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第四十一話 おもてなし

「貴様こそ、こんなところで何をしている。頭についていた角はどうした、剣鬼グアル」


「その名で呼ばれるのは好きではありませんね。数多の命を奪って、呼ばれるようになった名ですから」


「人の血肉を好む魔族が言うと、嫌味にしか聞こえないな」


「魔族……ですか。未だにそうやって我々を、区別しているのですね。まぁ、無理もないでしょうが」


 辺りの小鳥が囀るのを辞めるほどの殺気を飛ばすミルヴァと、その殺気に一ミリも動じずに淡々と話すグアル。


 達人同士の、命を取り合う戦場の空気感。話に割っては入れる者など、誰一人としていなかった。


「えっと、ごめんなさい。どちら様?」


 いた。


 ユーシア王国女王にして、槍の勇者の妻、エレナ・ユーシア。ドレッドもマークもミルヴァも、グアルを警戒し続ける中、その空気を、彼女はいとも簡単に壊していく。


「ミルヴァさんの知り合い?」


 エレナがグアルの事を見つめる。


「なるほど、確かに変わったお方ですね……」


 グアルは鞘に収めていた剣をその場に置き、両手を挙げて話し出した。


「旧知の者との会話がついはずんでしまいました。無礼をお許しください。私は貴方を、お向かいに上がったのです。我らが女王」


「……???」


 困惑の表情を浮かべるエレナに向かって、グアルは歩き出す。


「動くな」


 制止したのは、エレナの護衛であるマークだった。


「何故俺達が、ここに来る事が分かった。俺はここにいる人間以外の者には、このことを伝えていない」


 城の誰かが情報を漏らしたのか、それともここにいるドレッドさんかミルヴァさん、二人の内のどちらかか。


 マークはグアルに問いかけながら、二人の反応も目の端で観察している。


 だが、グアルの口から出た情報は、マークの予想とはまるで違うものだった。


「記されていたのです、ここに我らを統治する女王が来られると」


「記されていた……とは、まさか」


 ドレッドが目を見開くと同時に、ミルヴァも何かを察する。


「過去、現在、未来。全ての事象が記された神の御業を持って、人類と魔族の世を狂わせた魔性の書物。ラプラスの書です」


「ラプラスの書って……何? 」


「ラプラスの書……確か、魔族と人類の戦争の引き金になった」


 かつて村にいたエレナと、帝国時代を経験していないマークは、ラプラスの書というワードにあまりピンときていないような反応を示す。


 だが、ミルヴァとドレッドはまさに、ラプラスの書を巡る魔王とユーシア帝国との一悶着に、現役で関わっている世代だ。


 ここに来て再び、名をあらわにしたその存在が、かつて仕えていた帝国の醜さと、その絶対的な力を二人に思い出させる。


「魔王が倒された後、ラプラスの書は見つからなかったはずだ。何故お前が内容を知っている」


 険しい顔でミルヴァが問い詰めると、グアルはニコリと笑って言った。


「そう怒らず。立ち話もなんですし、続きは村で話すとしましょう。人と魔族……いえ、人間が暮らす、我々の村でね」


 グアルはミルヴァをあからさまに見て、言った。


「貴方もその方が、都合が良いでしょう?」







(おかしい……)


 ドレッドは、木材で出来た質素なソファーに腰掛けながら、幾度も探知の魔法の発動を試みていた。


 村全体を覆う、非情に大きく、薄い魔法陣を展開することで、村の中にいる人や魔族の人数を把握できる。


 だが……


「マークさん。そしてドレッドさん。魔法は仕えませんよ。この村では」


「何っ!」


 見透かされたようなことを言われ、思わずギョッとするマーク。


 ドレッドは両手を顔の前で組み、険しい表情で微動だにしない。


「……何故だ。何故魔法陣が展開できない」


 ドレッドが問いかけると、グアルは答えた。


「……それが、この世界の真の姿だからです」


「真面目に答えろ、何を分けの分からないことをいってるんだ」


「私達が来る前に、摩擦病の薬をこの部屋に振りまいていれば、可能なことだ。嘘を着くのは、貴様の為にならないぞ」


 マークとミルヴァもピリピリし始めるが、相変わらずグアルは飄々とした表情で返す。


「私が嘘を着いているかどうかは、そちらのドレッドさんに聞けばすぐ分かるかと」


 ミルヴァとマークがドレッドを見ると、先ほど以上に、眉間にしわを寄せ、険しく、困惑した表情でだまりこくるドレッドの姿があった。


「一刻もすれば、長老様がここにおいでになります。出来ればその前に、食事を食べていただけるとありがたいですね。この村一の料理人が、皆様に会わせて作った一品ですから」


「長老様?一体誰……」


 ミルヴァがまたグアルに突っかかろうとすると、それを遮ってエレナの声が響き渡る。


「皆、大丈夫!!グアルさんの出してくれた料理、美味しいよ!」


 気づけばガツガツと食事を進めているエレナに呆れながら、マーク達はエレナに続いて食べ始めた。


「ねぇマーク、これってうちの村の近くで採れた山菜だよね。こんなに美味しく出来るなんてすごいよ!」


「俺も食べたのは久しぶりだが、村でもここまで上手く作る人は誰も……」


「ミルヴァ団長……これはなかなかですよ」


「……私は良い」


 パクパクと食事をするエレナ達を見て、グアルは優しく笑みを浮かべて独りごちる。


「確かに、この方は今までの統治者とは違うな」


 その時、エレナが入り口の方から視線を感じた。思わず振向くと、扉の隙間からいくつもの目が。


「こんにちは!皆さんはこの村の住人の方ですか?」


 エレナは疑いも、恐れもせずに問いかける。


 そんなエレナの姿を見たグアルは、フッと笑い「開けて良いぞ」というと、扉が開いたと同時に数数人の魔族と人間の子供が、扉の前でエレナ達のことを見つめていた。


「なぁグアルさん!あの人が僕らの女王なんだろ?」


 屈託のない笑顔で、エレナを指さす魔族の少年。


「うわー、ドレス綺麗……」


 エレナを見て、目を輝かせる人間の少女。


「いいなー、美味しそう」


 子供達が次々と顔を出す。


「えっと……一緒に食べる?」


 まさかの発現に目を丸くするドレッドと、呆れるマークを飲み込むように、子供達は雪崩の様にエレナのそばで食事を食べ出した。


 子供達の質問の嵐にエレナは目を丸くし、マークはドレスで鼻を拭こうとする子供をエレナから引き剥がし、ドレッドは困惑した表情で子供達を見つめ、ミルヴァは険しい表情でエレナを見つめている。


「うわ、これ美味ぇ!!」


 子供がエレナの料理を一口頬張ると、エレナは起こりもせずに笑みを浮かべて言った。


「でしょー!!私もびっくりしたの!」


 ピリピリしていた先ほどの空気は、騒がしさの中にある朗らかさによって失われる。

 グアルはその光景を眺めながら微笑むと、独りごちた。


「平和の女王……予言はやはり、間違ってなかったんだな」

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