会話をしながら、ゾロゾロと教室を後にする。最後に出るあたしは、電気を消して外に出た。

 ――あ、春木くん、どうしてるかな。もう帰っちゃったかな。

 そう思ったあたしは、少し開いていた扉の隙間から隣のクラスの教室を覗いた。

 そこには、一人の女子が、一人きりで座っていた。

 ぼんやりと壁に掛かった時計を見つめているような感じだった。

「え?」

 思わず声を上げて、目を擦ってからもう一度見ると、誰も居なくなっていた。

 代わりに、鞄が一つ、女子が座っていた席の上に乗っていた。

「どうしたの? なつみ」

「あ、えっと、誰かの忘れ物が……」

「え? どれどれ。あ、本当だ。鞄忘れてるね」

「あれじゃね? もう教科書なんていらねえから置きっぱで帰ったんじゃね? 男子ならやりそうじゃん、そういうこと」

 男子じゃない。女子だった。どこかで見たことがあるようなシルエット。

「あるある、ウチの相方も教科書教室の窓から投げよったとか言っとった――」

「……相方って……カレシいたの? あんた」

「あ……」

 そんなことはどうでも良かった。

 二年生から三年生になる時には、クラス替えというものが無かった。

 だから、隣のクラスは、春木くんのクラスだ。

 春木くんなら、何か知っているかも。

「ウチことは気にせんでよ、で、あの鞄、気にならん?」

「なる!」

 あたしだけが言った。

「よっしゃ、見よか」

 決して関西弁ではない関西風の喋り方をする友達は、三年一組の教室内に躊躇うことなく足を踏み入れた。あたしもそれに続く。

「二人とも、私たちは先に行ってるわよ。いつものお好み焼き屋にするから」

「わかった」

 あたしと友達は同じように振り返り、同じように頷いた。

 クラスの皆は先に行ってしまい、あたしたちは暗い教室の中を進み、件の鞄の前に立つ。

「あけるよ」

 あたしはそう言って、鞄のチャックを全開にした。鞄の中に手を突っ込み、掴んだものを引っ張り出す。

 ばさ、ばさ。

 鞄の中から次々と出てきたのは、教科書やノートだった。

「やっぱり、男子が置いてったのかな」

 あたしがそう言うと、関西風の友達は一冊のノートをパラパラと捲りながら、

「違うね」

 と言った。

「これは、女子のノート。字もキレイだし、なんかハートマークとかついとるし、むしろ男子のノートだとは考えたくない」

「たしかに……でも……何か……」

 あたしはその時、何かがおかしいと感じた。その違和感の正体を考えて、すぐに気付いた。

「これ……全部二年生の教材だ」

「ほんとや」

 友達は、小さくて可愛い感じの手帳を見つけて、それを開いた。

 そこまで見るのはヒドイんじゃないかと思う。

 でも、誰の持ち物かを確認しないといけないから、仕方ないのかな。

「名前は、柊あんじぇら? 珍しい名前。そんな生徒おったっけ?」

「聞いたことないわね」

「うーん……」

 そして、あたしの手が、鞄の底に残っていた最後の物体を拾い上げた。

「これは……」

 青いナイロン製のペンケース。

「この子、青系の色が好きなんやな」

「そう……みたいだね……」

 あたしは、わずかな逡巡の後、そのペンケースのチャックを開けた。開けてから、開ける必要がなかったことに気付いたが、どうしても開けて、何かを見つけなくてはいけない気がした。そうしなければ、絶対に後悔すると思った。ペンケースの中に指をすべらせる。

「ちょ、なつみ、それは開ける必要ない――」

「ああああ!」

 あたしの大声が、全ての音を切り裂いた。

「…………え? どない――」

「これ、あんじぇら……秋川……の……」

 ペンケースの中の青い固まりに触れた時、体を電流が駆け抜けたような刺激が走った。大量で大切な記憶が、あたしの中で復活した。

 秋川あきひとのこと、柊あんじぇらのこと、時田まことのこと。全て、全て。

「……ど……どない……したん……なつみ……」

 友達は、色んな感情に震えるあたしを驚きの眼で見つめていた。

「ごめん、あたし、行けない、気分、悪くなった」

 気分が悪いのは本当だった。頭がパンクしそうだった。急に解凍された記憶が、次々に脳裏に浮かんで、急には整理できそうになかった。

「なつみ、大丈夫? 霊感強いもんね」

「…………」

「保健室、行く?」

「ううん」

 あたしは首を振った。

 保健室なんかに行っている余裕はないんだ。

 戻ってきた記憶が本当なら、あたしには今すぐやるべきことがあるんだ。

 それに、卒業後に保健室に行くなんて、何だか嫌だ。

「でも……」

「……あたし、用事ができたの。悪いけど、打ち上げには行けない」

「え、そんな――」

「あたしのことは良いから、行って。お願い」

「……わかった。店の場所は、わかるやろ、来れたら来てな」

「うん、ごめん、ごめんね」

「気にせんでよ、またね」

 友達はそう言って、小走りで教室を出て行った。

 あたしは、復活した記憶を、整理しながら、その光景を見送った……。





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