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第四十二話 転機

「平和の女王……予言はやはり、間違ってなかったんだな」





「そう、これが我らの仕える女王」


 その老人の声は、騒がしい部屋を一瞬で静寂へと導いた。


「……長老様!」


 子供達の目線が、一斉に食道の奥にある壇上に向けられる。

 壇上の紗幕の奥に浮かび上がるのは、あまりにも弱々しく痩せ細った老人のシルエットだった。

 頭に角がついている様子を見るに魔族。声の低さからして男であることは間違いない。


「我らが女王、エレナ様。老いた私の体はこの地の魔力の変化について行けず、非情に醜い。なるべく、皆には見られたくないのです。布一枚を隔てて謁見する無礼を、どうかお許しください」


 エレナは口に含んだ肉を慌てて飲み込むと、先ほどとは打って変わった真剣な眼差しで、紗幕に写るシルエットを見つめる。


「そんな、無礼だなんて思ってないです。それより、一部の人にしか知られていないこの村に、私達を入れていただいて、本当にありがとうございます。」


 気づけば、エレナの配下達は食事を辞めて跪き、長老に向けて頭を下げている。

「かっけぇ、」と言った子供達の呟きが、ポツポツとエレナ達の耳に入った。


「魔王様は、ラプラスの書の予言通りに事が運ぶことをお望みでした。我々はそれに従ったまで」


 グアルや店にいる魔族や人族が、小さく頷く。


「その、さっきから気になっていたんですけど、私が貴方達の女王っていうのは、どういうことですか?」


 紗幕越しにも、長老が小さく笑みを浮かべているのが、エレナにも分かった。それも、とても安心したような笑み。


「そのままの意味でございます。この村住人、及び魔王様に仕えていた魔族達は全て、たった今貴方の配下となったと言うことです」


「え?……え?」


 いつもは奇想天外な行動で周りを驚かせているエレナも、今回ばかりは突然の展開について行けていない。


 いや、エレナだけではない。その場にいたエレナの配下であるマーク、ドレッド、ミルヴァ、全員が体中から冷や汗を垂らし、あり得ない物でも見たような目で紗幕のシルエットを見つめている。


「えっと……それって」


「ありえない!全ての魔族が、エレナ様の配下に着くだと!」


 エレナが長老の言葉にうろたえていると、ミルヴァが言葉を遮って叫んだ。


「よくもそう易々と我々の領域に踏み込めると思った物だな!お前達魔族を、そう簡単に我々が受け入れるとでも思うのか!……共存など出来ないぞ、この人殺し共め!」


 立ち上がり、長老に剣を向けようとするミルヴァ。

 だが、剣を抜こうとする手は、背後にいたドレッドによって阻止される。


「……放せ」

「団長、村が相手とはいえ、今は国交の場です。お気持ちは分かりますが、その剣をお収めください」


 例えミルヴァの方が戦闘力が上とはいえど、単純な筋力の差では、男であるドレッドの方が上。

 ミルヴァは渋々途中まで抜けた剣を鞘に収める。


「まだ受け入れられぬと言うのであれば、魔族を配下とするのは先でも良い。だが、この村に住む我々はもう、魔族ではない。人族と生活が交わり、新たな生き物として日々を歩んでいる。魔族と人族の間、魔力のない存在である、人間に」


「人間……だと」


 ドレッドもマークもエレナも、ミルヴァ同様思うことは沢山ある。

 彼らも、魔族との戦いで数多の者を失ってきた。友人、家族、同僚……そして、勇者。


 それでも、エレナは言った。


「人間、魔族と人族が分かりあえるなら……共存できる姿があるなら、争わなくて良いんだよね。私達」


 エレナは、亡き夫のペンダントを握りしめる。いつもより強く。

 勇者の求めた、平和な世界に向かう、大きな一歩の喜びに打ち震えながら。


「全部、解決する……魔族の人達皆が、ユーシア王国で生活すれば、いずれ王国全体もこの村みたいに皆人間になって、摩擦病の苦しみから逃れられる」


「エレナ様!気は確かですか!貴方の夫を、槍の勇者を殺した者達と手を取り合うなど!」


 珍しく取り乱した様子で、ミルヴァはエレナに向かって叫ぶ。


「私が最初に、割り切らなきゃ。ユーシア王国女王の、私が」


 エレナは小さく呟いた。もう一度、ユートのペンダントを握りしめて。

 そして、深呼吸をして穏やかな表情を作る。


「ミルヴァ、一体どうしたの?戦争が嫌いなのは、ミルヴァだって同じでしょ?何だか、いつもと違うよ。こんなやり方」


 エレナの言葉に、ミルヴァが口籠もる。


 だがその様子を、村の人々は皆見ている。全てを分かったような、哀れみの眼差しで。


「エレナ様、彼女にも事情があるのです。それよりも、我々は備えなければなりません。これより起きる試練に」


「試練?」


 長老の言葉に、エレナはキョトンとした目で返した。


 その時。


「え、何……これ」


 辺り一面の地面から、青い光が放たれている。


「魔法……何故!使えないはず!」


 ドレッドが驚きの声を上げると、グアルが言った。


「魔法は、そこにある魔力。つまり、大気の魔力を、自分の魔力で作り出した魔法陣を使って変換して出力する。だが、魔道具であれば」


「魔法を修練していない人間でも使えるよう、既に魔力が内蔵されている」


 ドレッドとは対照的に、全く動じていない様子のグアル。

 ドレッドが辺りを見回すと、村の住民達も同様、何一つ動じていない様子だった。


「これも、ラプラスの書に書かれていたのか!」


 ドレッドが問うと、グアルは答える。


「そうだ」


 少しずつ、辺りの景色が歪み始めていく中、マークが何かに気づいていった。


「まさかこの魔道具、金の亡者達が使っていた物なんじゃ」


 マークが呟くと、ミルヴァは言った。

 蓋を外した、魔道具の瓶を片手に持って。


「そうだ……私がお前達を、隙を見て排除するために持ち出した。魔族がエレナ様の配下となるのは、都合が悪い。説得も困難であると判断した。ならば、早急に手を打つ全ては我が主、イザベラ・エル・ユーシア様の為」


「イザベラ……って、何でミルヴァさんが」


 状況が掴めないエレナ。


「なん……だと、ありえない」


 驚愕の表情をあらわにするドレッド。


「裏切ったのか……」


 そして、二人が受け入れる事を拒む事実を、マークは口にした。


 視線が、ミルヴァへと集まる。


 ミルヴァは、何かに安堵したように笑みを浮かべると、悲しそうに笑って言った。


「全ては、亡きデイズ王の為……お許しください、エレナ様」

 ミルヴァの目線が、動揺するエレナの目を真っ直ぐ捉えたその時、青の魔法陣によって、エレナ達は転移した。


 魔界の、辺境の地へ。

更新、全然出来ず土下座。

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