少年と武器
アラモネさんに案内された場所の部屋のドアを開けると、どうやら工房のようだった。
エレナさんは《炭鉱族》だから物作りが得意なのだろう。
壁にはおそらく今まで作った作品らが飾られていた。
「おっ。アラモネの試験はクリアしたか!よかったな!」
僕が工房に入ってきたことに気づいたエレナさんは作業の手を止めこちらに近づいてきた。
「試験を受けに来ました」
正直エレナさんと他の皆さんの試験内容が全然思いつかない。
何をするんだろう。
僕が身構えていると、エレナさんは試験内容を説明し始めた。
「何。緊張しなくてもいいぞ。私がお前に課す試験はただ一つ。《武器作り》だ」
エレナさんはそういうと、弓・杖・剣をそれぞれ持ってきた。
「武器なんて作ったことないですよ・・・」
もちろん作った経験がない以上、試験の難易度は上がったといってもいい。
いや、不合格に近いといった方がいいだろうか。
「いや。私がサポートをする。お前は部分的な手伝い・・・。つまり助手をやってもらいたい。」
それなら・・・まぁ・・・
「ショウ。お前は魔術師になりたいんだろう」
なりたいものは特に決めていないが、剣士や弓使いよりかは魔術師に興味がある。
「はい」
「ならまずはこの石に触れてみてくれ」
エレナさんはガラスの球体を奥から持ってきた。
「触れればいいんですよね?」
「ああ」
・・・・なんだろう。エレナさんすっごいワクワクしているような
僕はガラスの球体に触れた。
程なくして、
ガラスの球体は白色に神々しく光った。
「おぉお!!?やっぱりか!!」
エレナさんは興奮した様子で僕の肩を掴み、揺らす。
「な・・・なんのことですか!!?」
状況が飲み込めず、僕は後ろに下がった。
「あぁ・・・すまない。このガラス玉はその人に適性を持った魔法属性を示してくれる物なんだ。」
「なるほど・・・。でも関係あるんですか?」
「あるさ!だって白色は全部の適性があるんだ!」
目を輝かせ、喋り続けるエレナさん。
「全適性を観れるのは一生で一度会えるか会えないか・・・私は運がいい・・・ビアンカに続いて2人目だ!」
と喜び、大きくジャンプしていた。
まぁ僕としても全部に適性があるなら魔術を極めやすくて助かる。
「ちょっと待ってろ!・・・・・よいしょ!」
エレナさんは次に、大量の石を持ってきた。
鉄鉱石あたりだろうか?
「この石を混ぜろ!」
「・・・・は?」
あまりにも意味がわからず、僕はそう返してしまった。
「お前が《錬金魔術》を使えたら私も楽だったんだが、しょうがない。私が《錬金魔術》を使うから、使ってる最中に魔力を注いでくれないか?」
「・・・わかりました?」
若干よくわかっていないが、とりあえずやってよう。
エレナさんは大量の石に《錬金魔術》を使い始めた。
《錬金魔術》・・・。
聞いたことない魔術。
詠唱があるのかと期待したが、エレナさんは無詠唱で行い、大量の石が溶け、まとまり始める。
「・・・さ。魔力を注いでくれ。・・・私はこの大量の石をすぐに錬成できるほどの魔力はないからな・・・」
僕はそう言われ、急いで手を近づけた。
魔力を注ぐ。
よくわからないが、さっきアラモネさんに教えてもらった《魔術》を使った時と同じような仕組みなのだろう。
手に魔力を込め、注ぐ。
・・・魔力が流れていく感覚があるから多分大丈夫だよね?
どのくらい注げば良いのだろう。
一気に注いでみてもし失敗したら面倒だよね・・・。
出力を一定にしながら魔力を注ぐこと5分。
「・・・できたぞ!」
ついにできたらしい。
できたのは白色の丸い石が1つ。大人の手の薬指くらいの大きさで、それもたまに赤色や青色などの色の光が小さくひかる。
「これは・・・《魔石》ですか?」
実物は見たことないが、本で何回か文献を見たことがある。
「あぁ。しかもこのぐらいの大きさの魔石。売ればそこそこの領地を買えるだろうな。」
エレナさんは興味深そうに魔石を見る。
「じゃあショウ。あとは好きな鉄を選んでくれ」
エレナさんは200個以上ある鉄を持ってきた。
「何個選べば良いんですか?」
「2個でいいぞ!」
とのことなので、僕は直感で2つ選んだ石をエレナさんに差し出した。
「・・・・その二つでいいのか?」
エレナさんは目を見開き、驚いた表情で僕を見る。
「ダメでした・・?」
そんなに驚いた表情をされるとは思ってもいなかったので僕は咄嗟に差し出した2つの石を下げた。
「あぁ・・!!いや!そうじゃないんだ!なんでもないよ・・・・なんでも」
そう呟くエレナさんの顔はやや哀しそうだった。
エレナさんは僕から二つの石を受け取った。
「あとは私がする。ありがとう。合格だよ」
「本当ですか!!?」
なんだか拍子抜けだった。
1個目が危なかったこともあり、少し余裕に感じた。
いや、やったことといえばガラス球に手をかざして、魔力を注いで、石を選んだだけ。
余裕に感じるのも当たり前だ。
「あぁ。だが、気は抜くなよ。次はビアンカだろう?・・・いや。1番難しいのはアリスなのかもしれないな」
「アリスさんが・・・」
ーーー
《鬼の庭園》
「・・・やぁアリス」
ビアンカは、ショウの2つ目の試験合格を見届けたあと、アリスが管理している庭園へと訪れていた。
アリスはビアンカの訪問を察知していたようで、ビアンカの方を見てはぁ・・・とため息をついた。
「なんでしょうかビアンカさん。」
アリスは花とビアンカを交互に見ながらそう聞いた。
「人を見てため息は酷いよ・・・。それに、私が訪れた理由。君だってわかっているだろう?」
「・・・ええ」
アリスはビアンカに背を向け、蕾の花たちを眺めていた。
「・・・やめてくれないか?"ショウを不合格"にしようとするの」
ビアンカはアリスの真横に立ち、蕾の花たちを一緒に眺めた。
「・・・私の気持ちは1番ビアンカさんが知っています。」
「信じてるよ。アリス」
ビアンカはそう言い残し、庭園を後にした。
「・・・酷いですよ」
1人っきりになった庭園で、アリスは静かに泣いた。