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第三十話 正体

 エレナが奇想天外な方法で国を救い、一線を越えそうになったら俺が止める。そうあるべきだと思っていたし、そうすれば上手く行くと思っていた。

 だが、現実というのはそう簡単な構造では出来ていないらしい。

 王宮会議を終え、すぐにフォレスの町へ向かい初めて3時間したころだ。

 第5師団団長のベリックが、青の魔方陣で俺の元に転移してきた。


「何かあったんですか?」


 俺がそう訪ねると、ベリックは行った。


「女王が、王宮に招いていた茶髪の少女の家族に、誘拐されました」


 それは、一瞬の出来事だったらしい。

 エレナのもてなしで、王宮の料理を食べてたアイラ一家は、王宮を立ち去る際にお礼をしにエレナの元へやってきた。


「お礼に、これ……」


 アイラが怯えながらエレナにとある物を渡したその瞬間、足下に青の魔方陣が展開され、エレナやアイラ家族共々どこかに転移させてしまったらしい。


「なん……だと」

「アイラという少女が使用していたあの魔道具は、ルドミルが言うには、世界に9つしか出回っていない最上級の物だそうだ。魔法を使った痕跡があれば、問答無用で魔法をコピーして、魔力のないものでも使うことが出来る」


 その魔道具は、俺も聞いたことがある。だが何故だ、アイラはエレナからドレスを盗んだ少女じゃなかった。それなのにエレナを誘拐した理由が分からん。


「エレナ様が誘拐された現場には、手紙が一枚落ちていた。端的に言えば、エレナ様を帰して欲しければ身代金を寄越せとさ」


「くそ、ふざけたことをっ!」


 俺が逆上すると、なだめるようにベリックが言った。


「まぁ待て、最後まで話を聞け。その手紙の差出人が誰なのか、お前も気になるだろ?」


「もったいぶらずに早く言ってください!誰なんですか!」


「金の亡者だってさ」


 金の亡者……ここに来て、何故。ドレスを手に入れのに、何故女王まで誘拐する必要がある。

 ユーシア王国を敵に回すと言うことが、自分の死を意味すると言うことが分からないのか。


 今までは第8師団のみが奴らを負っていたが、女王が誘拐されたとあってはそれだけじゃ済まない。全ての師団が奴らの殲滅に動き出すんだ。

 それとも奴らには、それすらもかいくぐることが出来る自信があるのか?


「もう少し具体的に手紙の内容を説明すると、ドレッドが青の魔方陣の転移先を解析することも織り込み済みで、解析が終わったら身代金を持って転移先に来いとさ」


「待ち伏せ……ですか」


「だろーな、ドレッドのこともよく知っている様だし」


 ベリックさんは僕と自分の足下に青の魔方陣を展開させた。辺りの景色が徐々にぼやけ始め、うねっていく。


「くそ、どうしてこうなる」


 裏目に出てしまった。本当に俺は、エレナに助言をしない方が良いのでは無いか?


「なーんて思ってんじゃないだろうな」


 驚き、顔を上げると、ベリックさんはニヤリと笑って言った。


「その表情は図星だな。安心しろ、お前の判断は正しかった。他の師団長は皆、そう思ってる。お前の判断が災いを呼び寄せたんじゃない。問題なのは、お前の判断を敵が上回ってきたと言うことだ」


 ベリックさんは、眉間にしわを寄せて言った。


「恐らく、奴らのアジトに身代金を渡しに行くとき、戦闘は避けられないだろう。俺の魔方陣で転送できるのはせいぜい2,3人程度。敵は戦闘の城つととは言え、多種多様の魔道具もち、入念な計画を練ってくる奴らだ……こころしてかかれよ」


 突如青色の魔方陣が浮かび上がって光を放った。

 薄暗い部屋にまばゆい光。部屋にいた彼らは思わず目を薄める。


「うっ気持ち悪い」


 光の中から現れたのは、ユーシア王国現女王、エレナユーシアだった。

 転移魔法は発動の際、転移者から見た景色は、渦を巻くように歪んでいく。

 転移魔法初体験であったエレナは、あまりの景色の歪みで酔ってしまっていた。

 顔を真っ青にしながら、口元を押さえている。

 そんなエレナの隣には、冷や汗をダラダラと垂らしているアイラとその両親。


「すまなぇ、お前らにこんな、危険な役割を任せちまって……」


「い……いや、しょうがない。不足の事態なんて、この活動を始めてから何度もあった。それに、商店街がなくなったら、俺達家族も食いぶちが亡くなっていずれ……」


 アイラの父親らしき男が、放心状態のように一点を見つめながら言った。


「だが……餓死と打ち首ってのは、どっちが苦しいんだろうな」


「辞めて!そんなことアイラの前で言わないで!」


 母親がアイラの耳を塞ぎ、叫ぶ。


「す、すまない……でも、逃げられるんだろ?俺達。手伝ってくれるんだろ?」


 薄暗い部屋にいる誰かに向けて、父親が言うと、闇の中で一人の男が言った。


「ああ、約束は守る。取りあえずお前ら家族は、このフォレスの町でしばらく身を潜めてくれ。しばらくしたら、スポンサーがお前達を逃がす最後の魔道具を持ってくる」


 すると、暗闇の中一人の女性が哀れむように言った。


「すぐ逃げれないのも仕方ないよ……本当はエレナ様が護衛と一緒にここにくる手はずだったんだから」


「うぅ……おぇっ」


 エレナは酔いが冷めないのか、口に手を当てて未だに地べたを這いつくばっている。


「とにかく、まずエレナ様をそこの椅子に拘束しよう。その後、エレナ様のドレスを脱がせてくれ。最悪エレナ様の身柄を返すことになっても、もう一着のドレスがあれば、スポンサーに交渉できる。誰か、目隠しを持ってきてくれ」


 暗闇の中、布を手に持った一人の男が現れ、エレナに近寄る。


「すまねぇ、悪く思わねぇでくれ」


 這いつくばるエレナに、目隠しをしようと布を頭の後ろに回そうとしたその瞬間。


 パシン!


 布を巻き付けようとした男の手が、エレナによってはじかれた。

 それと同時に、いくつかの水玉が、中を舞う。


「どうして……どうしてなの?商店街の皆」

投稿1ヶ月、三十話となりました。

ここまで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。

これからも少しずつ更新してまいりますので、どうぞ楽しんでいただけたらと思います。

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