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第三十九話 出発

 翌日。



 エレナ、マーク、ドレッド、ミルヴァの4人は、早朝に城を旅立った。


 王宮の者達には、秘密の会談があるとだけ周知させた。



 王宮に使える者達は、その少ない情報に少々うろたえた。エレナに付き添った師団長達の名前を聞くと、特に詮索はしなかった。



 ルドミルくらいは、気づいていたかも知れない。何故エレナ達が、詳しい事を話さなかったのかを。



 何せ、現在世界中での外交はほとんどストップしている。


 どの国も、魔王との戦争による被害で、他の国と協力する暇すらないからだ。



 そんな中での会談。違和感を抱く者も一定数いただろう。


 だが、皆は自分の役割を分かっている。知らされなかったのなら、知らない方が良い。そう割り切り、皆いつも通りの仕事へと戻っていった。



 一方エレナ達一行は、ウェルス商店街から押収した魔道具を使用し、目的地へと向かう。


 使用した魔道具は、ウェルス商店街こと金の亡者達の十八番としていた、青の魔方陣による複数人での転移を可能とするポーションだ。



「それでは、魔方陣を展開します」



 マークが、コルクで出来たポーションの蓋をキュポっと開け、玉座の間の中心に振りかける。



 ポーションによって濡れたカーペットから、徐々に青い光がうっすら浮かび上がり、その光は徐々に模様を描いていく。



「相変わらず、修行いらずだな。魔法を使うために、結構努力をしたんだがなぁ……」



 ドレッドが眉間にしわを寄せる。



「魔族との戦争が起こり、ポーションを量産していた数年前でさえ、ここまでの効力を持つ物は極めて希だった。よくぞここまで集めたものだな……」



 ミルヴァは魔法が使えないせいか、その魔道具を少し期待のこもった表情で見ていた。



 戦闘時に自分が使えば、更に効率よく敵を殲滅できる……等と考えていそうだと、マークは察する。



「ミルヴァ様、これは貴重品です。戦闘時にあまり乱用をしないように」



「分かっている」



 そんな話をしている間に魔方陣も完成し、3人はエレナの方を振向く。



「出来たみたいだね」



 玉座からエレナはゆっくり立ち上がると、胸のペンダントを握りしめ、3人の元へ近づいていく。



 コツ、コツ、エレナの履くヒールの音が玉座の間に響き渡ると共に、厳しくなる3人の表情。



「エレナ様、まず私が先に魔方陣に入ります。エレナ様は後に、マークとミルヴァ団長と共に、魔方陣へお入りください」



 ドレッドが片膝をついてそう言うと、エレナはにこりと笑う。




「うん、ありがとう」




 ドレッドは魔方陣の中へと足を踏み入れる。すると、彼の体は徐々に歪んでいった。




「エレナ様、ウェルス商店街の彼らが言っていたことが本当であるならば我々は少々、転移先から目的地まで歩くことになります」




 そう、その地では、魔法が使えない。というより、魔力がない。魔法が使えない等、これまでの歴史上あり得ないことだ。


 人類も魔族も、いついかなる時も、世界を流れる魔力と共に生き、魔力と共に発展してきた。


 空が恵みの雨をもたらし、大地が人々の食物をもたらし、空気が人々を生かす様に、世界に満ちる魔力もまた、人々を生かす世界の仕組みの一部だ。


 その魔力がない地帯に足を踏み入れること。それ事態が、今回の旅の障壁の一つとなる。



 第一、その村の存在も、人と魔族が、魔力のない空間で生存していると言うことも、全て人、ウェルス商店街から聞いた話。


 普通の人間であれば、眉唾だと鼻で笑うことすらもせず、聞く耳を持たないだろう。


 そんな情報をあっさり受け入れ、自ら赴こうとする。


 それも、ウェルス商店街の人々を信用しているという理由だけで。



 それがこの女王のすごい所であり、人々の支持を集める所なのだろう。



「うん、分かってる。大丈夫だよマーク。ちゃんと替えの靴持ってきたしね」



 エレナは右手に持っていた村娘のころに履いていたボロボロの靴をマークに見せつけると、自信満々そうに笑った。



「村に着いたら、靴は履き替えてください」



 少し呆れたようにため息を履くマーク。


 (ヒール以外にも女王の為の歩きやすい靴はあったのに……)


 と言う心の声を飲み込む。何故なら、こっちの方が慣れてるからと言ってまた少しだけもめる未来が目に見えているからだ。



「うん、そのつもり!」



 今更ではあるが、マークは女王となったエレナの振る舞いに、割と初めの方から驚いてばかりだった。


 村娘だった頃のエレナは、優しくて明るくて元気。少し天然だが、それが親しみに繋がっている。全体的に彼女の側にいると、穏やかな気分に包まれるそんな人物だった。



 それが今、女王となったエレナは、頑固であり、決して自分を曲げず、穏やかと言うよりはハラハラする日々。



 そしてマークが一番驚いていることは、その肝の強さ。反逆者となり、武器を持ち、エレナを殺そうとするドレッドに近づき、赦しを与える。



 学がないことを自分で理解しつつも、自らの意思で判断を下す。



 そして決して努力を怠らず、夜は深夜まで執務室の明かりが灯っている。



 何故勇者がエレナを選んだのか、マークも徐々に理解し始めていた。


 それと同時に、エレナが握りしめる旨のペンダントを見て、マークは表情をほんの少し曇らせる。



 女王になったことで、そんな一面が浮き彫りになったのか……それとも勇者との結婚生活の間に、彼女が変わってしまったのか。



「それじゃあ、行こ」



 エレナが一歩を踏み出し、慌てたようにミルヴァとマークも魔方陣の中へと入っていく。



「……マーク、何だそれは」



「桶です」



 ミルヴァが眉間にしわを寄せる。



「見れば分かる。何故そんな物を持ってきているんだと、私は聞いているんだ」



 ミルヴァの問いに、マークは表情を変えず答える。



「エレナ様が吐いた時、周りを汚してしまわぬ様にと」



「マーク……お前、護衛の鏡だな」



 エレナは、そんな二人の会話も聞かず、ただ一点を真剣な表情で見つめていた。

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