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村娘、女王になる  作者: 三月
摩擦病
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第五話 王宮会議

 月に一度の王宮会議。ここでは、第1師団から第8師団までの師団長が出席し、国の現状を王に報告する。各師団長達が大臣のような役割も担っているのは、軍事力がものを言わせていたかつての帝国時代の名残と言えるだろう。


 師団長達は、玉座の間の中心に敷かれた青いカーペットの横に並び立ち、左は第1から4、右は5から8の師団長が手前から数字が小さい順に並んでいる。


「――でありまして、今月の税収も先月同様魔力の歪みが原因で芳しくない状態で……」


「うーむ」


 エレナは、まるで賢人のように全てを悟ったような表情で、彼らの言葉に耳を傾けた。


 その姿に、税収を担当していた、若干15歳にして第7師団師団長にまで上り詰めた天才少年。リオス・ウル・ハミルは思わず息を飲んだ。自分の中にあるほんの少しのよこしまな考えが、エレナに見透かされているのではないか。国の人々から集めた税金の山からほんのひとつかみだけ盗み、その金で大量の菓子とドクロのマークが入った指輪を買ったことが、バレたのではないかと。


「ですから、先月から今月の税収が減っているのは当然の結果であり、早く手を打たなければーー」


 エレナの顔つきが徐々に神妙になっていくにつれ、リオスの体からは大量の冷や汗が拭きだし始めた。報告する喋り方も徐々に支離滅裂になり、その目には涙がにじむ。


 そしてリオスはついに、我慢の限界に達した。


「お許しください陛下!」


 リオスはエレナの前に躍り出てるや否や、地面に頭をこすりつけ、見事な土下座を披露した。


「面目しだいもございません!民から集めた税金を管理する立場であるにも関わらず、その税金からお菓子とアクセサリーを買うなど、国に仕える兵士として、師団長としてあるまじき好意!どんな罰でも受けますのでどうか!どうか許してください!」


 師団長、大人達はリオスに対し冷たい視線を向けた。税を私欲に使うと言うことは、例え少量であっても、国民を裏切る許されざる行為だ。このことが公になれば、国民達に示しがつかない。リオスは本気で、師団長の証を外される覚悟をした。


「リオス君、自分から謝れて偉いので、許してあげます!」


 エレナはニッコリとリオスにそう告げる。リオスは目に滲んだ涙とよだれを垂らしながら、


もう一度深く頭を下げた。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


(なんて器の広いお方だ!僕は一生この方について行くぞ!)


「ただし、リオス君には税の重みをしっかりと理解してもらう必要があるよね。税って、本当に払うの大変だから……」


 エレナの声色が、変わった。優しい中にもヒシヒシと感じる怒り。リオスはその怒りを瞬時に察知して固まる。


「リオス君には、私の住んでた村で1ヶ月、身分を隠して仕事をしてもらいます」


「い、一週間ならまだしも一ヶ月はちょっと長過ぎじゃぁないですかぁ?私にも仕事がありますし。そもそも、農民のような貧しい暮らしが僕にできるかどうか……」


 貴族であるリオスにとって農民の暮らしなど全く想像が出来ず、貧しいというイメージしかないため、そんな世界に自分が放り込まれることにこれまでの人生で一番の不安を感じていた。


 リオスの言葉を遮り、乾いた笑顔でエレナはリオスに言い放つ。


「私にも出来るんだから、リオス君にもできるよね。あと、これ命令だから」


(ああ、この人一度決めたら何言っても曲げないタイプだ……)


「……はい」


 リオスは意気消沈し、方を落としながら自分の立ち位置へと戻っていった。


「あ、あとリオス君……」


「はい、何でしょうか陛下」


 エレナは申し訳なさそうに苦笑いしながら言った。


「さっきの税収の話、あたし良く分かんなかったから、後でもう一回教えてくれる?」


 その時、リオスは悟った。陛下のあの全てを悟ったような目。悟っていたのは税収のことでも自分が税金をちょろまかしたことでもなく、自分が税収の説明を理解出来ないことを悟った目だったのだと。


「わ、分かりました陛下」


 引きつった笑顔でリオスはそう答えると、誰にも聞こえないように呟く。


「うわぁ……謝って損した……」


 一連の会話を見て、リオスの仕事の代わりは、自分がやることになりそうだと身震いしながら、会議の進行役として続ける。


「続いて、第8師団長、ドレッド・モーサ。報告を」


「はっ」


 右列の一番奥から、姿を現したドレッドは、数日前に反乱を起こした時とは比べものにならない程変わっていた。


 ボサボサで腰まで伸びていた茶髪のロン毛を切り、さっぱりとしたスポーツ刈りに変わっていた。


 ドレッドのその清潔感のある姿を見た兵士がこれまでいなかったためか、ドレッドのことをよく知らないエレナよりも他の兵士達の方が感心していた。


「では、報告いたします」


 見た目が変わってくると、喋り方が変わっているわけでもないのに、その言葉にキリッとした印象がつく。


「うん、この前約束したからね。国民の声を聞くって」


 ドレッドは片膝をついて頭を下げると、国民達の現状を話し始めた。


「今回ご報告する病によって、国民の6割がどこに伏せる事大となっております。いえ、ユーシア王国だけでなく、魔族も含めた世界中の生物を苦しめている病。魔擦病の件でございます」


読んでいただきありがとうございます

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