少年と記憶
「姉さん!また魔術を教えてくださいよ!」
「いいよ。今日は何を教えようか」
丘の上に聳え立つまだ小さな魔女の館。
森で僕と出会った少年と、ビアンカさんが仲良く魔導書を見ている。
「それにしても転生者なのに私を本当の姉として接してくれてありがとう」
「いえ。確かに⬛︎⬛︎⬛︎としては、最初は気まずかったけど、やっぱり⬛︎⬛︎⬛︎のお姉さんだったんだし」
そう言いながら微笑む少年の頭をビアンカさんは撫でる。
少年は名前を言ったのだろうが、ノイズがかかり、聞き取ることは不可能。
「ビアンカさんずるいですよ!私も喋りたいです!」
「姉弟水入らずの時間だろ?アリス。私とおしゃべりで我慢してくれ!」
館から出てきたアリスさんの服を掴み、ずるずるとひっぱり、エレナさんとアリスさんは館へ戻ってゆく。
ビアンカさんと少年は2人に笑みを送りつつ、遠くの方で聞こえる人々の争いに目をやる
「・・・⬛︎⬛︎⬛︎。もし争いが・・・」
記憶はそこで途切れた。
僕が経験していない記憶。
なんで僕にこんな記憶が?
『 結構刺激したつもりなんだけどまだ完全に取り戻せていないなんて・・・ 』
破滅の魔女はため息をついた。
『 ま。いいや。アンちゃんが何を企んでるのかは知らないけど。とりあえず、この子の父親殺害してね 』
そう言い残し、破滅の魔女は消えていった。
抱きついていたカロナの腕は空を斬る。
「ママ・・・パパ・・・」
ポロポロと涙を流し、アラモネさんがカロナに抱きつく。
「大丈夫・・・。大丈夫だから・・・・」
「・・・アラモネさん。ビアンカさんは何をしようとしているんですか?」
僕の問いに、アラモネさんは
「私もわからない・・・。でも、私たちの知ってるビアンカさんは人を傷つけたりなんかしないはず」
「・・・そうですね」
今は僕たちがビアンカさんを信じるしかない。
とりあえず・・・
「アラモネさん。とりあえずカロナを頼みます。僕はアリスさんに事情を説明してきます」
カロナのことをアラモネさんに頼み僕はアリスさんたちが向かった方角へ体を向ける。
「待って。ショウくん」
アラモネさんに手を掴まれ、体が後ろへと引っ張られる。
「アリスには絶対さっきの・・・裏切り者とか私たちの過去の話は絶対にしないで」
「・・・はい」
僕は首を縦にうなづき、アリスさんを探しにゆく。
___________
「それで話ってなんですか?」
ユウキはアリスを図書館へと呼び出し、話を始める。
「アリスさん。あなたは転生者ですか?」
「・・・え?」
突然切り出されたユウキからの話にアリスは思わずそう声を漏らした。
「言葉使いが・・・少々大人っぽいので僕と同じ転生者の方かと・・・」
「・・・あいにく私は転生者には該当しません。ですが知り合いに転生者がいました」
アリスの話を食い気味にユウキは聞き返す。
「本当ですか?!誰ですか?!」
目を輝かせ、アリスの手を握っている。
「離してください。・・・残念ですが、私の知っている転生者はもう・・・」
アリスは1人の人物を思い浮かべ苦しそうに顔を顰める。
「・・・すみません。辛い記憶を思い出させてしまいましたね」
「いえ・・・。転生者という話をショウくん達にも話したらどうですか?」
アリスの問いにユウキは首を横に振った。
「ショウさんは不気味です。何か・・・嫌な気配を感じます。アリスさんも安全を考えるなら関わらない方が・・・。」
「・・・何を言いたいんですか」
アリスはユウキの言葉を遮り、睨む。
「に・・・げましょう。巻き込まれるぐらいなら逃げた・・・方・・・が」
「彼らに見つからないところで・・・そうだ!冒険をしましょう!僕勉強してアリスさんを守れるくらい強く・・・」
まだ話しているユウキの言葉を遮り、アリスはユウキの頬目掛けビンタをする
バチン・・・ややでかく、音が響く。
「え・・・」
ユウキ本人はビンタされるとまで思っておらず、ポカンと呆けている。
