少年と魔女
魔術大国首都ハーレイ
才能あふれた人材が住まう魔術師の国。
そんな国で生まれた"魔術の使えない"少年。
「ショウ!また俺の魔術の餌食にしてやるよ!」
「・・・僕本読んでるんだけど」
ショウと呼ばれる少年。つまり僕。
幼い頃に魔術が使えないことで孤児院に入れられ、図書室で静かに本を読んでいるか、こうやって魔術が使える奴らのおもちゃにされるか・・・。
いい加減飽きて欲しい。
「お前!せっかくベールドくんが君みたいなゴミに話しかけてるんだから来いよ!」
「よせ。おい街の路地に来い。さもなきゃお前のだーいすきな本なんて燃やしちゃうぞー?」
ベールドは《火球》を詠唱し、僕の持っていた本に近づける。
「・・・行くから」
僕はベールドの魔術から本を遠ざけ、渋々了承した。
「さっさと来い」
ベールドに引きずられながら、僕とその取り巻きらは孤児院を後にした。
ーーーー
太陽の光を建物が遮断し、薄暗く、不気味さを覚える。
「まずはお前からいけ」
ベールドは取り巻きの1人の背中を押した。
「1番ですか・・・。ありがとうございますベールドさん!」
そばかすに整えられていない黄色い髪の少年は、ベールドにお礼を言い、一歩前に出る。
正直魔術使えてなければ、この取り巻きもこちら側だったと思う。
失礼だと思いながらじーっと取り巻きを見つめる。
「っち!舐めた態度を・・・僕の魔法でケチらせてあげますよ!」
僕の態度が癪に触ったのか、取り巻きは詠唱を始める。
《風よ。その身を成して刄となれ《風刃》》
風初級魔術を詠唱し、取り巻きの周りに風で生成された刃が放たれる。
3本中、2本が僕の右腕、頬を切り、鮮やかな血が流れ出る。
結構痛い。
「ナイスだ!じゃあ2番目俺だな!」
そばかすの取り巻きが下がり、先ほど僕に暴言を吐いてきた取り巻きが前へ出た。
《土よ、尖り相手を貫く矢となれ、《土の矢》
土初級魔法を詠唱し、地面がひび割れ、その一部が矢となり放たれた。
僕は目を閉じ、体をこわばらせた。
・・・だがいくら待っても矢は来なかった。
恐る恐る目を開けると、僕の周りが凍っており、矢が氷に刺さっていた。
状況を把握できてないのはベールドと取り巻きも同じだった。
無論僕が魔術を使えないのをこいつらは知っている。
取り巻きにも氷属性の魔術を使えるやつもいない。
「弱いものいじめは年月が経っても起こるんだね」
後ろの方から声がした。
振り返ると、フードを被った集団が6人。
その中央に立つ人物が杖を構えていた。
この人が魔術を使ったのだとすぐわかった。
「か・・関係ないだろお前らには!」
ベールドは多少萎縮していたが先ほどまでの威勢を取り戻しつつあった。
「確かに関係はないけど・・・。下手すれば死ぬ現場を見て見ぬふりをするほど薄情じゃないんだよ」
「たかが魔術ぐらいで死なねーだろ!」
取り巻きはベールドに続き反抗の態度を見せた。
「じゃあ一回死んでみる?安心して。私は死者蘇生の魔術使えるから」
ローブの隙間越しに見えたあの人の目は黒く、まるで深淵すら生ぬるいような地獄を経験してきたような生気が入っていない目。
「人を殺したら極刑だぞ・・・!」
おそらくベールドとその取り巻きも同様異様さを感じ取っていた。
「殺したことすら言いたくないほど地獄を見せればバレないよ」
そう冷たく言い放ったローブの人は杖をこちらへ向ける。
殺される。本能が逃げろと叫んでいる。
流石にまずいと思ったのか他のローブを纏った人たちが止めに入る。
「ビアンカ!落ち着けって!ここで騒ぎ起こしたらまた遠くの街まで買い物に行かなきゃいけないだろ?な?私は嫌だぞ!お前の転移魔法いい店を見つけても止まってくれないからな!」
「そうです・・・!気を確かに・・・」
「・・・わかった」
仲間に咎められた正気が落ち着いたのか、杖を下げる。
《砂巨人召喚!》
