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第三十五話 顛末

 マークには、思い当たる節がなかった。これほどの速度の魔法は、今までに見たことも聞いた事もない。

 いや、マークには一つだけ心当たりがあった。見た事も聞いた事もない。しかし、それを可能にする心当たりが。

 緑の魔方陣の周りに鉄塊を用意し、爆発によって鉄を破裂させ、周囲の敵を制圧する。

 だが、その場合攻撃を食らうのがミルヴァだけというのは非情に不可解。

 

 ミルヴァの腹にハンカチを当てながら、マークは割れた氷を確認する。


「こ、これは……」


 ミルヴァの腹に空いた穴同じ程度の小さな鉄の玉が、分厚い氷の奥深くまでめり込んでいた。


「そんなバカな」


 マークは、氷の防護壁に穴を開けた鉄の玉が辿った弾痕を追う。

 そしてその先では、一人の少女が、手のひらに収まる程の小さな鉄の筒を、こちらに向けていた。


「皆言ってた、王宮の人が戦争始めたせいで、お父さんとお母さんが死んだって……」


 鉄の筒を持つ少女、リタは、氷の向こう側から、冷たい視線をマークに向ける。


「辞めろリタ!」


 商店街の人々が、リタを押さえようと近づく。

 だが、リタは商店街の人々に、鉄の筒の先を向けた。


 彼らはその武器の特徴を知っていたらしく、筒の先を向けられた途端に微動だに動かなくなった。


「死んでよ!何でも良いから、死んでよ!!」


 少女は人差し指を手前に引く。

 続けざまに、あの破裂音が鳴り響いた。


 パァン!パァン!パァン!


