第二十八話 この子じゃない
その頃、まだ昼間だというのに、まるで大陽の光を避けるかのように、薄暗い倉庫の中で、数十人の男達が円状に並んで話し合っていた。
「あのドレス、買い手は見つかったのか?」
暗闇の中、一人の男の声が響くと、その男の向かい側にいた二人の男が言った。
「お前は新参者だから知らないんだろうが、あのドレスは俺達のスポンサー様が取ってこいって命令したもんだ。最初から俺達の物じゃねぇ」
「しかもそのスポンサー、この任務を最後に契約を打ち切るって言ってきてるんだろ?この後俺達……どうすんだ」
最初に話し始めた男が、二人の言葉を聞いて、取り乱したように大声で言った。
「俺達の物じゃないって……どういうことだよ!あのドレス盗んで、俺達の金にするんじゃなかったのか?」
酷く動揺した叫び声が響き渡ると、それをなだめるようにまた別の男が言った。
「落ち着け、俺達だって同じリスクを犯してんだ……もう戻れない所まで来ちまってる」
「……何なんだよ、そのスポンサーって」
強面の男が答える。
「俺達に金と物資と計画。全てを提供して、この事業を影で操ってる奴らのことさ。つっても、スポンサーの正体が何なのかは、俺達もよく知らない。ただ、一つの国レベルの力を持ってることだけは確かだ」
不満そうに口を紡ぐ。
「おい、ドレスを盗めって依頼、どうして金が取れなかったんだ?金が取れれば、契約が打ち切られても、俺達全員、一生豪華な暮らしをしても余るくらいの大金は、もらえるはずだろ?」
その言葉を聞いた強面の男が、言いずらそうにゆっくりと口を開いた。
「皆、すまない……俺が悪いんだ。スポンサーとは、月5億と引き換えに、どんな依頼も受けるという契約になっている。目先の金に目が眩んで署名した、俺の責任だ……」
だが、男を責める者は一人もいない。皆が口々に、「仕方の無いことだ、俺がお前でもそうする」と言った。
「スポンサーと契約しなけりゃ、俺達今頃、魔擦病で衰弱死か、食料買う金なく餓死してたんだろうぜ」
「なぁ、今からでもそのドレス、王宮に返しに行かないか?今朝、マークが第8師団の師団長、あの探知魔法の達人を連れて、ドレスを奪った裏路地に入ってくのを見た奴がいるんだ。俺達の事がバレるのも、きっと時間の問題だ。もうこんな事から足洗ってさ、リタに謝らせてドレスを返せば、きっと、エレナ様は許してくれるだろ!」
「駄目だ……スポンサーの力は絶大だ。そんなことをすれば、俺達の金が消えるどころか、ドレスを俺達から奪うために、ここを襲撃してくるかもしれない……俺達の後ろにいるのは、そういう存在だ」
「じゃあ、この後どうすんだよ。スポンサーがいなくなったら、俺達また路頭に迷うことになるぜ?」
先ほどまで、彼らの焦りによって騒がしかった空間が、一瞬にして静寂へと変わる。
「もう……やるしかない」
静寂を打ち破り、強面の男が言った。
「ドレスを餌に、エレナ様を拉致して、王宮に身代金を要求する」
「なっ」
声を上げた一人を除いたその場の全員が、驚きを見せず、まるで諦めたかのように下を俯いた。
「しかし、上手く行くのかな。そんなこと」
不安そうに言う一人の男に、強面の男は冷や汗を垂らしながら言った。
「信じよう。何せ、エレナ様が言ってたんだからな。俺達みたいな一般人が落とし物をしたら、自分で取りに行くと」
「だが、もしエレナ様が来なかったら」
「安心しろ、手は打ってある」
※
アイラ達の家に俺が言ってから一日経っている。彼女達家族がドレスをエレナから奪う目的で近づいていたなら、もう既にあの家にはいない可能性が高い。
そう思っていたのだが、ドレッドさんはなんてことない顔でアイラ達家族を連れてきた。話によると、アイラ達家族は王宮への呼び出しに備えて、仕事も休んで律儀に家で待っていたらしい。
こんな行動をする家族が、本当にエレナ様のドレスを計画的に盗んだんだろうか。
「……違う、この子じゃない」
王宮でアイラ達家族がエレナと謁見した。玉座のまで跪く彼らを見て、エレナは首を横に振る。
「確かに特徴はそっくりだけど、でもこの子じゃない……」
エレナがそう言った時、俺の頭は真っ白になった。だって、そんなはずがないのだから。この二日間調べ上げた点と点が、今日の朝繋がった。エレナ様がドレスを紛失した現場にあった魔方陣がフォレスの町に繋がっていて、そのフォレスの町にアイラ達家族がその日滞在していたんだ。
アイラという名のこの少女以外、ありえない。
一体、どういうことなんだ。意味が分からない。
「……本当ですか?」
再び俺が訪ねると、エレナは何も言わずに、今度は首を縦に振った。
「そう……ですか」
茶色の髪の少女捜しが、振り出しに戻ってしまった。いや、今はショックを受けている場合じゃない。振り出しと言っても、手がかりはまだ残されている。
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