チャンスを見計らい、ベールドとその取り巻きらは自分たちの出せる魔力を出し切り、巨人を召喚した。
土初級魔術《大地操作》で普通のゴーレムより固くしてあるようだ。
「・・・7、8歳ごろで巨人を召喚できるなんて。さすが魔術大国」
「「いや感心してる場合じゃないでしょ!」」
僕とローブの1人のツッコミがかぶる。
それほどまでに危機感を覚えていない人だったからだ。
「まぁ私なら8歳で全階級全部の魔術を扱えてたけどね」
「どうします。ビアンカさん。」
先ほどツッコミが被った人が杖の人物に判断を委ねる。
「私の魔法はハーレイじゃ目立つ。任せていい?ゼイユ」
「わかりました」
ゼイユと言われた人はローブの中から剣を取り出し、目にも止まらぬ速さで巨人を木っ端微塵にした。
「な・・・なんなんだよお前ら・・」
全員流石にもう戦う意志はなくったか、体を縮めブルブルと震えている。
「いずれわかるよ。・・・それより君おいで。治癒魔術をかけてあげる」
ローブの人物は僕に手招きをした。
何されるかわからないので僕は急いで近づいた。
「・・・む。私はそんなに怖いか?」
僕の行動に言葉ならず顔までムッとされる。
「・・・怖い反面憧れもあります。」
治癒魔術を当てられながら僕はそう答えた。
「憧れ?」
「あなたが終焉の魔女様のように思えたので・・・」
僕は持ってきてこそいないが何度も読んだ
終焉の魔女の話を思い返す。
「・・・ほう」
「ビアンカさん・・・。もしかしてこの子を・・・・」
「俺はいいと思う」
なんの話か僕がわからないでいると、治癒魔術がかけ終わり、治癒魔術をかけてくれていたビアンカさんが被っていたフードを脱いだ。
目の色に相反する程透き通った白髪が顕となった。長い白髪をそよ風がそっと撫でる。
「私はビアンカ。ビアンカ・クリスティーナ。君の憧れる
ーー終焉の魔女だ」
ニコッと微笑んだビアンカさん。僕はビアンカさんの笑顔より言い放った言葉に動揺していた
「え・・・?」
憧れを持っていた魔女様がこんなところにいるわけがない。
「私は今日買い出しついでに"弟子"にぴったりそうな子を探していてね」
ビアンカさんは僕に手を差し出してきた。
「私の弟子になってくれないか?」
差し出された手を僕は取った。
たとえこの差し出された手が地獄への招待状だったとしても。
僕は取るだろう。
初めて必要とされたから。
「よかった。君名前は?」
「僕はショウです。8歳です」
手短に自己紹介をした。
「家名はないの?」
人は誰しも家名を持っている。
例外は家名を剥奪された人か、孤児か。
「僕は孤児です。・・・あ孤児院でお世話になってます」
僕は後者だ。
「ビアンカさん。俺がその孤児院で手続きしてきますよ」
「ほんと?ありがとう」
僕はビアンカさん達に連れられ、この場を後にしようとしたが
「ま・・・待ってくれ!」
呼び止められた。ベールドに。
「・・・何?」
「そ・・・そいつより俺の方が魔術の才能ありますよ!・・・終焉の魔女様!」
「そ・・そうですよ!魔術の使えないそいつよりベールドくんの方が圧倒的に使えます!」
ベールドに続き、取り巻きが騒ぐ。
あぁ。そういうことか。
弟子になるということは孤児院から自由になれるということ。
孤児院には誰にも引き取られずに一生を終えた人だっている。
自分が弟子になることで孤児院から出ようとしているのだ。
「・・・悪いけど。君よりショウの方が魔力は高い。それに弱いものいじめをする輩は私は好きじゃない。
あでも私のことを覚えられてたらまずいな・・・。記憶、消させてもらうね」
ビアンカさんはベールドらに杖を向け、魔術をかけた。
ベールドらは倒れた。いや、眠ったの方が正しい。
「記憶を消したから1時間ぐらいは寝ると思うよ」
「さ。孤児院のことはケインに任せて。私たちは行こう。」
ビアンカさんは僕の背中を押し、転移魔法を発動した