少年と森
ケインさんの待っている森の出入り口に着くと、緑色の短髪で、目が開いてるのかわからない程の糸目の人が。
よく見ると道具の手入れをして待っているケインさんがいた。
本当にあれで見えているのだろうか
「お待たせしましたケインさん」
僕が声をかけると、道具を手入れする手をとめ、ケインさんは僕の頭をわさわさと撫でる。
「ケインでいい。名前を正しく連続で呼べるのはお前が初めてだ」
どうなってんだここの館の人達は・・・!
と心の中でツッコミを入れておく。
「・・・この館案外常識人いないからな」
「苦労してるんですね・・・」
普段から名前を間違えられるって結構辛そう・・・。
僕とケインはお互い苦笑いをする。
「だから俺すっごい嬉しいんだ・・・・ショウ!久々の常識人だ・・・・!」
ケインは僕を抱きしめる。
「そ・・・そんなに常識人いないんですか?」
ゼイユさんとか結構いい人そうなのに・・・
「ゼイユは49歳で優しいおじいさんだと思うだろ・・・?実は結構調達品にぐちぐち行ってくるんだ・・・
前はコップがアンティークじゃないとか・・食材はこれよりこっちがいいとか・・・
アラモネは部屋が汚いと小一時間ほど怒るし・・・。
ビアンカは調達品の要求が多いし・・・
エレナは鉄鉱石を100個魔鉱石が200個欲しいとか無理難題ばっか・・・
アリスは花の種やら本やら・・・
誰も俺の苦労をわかってくれないんだ・・・」
ケインは結構苦労しているようだ。
それにしてもアラモネさんは1番まともじゃないか?
単にケインの部屋が汚いだけなんじゃ・・・
「・・・あ"」
ケインは僕の後ろを見て青ざめながら慌てて試験内容を説明し始めた。
「ししし・・・・試験はここの館を囲う森にいる魔物の討伐だ!」
魔物・・・。
魔素が多いところを好み、人に危害を加える生物が魔物。
ここら辺は魔素が多いって言ってたし・・・。
魔物も多いのだろう。
「魔物は1体だけでいいんですか?」
というかまず魔物に出会えるかもわからない。
「あー・・・さん・・・・え・・・じゅ・・・10で」
なんだか急にぎこちなくいなったな・・・
僕はじーっとケインを見つめる。
「ほ・・・ほら早くいけ!」
ケインに背中を押され、僕は魔物の住まう森へと入っていった。
それにしても10体か・・・。
魔術師・・・いや人は魔力が枯渇すれば体が不調をきたし、魔力がなくなれば意識を失う。
って考えるとこれもデメリットか。
僕は作戦を練りながら伸びきった草をかき分け、進んでいく。
「とりあえず《重力操作》しか使えないからこれをまず使うとして、問題は魔力の節約だよね。」
魔術使えなかったから自分の魔力の規模なんてわからないし・・・
それにしてもまで信じられないな・・・
ビアンカさん・・・憧れだった終焉の魔女様と出会って1日目だなんて・・・。
朝起きて、ベールドとその取り巻きにいじめられて・・・助けてもらって・・・。
今日の出来事を遡りながら、進んでいくと、突然《子鬼》のに囲まれた。
ぱっと見30体はいるだろう。
ちらほらでかい子鬼もおり、その中でも装飾品を身につけている大柄な子鬼がいた。
おそらくあれが子鬼のリーダーだろう。
一体一体処理をしていたらキリがない。
やるなら一気にやった方がいいよね。
僕は両手を上へ掲げ、僕の周りを囲っていた子鬼達を空へと飛ばす。
結構上へ飛んでいったが、近くの木を掴んで飛んでいくのを防いだ知恵の働く子鬼達もいた。
「なら・・・・もっと飛んでっちゃえ!!」
僕は残っている子鬼を全部飛ばすため、指定した地面の重力を反転させ、子鬼もろとも飛ばした。
王も抵抗していたが、最終的には飛んでいった。
子鬼は全員空中でバタバタと暴れている。
・・・中に子鬼達や地面を抉ったのはいいけどどうしよう。
僕はこの後の行動を考えるのを忘れていた。
「お兄ちゃんこんなこともできないんだ」
ふと、思い出したくない記憶を思い出してしまった。
まだ3歳だった妹にすら負けた僕は、5歳で孤児院に入れられた。
妹は3歳で氷魔術の才能を見出され、初級だったが威力の高い魔術を披露してみせた。
あの時の家族の驚きの表情は脳裏にまだ焼き付いている。
気づけば僕は半径100メートルほどを氷塊にしていた。
「なんで今氷・・・?」
僕は自分したことに意味がわかっていなかった。
おそらく規模的に氷中級魔術《氷域》だよな・・・?
なんかそれより上な気もするけど・・・。
「とりあえずケインに報告を・・・」
僕は結果を報告しに行こうと体の向きを変えると、僕と似たような姿の少年が立っていた。
『やぁ。俺は______。数年の内に"シルヴィア"という家名を名乗る少女が君と遭遇する。その子から守ってほしい_____を。』
そう言い残し、少年は霞のように消えていった。
ところどころ聞き取れなかったが、誰を守ればいいのだろう。とりあえず、シルヴィアと名乗る人を警戒しておこう。
ケインと合流し、とりあえず、子鬼のことだけを報告した。
あの子は一体なんなのだろう・・・。
「それにしてもすごいな!魔術めちゃくちゃ使えるな!ショウ!」
頭を撫でられながら褒められたのは初めてで嬉しかった。
「・・・それにしてもケインなんでそんなボロボロなの?」
ケインは誰かにボコボコにされたのかってくらいボロボロになっていた。
「う・・・聞かないでくれ・・・次はゼイユだろ?行ってこい」
「あ、はい・・」
僕はケインを気にかけつつ、ゼイユさんの元へと向かった。
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ショウが森に入る前、
ビアンカ、アラモネ、エレナはショウの様子を見に来ていた。
念の為《認識阻害魔術》を使い、バレないように見ていた。
だが、ケインは運悪く、本人らのいる場所で愚痴を吐いてしまったのだ。
もちろん3人は怒り、ショウにバレないよう《認識阻害魔術》を一瞬解いた。
ケインは3人の怒りの形相に青ざめ、ショウを留めたかったが、圧に負け、魔物討伐数を3にして早く帰ってきてもらおうとしたら
3人揃えて"10"と示したので、ケインはそれに乗らざるを得なかった。
あとは簡単。
ボッコボコにされただけ。
「もうお部屋の掃除手伝いません!」
アラモネには部屋掃除拒否宣言され、
ビアンカとエレナは調達物資を倍で請求。
自業自得と言うべきであろう。