「あなたに彼の何がわかるんですか」
キッとユウキを睨んだアリスは顔を真っ赤にさせ、目に涙をためている。
「し・・らないですよ!出会って一週間程度の人ですよ!!」
「なら知ったような口を利かないでくださいよ!!!」
息を切らし、アリスはもう何も言わず図書館を出てゆく
ユウキはすぐはアリスの後を追わずただぽつんと、立っていた。
「はぁ・・・・」
図書館を離れ、廊下を歩きながらアリスはため息をついた。
「あ。アリスさんいた!!!」
遠くの方でショウがアリスに手を振りながら走ってくる。
アリスは急いで自身の涙をぬぐい、ショウのもとへ駆け寄る。
「どうしたんですか?」
「・・・・あー。えっと。ちょっと大変なことになってるので、とりあえず来てください」
そういってショウはアリスの手をひっぱる。
豆やら傷やらができているショウの手は年相応の元気な少年に見えた。
アラモネさんと合流し、いくつか情報を伏せたうえでアリスさんに説明した。
「・・・父親ということは《吸血鬼》ですよね?」
「破滅の魔女が普通の人間と考えるとそういう形になりますね」
僕らは応接室を借り、ソファに腰かけ、カロナを含め4人で会議をしている。
「殺さなくても私たちに被害はないんじゃないの?」
アラモネさんの言葉に僕らは首を縦に振る
「はい。あのいい方的に僕らへのお願いのような感じですし・・・」
ただ、そうなったとき一つの疑問が浮かび上がる。
「なんで自分で殺そうとしないんでしょう・・・。破滅の魔女・・・ビアンカさんよりお強いと思いますが・・・」
僕らはこの疑問に頭を悩ませる。
「ぱ・・・ぱ。強い・・・。絶対・・・いなくならない・・・」
カロナが弱弱しくそうつぶやいた。
「いなくならないってことは・・・」
「パパ、血まみれでも、体離れてもすぐくっついて元気になる・・・。あと、ほかの人が太陽も魔術を浴びたら死んじゃうのに、パパは平気だった。」
つまり、不死。
「不死をどうやって殺せっていうんですか!!!!」
「つまり不死だから破滅の魔女も殺せないってこと?」
考えれば考えるほどわからなくなってゆく。
「はぁ・・・。今日は一旦ここまでにしませんか?」
アリスさんはため息をつき、ソファの背もたれに寄り掛かる。
「そうですね」
僕らは話を途中で区切り、応接室を出る。
応接室を出ると、レイ、シエスタ、ヴィオラ様が並んでやってくる。
「・・・お・・・や?」
ヴィオラ様がこちらに気づくと、目を見開き動きを止める。
ヴィオラ様の目線は《認識阻害》をかけておらず、耳と尻尾をなびかせているアラモネさん。
「「あ」」
レイとシエスタが声を漏らす。
途端、ヴィオラ様は目をハートにさせ、こちらへ走ってくる。
アラモネさんは事の事態を理解したが時すでに遅し、ヴィオラ様はアラモネさんの腕をつかみ鼻息を荒くさせる。
「けも・・・けも・・・・もふ・・・きゃわ・・・」
「えぇ・・・っと?」
ヴィオラ様がなにやらぼそぼそとつぶやいておりアラモネさんはヴィオラ様の行動に困惑していた。
レイやシエスタは頭を抱え、アラモネさんに手を合わせる。
「初めまして。私はクロード王国第二王女ヴィオラ・クロードです。」
興奮しつつ、自身の紹介をし、
「耳と尻尾をもふもふさせてください」
真剣な顔でそういうヴィオラ様にアラモネさんは顔を真っ赤にさせ
「いやだ!」
そう一言つぶやき、認識阻害をかけ、変身して僕の肩に乗る。
「そんな・・・!」
ヴィオラ様は拒絶されたことにショックを受け、ひざまずくような体制になる。
『なんか悪いことしちゃったみたい・・・ごめんなさい』
アラモネさんの謝罪はヴィオラ様本人には届かない。
「いや。私はあきらめない。絶対にあの紫の尻尾と耳をもふもふするまで!」
急に立ち上がりヴィオラ様はそう宣言した。
『あきらめてよ!!!!?』
アラモネさんのツッコミは、認識阻害を通り過ぎ、ヴィオラ様に届くことはなかった。




