第二十七話 少女の行方
少し分かりやすいように、タイトルを元に戻しました。ややこしくしてしまいすみません。
確かに、エレナは新たな時代の女王なのかもしれない。
でも俺は、新たな時代の人間じゃない。古い時代の、古い考えが叩き込まれた、エレナとは違う、ただの普通の騎士。
エレナを見ていると、時々思う。
「ドレッドさん、一つ聞いても良いですか」
「ん?何だ?」
ドレッドさんはあくびをしながら、俺に耳だけ傾けた。
「俺が正しいと思うことは、本当に正しいのか。間違っていることが本当に間違っているのか、俺にはもう、分かりません」
エレナを見ていると、そう思えてくる。俺がエレナを守る為に、必死で頭に叩き込んだ古い考えを、エレナが今まさに壊そうとしている。俺の中の価値観が、大きく揺らごうとしている。
「どういうことだ?」
ドレッドさんが訪ねたことで、俺は白状する事に決めた。
「俺は、エレナ様が度々王宮を抜け出して、商店街に行っていることを知りながら、それを見逃していました……」
「……そうか、そりゃ、重大な職務放棄だな!」
ドレッドさんはわざと、茶化すように俺の背中を叩いて、明るく言ってくれた。
「……はい」
ドレッドさんは、もう一度苦笑いをして言った。
「マーク、俺はお前こそが、エレナ様の護衛に一番ふさわしい男だと思っている」
その言葉を聞いたとき、俺は意外な感情を抱いた。喜び。
その言葉が今、言われて、一番嬉しい言葉だった。
「エレナ様は確かに破天荒で、天真爛漫で、柔軟なお方だ。だが、今回のような大きな失敗をすることがある。大してお前は生真面目で、秩序を重んじる。お堅い奴だ」
エレナと俺は、まるで反対だな。
「だからこそ、善の心を持ちながら、間反対な性質を持つ二人が譲れない部分を尊重しあった時、お互いの行きすぎが抑えられ、自然と正解が導けるのだと思う。俺は一人で抱えこんだが故、行きすぎて間違えてしまったがな」
ドレッドさんは、俺の目を真っ直ぐ見て、言った。
「マーク、お前はそれで良い。自分の中の正しいに自身を持て。エレナ様の考え全てを肯定する必要は、全くない……エレナ様を守る為にもな!」
そうか、俺は……国民を次々と救っていく、エレナという大きな光に目が眩んで、自分の立場を……役割を、見失っていたのかもしれない。
「ドレッドさん……ありがとうございます。俺、何だか少し、この仕事に希望が持てました」
ニコッとした笑顔を浮かべると、ドレッドさんは、再び俺の方を叩いた。
「さあ、現場に着いたぞ。俺に指示を出してくれ?王直属の護衛、マーク・ロムルス。今の俺は、お前の部下だ」
「分かりました」
俺は気持ちを切り替え、再び現場を見渡す。この路地は、側の大通りが大きい分、逆に目立ちにくい。王宮の騎士が二人ここにいても、誰もこちらに気づかない。
路地に入って8m程進んだ辺りで曲がり角があり、そこを抜けると大通りの脇道にでる。
茶髪の少女の手がかりがなくなった今、頼れるのは俺の中に潜む違和感のみ。
俺は、裏路地の曲がり角。両側の外の道からちょうど人一人が見えなくなるスペースの辺りを指さして、ドレッドさんに探知をしてもらうようお願いした。
ドレッドさんは右手に橙色の魔方陣を展開し、俺が指定した場所をくまなく魔方陣の光で照らした。
「……マーク、あったぞ」
ドレッドさんがそう呟いた。俺は近くに寄ってドレッドさんが展開した橙色の魔方陣の光が照らす先を見つめる。
「……水をかけた跡」
俺がそう呟くと、ドレッドさんは頷いて言った。
「ああ、魔擦病に効く、エレナ様が国民に配ったあの薬の跡だ」
魔擦病の薬の効果は、飲んだ人。もしくは振りかけた周りの魔力を一定期間安定させるというもの。本来魔方陣は、、空気中の魔力をねじ曲げて展開される為、魔方陣を開いた場所には一定期間、魔力がねじ曲がった跡、不安定な魔力の残骸が残る。普通の兵士であれば、橙色の魔方陣でその跡をみつけられるのだが、そのねじ曲がった残骸ごと、魔擦病の薬は安定化。つまりは、消してしまうことが出来る。
