第1章-1 遅刻常習犯の朝
俺は、朝には強い方だと自負している。
しかし、どういうわけか俺は遅刻が多いことで学校中に名を轟かせていた。
俺の名は、秋川あきひと。高校生である。
今日は平日、月曜日であるので、高校生である俺は登校しなければならない。
朝のニュースを見ていると、時間というものはあっという間に過ぎていくもので、本当は七時五十分くらいになったら、もう門の外に出ていないと登校時間に間に合わないのだが、俺はどういうわけか、まだ家の中にいた。
いつも、その時間には両親は出勤なり旅行なりで出掛けていて、家には俺一人だった。俺は一人っ子なので、必然的に、いつも最後に家を出ることになる。元々、両親が長期間家を空けるのは日常茶飯事で明日からまた長期間の海外旅行に行くらしい。
テレビの画面は、毎朝平日恒例の占いを映し出していた。
「あ、昨日一位だったから、今日はたぶん順位低いな」
《今日の一位は、てんびん座》
女子アナの声。
ほう、てんびん座と言えば、俺が昔好きだった人の星座じゃないか。
《そして二位は、みずがめ座です。恋愛運は絶好調。告白のチャンスが訪れるかも》
ほほう、みずかめ座と言えば、俺が今好きな人の星座じゃないか。
《…………ごめんなさい、今日最も悪い運勢は、いて座のあなたです。一番大事な時間が奪われそう。遅刻やドタキャンは絶対にタブー。よくないことが起こるかもしれません。ラッキーアイテムは、ピンク色の消しゴムでーす》
ピンク色の消しゴムとか、持ってねえよ。それにしても、昨日の一位から一夜にして最下位転落とは、薄々予想はしていたが少々落ち込むぜ。
と、このように俺は毎朝八時ごろになると流れ出す占いを見るのが習慣なのだ。
チャンネルを変えると、別の占いがやっていたので見ると、そこでもいて座の運勢は良くないようだった。
《ポ、ポ、ポ、ポーン》
テレビから八時を告げる音が鳴り、違う番組が始まってしまった。
こうなると完全に遅刻である。
今更ダッシュしたところでもう間に合うわけがないので、ゆっくりと制服に着替えて、ゆっくりと家を出る。もちろんしっかりと施錠した。
十二月の冷気が肌を刺す。寒い寒い。行きたくねえ。
でも出席しないと授業内容わからなくなるのでやっぱり行かなきゃいけないかな。
門を出て、アスファルトを歩く。俺の通う高校までは歩いて行ける距離なので、自転車等には乗らない。というよりも、現在前輪がパンクしているので乗れないと言ったほうが正確だ。
中学時代から遅刻が多かった俺は、最も近い高校を選択して入学することにした。そうすれば、遅刻は減らないまでも、中学の時以上に増えることはないだろうと考えていたからである。
今にして思えば、浅はかだった。結局、遠い近いに関わらず遅刻する奴は遅刻するわけで、簡単に言ってしまえば気持ちの問題、というやつだ。
しかし、冬ってのはどうしてこう寒いんだろうね。毎年思うんだが布団かぶって登校することを許可して欲しい。そうすれば俺の遅刻も減るんじゃないかな。
街を歩く人が皆布団を被って歩いている光景を思い浮かべて、少し笑った。
キンコンカンコン。遠くでチャイムの音がした。この音は俺の母校でもある中学のチャイムだ。高校のチャイムとはほんの僅かに音が違う。俺くらいの遅刻のエキスパートになると両校のチャイムの違いを聴き分けるなんていうことは、屈伸運動をする並に容易なことだ。
中学のチャイムから、五分遅れて高校のチャイムが鳴る。その鐘が鳴り終わった時が、遅刻確定の瞬間だ。
ちなみに、ここから高校までは全力疾走しても七分はかかるので、もう完全にアウトである。
だから歩く。
ダメ高校生である。