表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1、遅刻者根絶計画  作者: 黒十二色
第3章
15/29

第3章-3 カラスが憎い

 更にまた次の日のことだった。

 金曜日で、ここを乗り切れば二日間の休日が訪れる。

 普段遅刻を繰り返していた俺が、遅刻をしないと誓って過ごすということは、強い緊張状態が続くということだ。しかし、すっかり疲労しながらも、時計を見ればいつもの時間。無事起きることが出来たようだった。習慣の偉大さをいとおしく感じた日でもある。

《それでは、週末の占いです》

 平日の同じ時間に流れる占いが始まったのを合図のようにして、テレビの電源を落として外に出た。

「アー、アー」

 数匹のカラスの鳴き声がした。

「アーアーアーアーアー」

 空を見上げてみると、電線にびっしりとカラスが並んでいた。異様な光景だった。青空を黒く塗りつぶすかのようだった。

 黒猫とかカラスとか、黒い生き物は、不吉の象徴として登場することが多いが、ここでもそうなのだろうか。俺は遅刻してはいけない状況で遅刻した。時田まことという謎少女は、俺に「幸せになれない呪いをかける」と言った。

 もうすでにその呪いの中にいるのだとしたらと考えると、少し怖い。

 ええい、細かく考えるな。時間を巻き戻せない以上、寝坊での遅刻という記録が無くなることはない。考えても仕方のないことなのだ。今度こそと俺は人生何度目かの「遅刻をしない」という誓いを立てた。今は、あんじぇらという恋人がいる。守るべき「幸せ」が存在しているのだ。俺は真っ直ぐ前を向いて力強く歩き出す。と、その時だった。

 びちゃ。

 嫌な音がした。頭に、何かが当たった感触があった。

「え……う……」

 何が起きたのか考えて、すぐに思い当たって立ち止まる。

 そして、

 びちゃ。

 また頭に、何かがぶつかった。それは完全な固体というわけではなく、かといって完全な液体というわけでもなかった。温かくもなく、冷たくもない、とても中途半端なものだった。現状の状況から考えて、その正体はただ一つしか思い当たらなかった。

「アーアー」

 カラスの、アホっぽい声が、憎かった。

 ――最悪だった。

 鳥の糞が頭を直撃したという珍しく、かつ大変な憤りを感じる出来事に遭遇したわけだが、冷静になってよく考えるんだ。もしも、このまま学校に行こうものなら「鳥の糞を頭に乗せて登校した不潔男」としてクラスメイトに一生記憶されてしまうに違いない。それは嫌だ。かといって、一度家に戻ってシャワーを大急ぎで浴びてから登校したのでは遅刻が確定してしまう。クールな俺が選択したのは……後者だった。

「ぬぅううおおおおお!」

 大急ぎでシャワーを浴びながら叫ぶ。

 汚いものを落として、着替える。

 大急ぎで、走って学校へと向かった。

 住宅街を抜け、寂れた商店街を抜け、中学校の前を通り、坂を駆け下りた。そこまで来れば、もう高校は目の前。しかし、門を通り抜け、高校の敷地内に入ったところで、

 キンコンカンコン。と。

 無情にも、遅刻確定のチャイムが鳴り終わった……。

「こんちくしょう」

 また、誓いを破ってしまった……。



 僅かな希望を持って開けた扉の向こうには、新しく担任になった鈴木先生がいた。絶望した。

「遅いぞ、秋川。また遅刻か? 懲りない奴だな」

「はい……すみません……」

 どれだけ言い訳をしたって、もう遅刻であるという記録は変えようがない。たった今、鈴木先生が、出席簿に俺が遅刻したという記録を記入したところだからだ。

「はぁ」

 溜息を吐いて、落ち込みながら着席した俺を、席の近い春木すばるが怖い顔で凝視していた。鈴木先生はすぐに教室を出て行き、それを見た春木は、まっすぐに俺の方に向かって歩いて来て、

「おい、秋川」

 俺を呼んだ。

「何だ?」

「もう、遅刻しないんじゃ……なかったのか?」

「実は、カラスの糞が上空から降ってきてな。見事に直撃したんだよ。それで一旦家に戻って頭を洗ってたら、遅れちまった」

「……そうか……約束、だったのにな」

 春木に元気が無かった。

「秋川くん」

 今度はあんじぇらの声がした。声のした方に振り返ってみる。

「ねえ、秋川くん。もう遅刻しないんじゃなかったの?」

「仕方なかったんだよ……」

「簡単に約束を破る男の子、信用できないな」

 耳が痛い。一体何人に同じようなことを言われるんだ、俺は。

「ごめん……」

「私に謝られても……ね」

 誰に謝るべきなのだろうか。

 とにかく「今度こそ遅刻しない」と、またしても心に誓った俺だった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