 破裂音と同時に、氷が砕ける音も三度。

 そして、氷の中には鉄の玉が三つ。


「あの小さな鉄の筒か」


「何で!!何でよ!!死なないなら、お父さんとお母さんを魔法で生き返らせてよ!!」


 涙を流しながら叫ぶリタ。

 マークはすかさず懐から小さな短剣を取り出し、緑の魔方陣を付与。

 魔方陣で生み出した氷を消し、リタに向けて投げつけた。


「いやー!!」


 絶叫しながら、人差し指を引こうとするリタ。

 だが、マークが投げつけた短剣が目の前に迫り来ると、その短剣に付与された緑の魔方陣から小さな氷が生み出された。


「ぎゃっ!」


 氷は鉄の筒に命中し、短剣の柄は少女の眉間に直撃する。

 少女は小さな悲鳴を上げ、その場に倒れた。


「……何なんだ、あの不可思議な道具は」


 ただの商人の少女が一瞬にして、第2師団団長であるミルヴァを戦闘不能にする程の攻撃。


「あれは、魔道具なのか?」


 鉄の筒がマークの方へ向いた瞬間、確かに彼は、死を直感した。

 その証拠に、タレ落ちる冷や汗と止らない鳥肌が、未だに絶えない。


「どうか、どうかリタを許してください!」


 聞き覚えのある少女の声に、マークは思わず振向く。

「お願い!殺さないで!」


 そこには、必死にリタの命を乞う、アイラの姿があった。


「安心しろ、気絶させただけだ。殺しはしない。ウェルス商店街の人々と、約束したからな」


 アイラは力が抜けたようにその場で座り込む。すると、アイラの両親が焦ったようにアイラを連れてその場から離れた。


「大丈夫か……女の師団長さんは」


 八百屋の亭主がマークに語りかける。


「いや……重体だ。出来れば手を借りたい」


「ああ、もちろんだ。その代わり、念のため女王様への根回しも頼む」


「そこは心配いらない、そもそもエレナ様が女王でなかったら、初めから俺もミルヴァ団長も、お前達を殺すつもりだったんだ」


「そうか、王宮も……変わってきてるんだな。なら、俺達も変わらねぇとな」


「共に変わっていこう。俺も、その覚悟が出来たところだ」


 ドームに空いた巨大な穴から、見える、満天の星空を見つめながら、八百屋の亭主は呟いた。


「星も集まれば、夜道くらいは照らせんのかねぇ」



 事の顛末は、商店街の人々がエレナに裁かれる際に、皆に語られた。


 摩擦病や星の魔力の不均衡、更に大きな人口減少。

 商店街の人々は、このままでは仕入れる商品も高騰し、売る人間もどんどんいなくなっていく。

 いずれ商売が出来なくなり、餓死する運命だった。

 だが、彼らがいなくなれば、町の人々は食料や生活に使う魔道具を入手できない。

 そんなとき、名もなき組織に取引を持ちかけられた。

 それは、組織が定期的にウェルス商店街に送る計画書に沿って、国でテロ行為を行うこと。

 その際、必ず派手に暴力行為を行い、現政権を批判するようなメッセージを残すこと。

 物資は組織が提供し、奪った金品宝は全て商店街の人々の物となること。

 彼らはそれを承諾し、金の亡者と名乗ってこの1年、悪逆の限りを尽くした。

 だが、暴力行為を行えど、死者はなかった。

 彼らも鬼にはなりきることが出来なかった。


 摩擦病の薬が国中に行き渡り、少しずつ経済が回復し始めたとはいえ、まだまだ自分達に力だけで商売を続けるには資金不足。そんなとき、バックの組織から最後の命令が来た。


 それは、女王のドレスを一着でも良いので奪うこと。

 ドレスの価値が分かっており、女王と親しくしていた彼らは、別の命令にして欲しいと組織に頼んだが、彼らは聞き入れないのならば商店街を潰すと脅しをかけた。

 更に、今回の報奨金は支払わないとまで言われ、彼らは完全に組織に傀儡となった。


 商店街の人々はやむなく命令を受け入れ、女王のドレスの強奪に取りかかる。


 まず、リタにドレスを奪わせる。

 誰も商店街の人々が結託して行っているとは思わないだろうと踏み、

商店街の皆でアイラを囮にすることで、王宮の操作を混乱させる。

 リタは時間が経った頃に髪を染めさせて遠い町に逃がす、これで上手く行く予定だった。だが、報奨金が出なくなってしまったため、彼らは独自に、もう一着女王のドレスを盗む作戦を企てる。


 ドレスが一着でもあれば、彼らは向こう数十年は商店街を維持できる。

 ウェルス商店街の人々は、独自に作戦を立て、組織からの情報と物資をフル活用して、エレナを誘拐した。

 

 だが、組織の情報と実際の王宮の対応に大きな差異があり、彼らはあっという間にたった二人の兵士に制圧されることとなった。


 


 彼らの話を聞いたエレナは、至極当然のように、商店街の人々のことを許した。

 だが、一部では彼らに罰を与えるべきであると主張する物もいた。

 すると、エレナは言った。


「皆、やりたくてやってたわけじゃ無い。私達は恵まれてる、生きるための手段を選ぶことが出来るから。でも、それでも超えちゃいけない一線はあると思う……私は、罰を与えなきゃいけない立場」


 エレナは、ニッコリと彼らに笑いかけて言った。


「私からの罰。必ず、商店街を復興させて、この国を支えて。その代わり、金の亡者みたいなやり方をするのは、絶対に辞めてね」


 エレナは、商店街を反映させるために、もう一着の女王のドレスを商店街の人々に与えた。

 彼らが持つ様々な情報と、命ある限り王国へ尽くす事と引き換えに。


「私、酷いことしちゃったかな。皆の人生を、勝手に決めちゃって……」


 商店街の人々の裁判が終わった後、寝室に向かうエレナが、不安そうな顔でマークに言うと、マークは顔色一つ変えずに答えた。


「いえ、貴方は救ったのです。彼らを……」


 マークの言葉を聞き、エレナは恥ずかしそうに笑って言った。


「マークがそう言ってくれると、自分の選択にちょっとだけ自身持てるかも」


 エレナは寝室の前までちょこちょこと走り出すと、マークの方を振り返って言った。


「ありがとうマーク!助けてくれたとき、かっこ良かった!」


 そう言ってエレナは、寝室へと入っていった。


「大変でしたね……今夜はゆっくりと、お休みください」


 布団の中で、小さく蹲りながら、エレナは眠りについた。

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