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第三十七話 希望の手がかり

新章です。

 金の亡者の一件が一段落つき、ウェルス商店街の賑わいは更に増している。

 彼らのバックにいた組織からは、王宮が直々に武力を行使して守る代わりに、商店街の売り上げの1割を国に献上するという契約を交わした。

 皆組織の報復を恐れる事もなく、伸び伸びと活動を続けており、商店街の活気は、戦後以降今一番を更新し続けている。


 商店街の収入を王宮が得たことで、減らしていた食事が徐々に元に戻りつつあり。また、その食事はウェルス商店街から購入している。


 それによってついた、王宮がお得意様の商店街、という泊をひっさげ、復活した商店街を宣伝。

 国中から人が集まり、良心的な価格での商売を行っている。


「いやーエレナ様のおかげだー!見てみろよー!!この商店街の賑わいを!」


 八百屋の亭主が大きな声でがははと笑いながら、また性懲りもなく王宮を抜け出して商店街に来ているエレナに語りかける。


「商店街の皆が、元気にまたこうして商売が出来てるのは、私も嬉しいよ。本当、すごく悲しかったけど」


 少しムスッとした顔で、エレナは言った。

 そんなエレナの服装は、村娘だった頃に来ていたラフな服装。

 何故かマークが食事の時間を30分長く取る様になったことで、ドレスを脱ぐ時間が出来たらしいのだが……。


「悪いと思ってるさ。だから今日は、エレナ様に有益になる情報を話そうと思ってんだ」


「有益な情報?」


 「ああ!10万エル払ってくれれば……」


 八百屋の亭主の言葉を遮り、エレナはじとーっとした目で見つめて言った。


「私の村にも商人が野菜を買いに来ててね。その人が言ってたんだー。商人は、信頼が大事だって」


「……悪い、冗談が過ぎたな」


 八百屋の亭主は、少し後退し始めた額の汗を拭うと、真剣な顔で言った。


「エレナ様には、命も、生活も、全部与えて貰った。それがこの時代、どれだけ貴重な事かくらい、分かってるつもりだ。エレナ様の言うとおり、商人は信頼が大事だ!一生あんたについていくぜ!俺達は!!」


 エレナは商店街の人に貰ったパンを口に入れながら、上目遣いで八百屋の亭主を見つめて言った。


「信じるからね?本当に」


「ああ、そもそもこれからエレナ様に話す情報は、損得度外視で、エレナ様の為に話すんだからな」


 エレンはパンを皿の上に置くと、真剣な顔で八百屋の亭主に向き直る。


「ありがとう、教えて」


 八百屋の亭主がエレナに教えた情報は、これからの王宮の行く末を大きく変える物だった。


 いや、もしかすると世界中が、変貌してしまう程の情報だろう。


「元々この噂は、商人達の間でもちょくちょく流れてたんだ。押収された不思議な道具があっただろ」


「ミルヴァさんに一瞬で致命傷を与えたって言う?」


「ああ、銃って言うんだが、あれを作った連中についての話だ。何でも、マイナス地帯とプラス地帯の境目にある村らしいんだが、どうやら魔族と人間が、摩擦病にかからず共存してるらしい」


「え!?そんなことできるの!?」


「しーっ声が大きいですエレナ様!」


 大の大男が大焦りしながら、エレナの口をその大きな手で塞ぐ。


「この情報は、俺達の後ろにいた組織に口止めされてるんだ。万が一奴らがここを張ってたら、すぐにでも奴らと王国の戦いが始まっちまう」


「ごめん……でも、そんなこと出来るの?」


「ああ、最初は魔族側も人間側も何人か摩擦病で死んだらしいが、あるとき突然、摩擦病がパタリとなくなったらしい」


 そんなことは、これまでの世界であればあり得ないことだった。 

 人間が魔族の魔力地帯に入れば、摩擦病で数週間かけて弱っていき、死に至る。

 魔族も、それは同様。

 今世界中が苦しんでいる摩擦病も、勇者と魔王の最終決戦での衝突によって、プラスとマイナスの魔力が世界中で入り乱れたことが原因で起きている。

 摩擦病としては軽度だが、この問題は知っての通り、ユーシア王国を全土を滅ぼしかけた恐るべき災害と言っても良い。


 魔族と人類は、決して相容れない。お互いが土地を求めて奪い合う。

 その世界に定められた運命からは、決して逃れられないはずだった。


 摩擦病の薬の効果が切れるまで、あと1ヶ月。それが過ぎれば、また以前の様に人々が摩擦病で倒れていく。


 そうなれば、一時的に活気を取り戻したこの国も、急速に停滞していき最後には……。


「じゃあもしかして、薬使わなくても、皆が摩擦病にかからない方法が、分かるかも知れないの?」


「もしかしたら……だがな」


 ずっと、手がかりが掴めずにいた。摩擦病の薬が切れた後も、国民が暮らしていく方法を。


 

 すると、エレナの瞳がキラリと光る。


「本当にありがとう!私ちょっと王宮に行ってくる!」


 エレナは八百屋の亭主の手を無理矢理握って堅い握手を交わすと、そのまま勢いよく手を振りほどいて、まるで希望というエンジンを得たガソリンのように、超馬力で王宮に戻る一歩を踏み出した。


「おいちょっとまてエレナ様、王宮の奴らに話すのはまだ早いぜ」


「きゃっ!」


 八百屋の亭主は、エレナが振りほどこうとした手を力強く放さず握りしめていた。

 バランスを崩したエレナは、尻もちをつく。


「ああ悪いエレナ様。怪我してねぇか?」


「いてて、大丈夫だけど……どうして止めたの?皆も早く摩擦病がなくなった方が嬉しいでしょ?」


 八百屋の亭主は、バツの悪そうな表情で、エレナに耳打ちした。


「俺達のスポンサーは、王宮の動きを逐一報告してきた。王宮内に奴らの密偵が紛れ込んでるのは間違いない。奴らは王宮に恨みを持っている様だし……それに、奴らこの情報が広がることを嫌がってた。今その情報出すのはまずいんだよ」


「それ、本当?」


「ああ、本当だ。間違いなく、王宮に裏切り者がいる」


 エレナは少し黙り込んだ後、苦笑いしながら八百屋の亭主に言った。


「……分かった。ありがとう。一旦考えてみる」


「頼むぜ、俺達の命だけじゃなく、世界中の人々の命がカかってんだ。この情報には。俺達は、あんたの事を見込んでこの話をしてるんだぜ。命をかけてな」


「ありがとう、託してくれて」


 八百屋の亭主は何も言わず、真剣な目でエレナを見つめて頷いた。


「まずはマークに相談して見る。これは多分、私だけじゃ決められない」


「それが一番良い。あの方がエレナ様を裏切るなんて、絶対にありえないからな」


「うん、私もそう思う。ありがとね、絶対に悪いようにはしないから」


「お、おう」


 エレナはにこりと笑いかけ、王宮へと戻っていった。

 走り去るエレナの後ろ姿を眺めている八百屋の亭主の背後に、数人の商人が近づいてきていった。


「あの子は、いつきずくんですかね、マークさんのこと」


 八百屋の亭主は酸っぱい物でも食べたような微妙な笑顔を浮かべて言った。


「ま、道のりが長いことは確かだな!お互いに!」

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