「これで決まったな」
エレナのドレスは、計画的に盗まれた。何者かが、少女を使って。
「ここに展開された魔方陣は、恐らく青。物体を転送する魔方陣だろう。恐らく少女は、エレナ様のドレスを回収し、そのままこの魔方陣でどこかに転移した」
この人がすごいのは、ここからだ。探知の魔法において、この国ではドレッドさんの右にでる物はいない。薬で消し蹴れなかったほんの僅か、目視すら危ういほどの小さな魔力の歪みすら探知する。そして、探知出来てしまえばその魔法の性質。そして、どのように使われたかまで分かる。
「少女がどこへ転移したか、調べてみよう」
そういうとドレッドさんは、魔方陣を小さく縮めた。縮まった魔方陣の色はより濃くなって行く。
「どうですか?ドレッドさん」
俺が訪ねると、ドレッドは答えた。
「……この魔方陣は、フォレスの町に続いている」
フォレスの町……昨日までアイラ達が滞在していた場所だ。
それが分かった時点で、あの家族が、娘を使ってエレナからドレスを持ち去ろうとしていたことが確定した。
だが、あんなどこにでもいそうな3人家族に、ここまで高度な魔法が使えるか?魔法をストックし、必要なときに発動させられる魔道具を使うにしても、普通の庶民が買えるような値段じゃない。
「青の魔方陣で突然現れて突然消える……これは、まるで<金の亡者>と同じ手口だな」
ドレッドさんは、その中途半端に生えたあごひげを触りながら、神妙な顔つきで言った。
「<金の亡者>って確か、結構前から国中を騒がせている、強盗集団ですよね。つい最近もこの辺りで騒ぎを起こしたって言う」
「ああ、奴らのせいでかなりの被害が国民にも出ている。国を取り締まるのは第8師団の仕事だからな」
第8師団は、国の治安を守ることが仕事。<金の亡者>の捜査をドレッドさん達がしていることは周知の事実だ。
「突然現れて突然消えることと、どこで犯行を起こすのかも特定できないその性質から、俺達は未だ実態の一つも掴めていないんだけどな。一つ分かっているとすれば、奴らは計画と物資はいっちょ前に良いが、武器の使い方も知らない素人共ってことだな」
ドレッドさんはそう言うと、探知の魔方陣で出てきた魔力の残骸を見つめ、再びそのあごひげを触っていった。
「しかし、<金の亡者>の犯行にしては大人しすぎる。奴らは必ずと行って良いほど、武力での犯行に及ぶんだがな。そういう意味で言えば、今回の犯行は奴ららしくない。かといって可能性が捨てきれるわけでもないが」
もしも<金の亡者>の犯行だったとしたら、奴らがアイラ達家族を雇って犯行に及ばせたとうことになるか。もしそうだとしたら、フォレスの町には奴らがいる可能性がある。この後一人で向かおうと思っていたが、一旦それは辞めておこう。その前に、女王様のドレスを取ったのが、アイラであるかどうか、エレナにアイラを会わせて確認させるほうが先だ。
「ドレッドさん、俺は至急王宮に戻って、ドレスを持ち去ったと思われる家族を、エレナ様の元へ連れて行く準備を整えます。ドレッドさんは、俺が指示する家に赴いて、今すぐそこに住む家族を、何としてでも王宮に連れてきてください。場合によっては、その後<金の亡者>の討伐部隊を編成してください」
「分かった。俺達は奴らをずっと追っていたんだからな。この手で奴らを捕らえたいと思っている騎士が大勢いるはずだ。気合い入れて編成するぞ」
本当は、俺が直接アイラの家に行った方が早いのだが、いざ逃げられたとき、探知の魔法で痕跡を追えるじょはドレッドさんだけだ。
ドレッドさんも俺の意図を理解したように、俺の目を真っ直ぐ見て頷いた。
「では、お願いします」
アイラがドレスを盗んだ犯人だと分かりさえすれば、そこから分かるはずだ。少女の後ろ側にいる、王宮にひっそりと牙を剥くテロリスト集団の正体が。
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