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村娘、女王になる  作者: 三月
摩擦病
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第八話 動き出す

 その場にいた全員の表情が、固まった。


「は?あ、」


 報告をしたドレッド本人が唖然とし、失礼な言動をぽろっと言ってしまった自分の口を押さえる。


「陛下、それは流石に出来かねます。ただでさえ先の戦争による被害地域の復興で、この国の財政は僅かしか残っていません!そう易々と宝物庫の宝を使うわけには!」


 慌てて声を荒げるマークに、エレナは答えた。


「易々なんかじゃない。国民が病に苦しんでて、国にお金がないんでしょ? なら、今が一番必要なときだよ」


 納得がいかない様子で顔をしかめるマークは、更に続ける。


「宝物庫の宝は、国の財力を国民に示すためのものでもあるんです!こんな混沌とした国の現状でそんなことをしては、民の信頼を失いかねない!そしてそれがどれほど危険なことか、お分かりですか!」


 反乱、内紛、人が人を殺して生き残る、秩序のない混沌。そんな世界が、訪れる。


「(絶対に、それだけは止めなければ!)」


 説得を試みるマーク。エレナはすっと立ち上がり、マークの目を真っ直ぐ見つめて言った。


「ねぇマーク、確かに皆に力を示して、言うことを聞いてもらうのは大事かも知れないけど、それで本当に、みんなを救えるのかな……」


 エレナの言葉に、マークは思い当たる節があった。村にいた頃、まだこの国がユーシア帝国と呼ばれていた頃。帝国の役人が幾度となく村を訪れ、力を示し、村から様々な物を税として取り上げていった。マークの祖父は、村の村長だった。そして、マークの祖父は村の皆の生活を守るために、役人に交渉しに行った……そして、帝国にたてつくとどうなるか、見せしめに殺された。村はそれ以来、帝国の力に屈し、長年高い税を払わされ続けてきた。


「くっ」


「私は、そんなやり方したくない」


 二人のマークが、葛藤する。かつて、帝国のやり方に憎悪した幼いマークと、その憎悪したやり方に染まった現在のマークが。


 マークは悔しそうに拳を握りしめると、エレナに背を向けて言った。


「一介の護衛が、無礼にも政治に口を挟んだこと、お詫びいたします」


(何故、分かってくれない……貴方を、守る為なんだ!……)


 その場にいたドレッドとミルヴァが、マークの心情を理解し、同情した。


「謝らないで、マーク………ありがとう」


 思いもよらないエレナの言葉に、マークは思わず振り向く。


 エレナは、目に少し涙を浮かべていた。


「ごめんね、私のために言ってくれてるのに、言い方がきつかったよね」


「……いえ、そんなことは」


 戸惑いを見せるマークの手をエレナは握りしめる。


「でも私、マークがそんな風に変わるの、嫌だよ……」


 思わず、マーク頬から笑みがこぼれる。


「ふ、全く……」


 その時、マークはこの城に来て初めて、エレナの目を見て微笑んだ。


「貴方は、本当に変わりませんね」


 いつも通り、エレナの知っているマークの微笑みが、エレナに大きな安心感を与える。


「と言うことで、マークの了承も得たことだし、今すぐ皆で宝物庫に向かいましょ!」


 エレナがうっきうきな笑顔でそう言うと、師団長達からちらほらと声が上がる。


「いえ、我々にも本日の仕事がありますので、陛下の命令とあらば致し方ありませんが」


 ズバッと言われ、ついタジタジになるエレナ。


「え?……あ、そんなに無理せず明日とかでも全然……」


「では、明朝にいたしましょう。外もそろそろ暗くなって参ります故」


「そ、そうだね……じゃあ明日で」


 そんなこんなでその日の王宮会議は終了し、師団長達はゾロゾロと玉座の外へと出て行った。


「宝物……見たかった」


 ほんの少し目頭に涙を浮かべながら、師団長達の背中をエレナは見送った。


 そんなエレナに、マークが嫌みな言い方で問い詰める。


「ちなみにエレナ様、リオスが1ヶ月王宮からいなくなる場合、彼の仕事は一体誰にやらせるおつもりなんでしょうか?」


 振り向かなくても、エレナには分かった。マークが今、とても恐い顔をしていると。エレナはギギっと、マークの方に首を傾け、小さな声で呟く。


「わ、私がやろうか?……なんて」


「あっはは」


 笑顔で笑ったマークの表情が、一瞬にして鬼の形相に変貌する。


「ご冗談を」


 その一言は、あまりにも冷たく、エレナの心を締め付けた。


 エレナは胸が凍り付きそうな苦しみを味わいながら、やっとの思い出一言をひねり出す。


「……ごめん」



 王宮会議終了後、それぞれの仕事場へと向かう廊下では、まさに女王に対する愚痴合戦が繰り広げられていた。


「何なのだあの女王は。村娘とは聞いていたが、まさかあそこまで無鉄砲とは……」


「全く先が読めない。これから先、あの女王で大丈夫でしょうか」


「私も……ちょっと先が不安です」


 第3、第4、第6師団長らが口々に言い合う。


一方、エレナの命令によって一ヶ月間、エレナとマークの故郷の村に行くことになったリオスは、見た目がさっぱりして接しやすくなったイケおじのドレッドに、女王のことを愚痴っていた。


「何なんですかね!あの女王様!大体何で貴族の僕が田舎の村で畑仕事しなきゃいけないんですか!発想がもう村人のそれですよー!貧しい貧しい~」


 やれやれ、と首を振るリオスに、ドレッドは笑って答えた。


「あっははは、それもあの方の味ではないか。それに、お前は全然マシな方だぞ?」


「はぁ……マシって、どういうことですか?」


 自分がこれから受ける苦しみが、こんなにも不安なのに。涼しい顔して、自分と同じ苦しみを味わうわけでもない大人が、偉そうに自分の苦しみを愚弄したことに、リオスはほんの少し表情を歪めた。


 それでも尚、ドレッドはリオスに優しく答える。


「お前、税金をちょろまかすなんてこと帝国時代にやってたら、普通にその場で死罪だからなぁ!がっはははは」


 リオスは、時代が違えば自分がどんな立場に置かれていたのかを想像し、更にそのピチピチの若い肌を歪め、ぼそっと言った。


「あの女王様、神様じゃないですか……」


「リオス、あのお方は素晴らしい女王だ。そんなお方に使えることが出来ることに、誇りを持て」


(うわ、今の会話兵士っぽい!)


 リオスは、ドレッドのその台詞のかっこよさに、思わず目を輝かせて返事をした。


「はい!」


 ミルヴァは、そんなドレッドとリオスの会話を遠くから聞いて、一人呟く。


「私は……お前達が羨ましいよ」


 すると、第5師団団長、ベリック・ウル・ユーシアスがミルヴァの隣にやってきて行った。


「このままでは、--様の計画が狂う。早く手を打たねば」


 ミルヴァは表情を曇らせながら、只一言。


「分かっている」


 次の瞬間、ベリックは青色の魔方陣を地面に展開させる。


 魔方陣は二人の体を回転しながらゆっくりとくぐり抜けると、くぐった所から二人の体は徐々に消えていった。


「ん?」


 何かの気配を感じ、後ろを振り向くドレッド。


「どうしました?ドレッドさん」


 リオスが首をかしげると、ドレッドは恐い顔で言った。


「いや……何も」

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