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1、遅刻者根絶計画  作者: 黒十二色
第4章
21/29

第4章-2 最低だ

 教室の扉の前に立った。扉は閉まっていた。

 扉が閉まっているということは、すでに担任の教師が到着している可能性が高いということだ。

「…………」

 恐る恐る扉を開く。

 教室内を見渡して、春木すばるが視界に入った。春木は、もう目を合わせようともしなかった。

「…………」

 いつものような「すみません!」という声すら出てこなかった。そこには担任の鈴木先生がいて、つまり、それは絶望ということだ。

「……遅刻の理由は?」

 鈴木先生は、朝のホームルームを中断して俺を見据えた。

「車に……轢かれました」

「……もっとマシな嘘を吐け」

 信じてもらえなかった。

 本当のことなのに。

 まるで「狼が来たぞ」と言って信じてもらえなかった羊飼い状態だ。

「本当……なんですけどね」

 信じてもらえれば、もしかしたら遅刻が取り消されるかもしれない。

 そんな期待を抱いて呟いた。

「いいから早く席に着け」

 やっぱり信じてもらえなかった。

「はい……」

 自分の席に向かって歩いていく途中に、ようやく足が痛いことに気付いて、それが何だか悔しかった。ふと自分の脚を見ると、転んだ時に擦りむいたのだろう。血が滲んでいた。



 授業が始まると、俺の足は更に痛み出した。

 痺れをまとった鈍い痛みが、左足を包む。

 教室内は決して暑くはなく、むしろ女子がスカートの下にジャージを穿くほどに寒かったが、俺は妙な熱さを感じていた。

 滝のように汗を流す俺。

 痛かったり、強い緊張状態に置かれたときに流れる脂汗というものだろう。

 意識も少しぼんやりとして、視界が霞んでいた。



 痛みに耐えているうちに、あっという間に午前の授業は終わり、昼休みになった。

 この間、俺は、誰と話をすることもなかった。

 誰かと話をする余裕なんて、存在していなかった。

「秋川くん。ちょっと来てくれないかな」

 柊あんじぇらは、そう言って、俺の手を引っ張り立ち上がらせると、人の気配がしない体育館裏へと連れ出した。その頃には足の痛みも和らいでいて、何とか歩けるほどになっていたので、あんじぇらの前で転んだりするというような、情けない姿を見せることもなかった。

「どうしたの? あんじぇら」

「私、遅刻する人、嫌いって、言ったよね」

「…………」

 返す言葉が無かった。

「私は、秋川くんのことを信じたいと思った。信じられる人だと思った。だけど、すぐに約束を破っちゃうし、信じて良いのか、わからなくなるの」

「ごめん」

「謝ったって、意味無いよ。秋川くんが遅刻した所為で、先生がクビになって、卓球部がなくなったんだよ? そのことは話したはずでしょう? どうやって取り返すかなんて、秋川くんが二度と遅刻しないで、二度と約束を破らないで過ごすしかないじゃない。春木くんが愛想尽かしたのが痛いくらいにわかるよ。秋川くん最低だよ。しかも、昨日の今日でだよ? 私は、一体誰を信じれば良いの? 誰も信じられなくなっちゃうよ。そんなの嫌だけど、もう、誰も、信じたくなんかない」

 あんじぇらは早口でまくし立てると、俺の真横を通り抜けて、体育館の壁の裏へと姿を消した。泣いていた。泣かせてしまった。最低だ、俺。あんじぇらまで裏切って……。

 体育館裏、コンクリートの地面に、水滴一つが落下した。




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