第二十六話 違和感
「だから私、ドレスなんて知らないって言ってるじゃん!」
「こら!正直に言いなさい!」
怒鳴り声を上げる父親。
「娘の無礼をお許しください、どうかせめて、命だけは!」
知らない……か。忘れたなんて事はありえないだろう。となると、罪から逃げるためにこの少女が、アイラが俺に嘘をついているのか。
「取りあえず、家の中にドレスがあるのかどうか、捜索させてもらう」
俺は二人の部下と共に家に踏み入り、家中をくまなく探した。だが、エレナのドレスは見つからなかった。
そもそも、この家にはアイラ専用の部屋がない。そんな状態で、親にもバレずにドレスを隠すこと何て、10才の少女に出来るのだろうか。
それか、罰を逃れる為に家族ぐるみでドレスを取ったことを隠蔽しようとしているのか。
「昨日の昼、あんた達3人が何をしたのかを話してくれ」
俺がそう訪ねると、彼らは、3日前からエレナ様がドレスを取られた昨日まで、この町にはいなかったらしい。何でも新しく始める商売の商品の調達の下見のために、十数キロ離れた田舎町、フォレスの町に3人で旅行もかねて行っていたらしい。
俺はレイとキールと顔を見合わせると、二人ともこくりと頷いた。
二人とも俺と同意見で、これ以上の情報は望めないと考えたらしい。
「分かった、ひとまず我々はこれで退散する。場合によっては後日王宮に呼び出すこともあるかもしれない、しばらくの間は予定を開けておくように」
俺がそう言い残して立ち去ろうとしたとき、アイラの父親が俺を引き留めて行った。
「すみません、騎士様……無礼を承知でお聞きしますが、やはり私達家族は、罰せられるために王宮に呼ばれるのでしょうか」
そう言われ、ふと考える。エレナはこの家族を罰っするだろうかと……いや、ありえないな。ドレスを渡したのはエレナ自身だ。むしろエレナの方から家族に対して頭を下げるだろう。
そんな姿を想像し、ほんの少し笑みがこぼれた。
「安心しろ、まだ王宮に呼ぶと決まったわけではない。王宮に呼ぶのは、お前達が先日までこの町にいなかったことが証明出来なかった時、女王様が出会った少女がアイラだったのか、直接会って確かめるだけだ。お前達に悪意がなければ、きっと許してくださる」
そう、家族ぐるみで女王様のドレスを強奪し、ドレスを持っていないと嘘を吐いて煙に巻くという、悪意を持って女王様に接した訳ではないのなら。
「だから、あの方には偽らず、正直に話せ」
俺がそう言うと、夫婦は娘の頭を無理矢理下げさせて言った。
「はい、ありがとうございます」
俺はその後、馬車を手配して部下の二人と共に、アイラの家族が昨日までいた町へと向かった。3人で手分けして聞き込み行い、アイラ達家族は、確かにこの町に昨日まで滞在していたことが分かった。
「振り出し……か」
エレナの言っていた少女と特徴が一致した少女がいたのに、その少女アイラは、エレナのドレスを取った犯人ではなかった。
商店街の人々から得た情報が一番有力だったのに、その情報ははずれ。となると、一体どこから探していけば良いのか。
「はぁー」
城に戻ったら護衛の仕事だけでなく、俺とエレナの住んで田村につい先日いかされた、リオスの仕事までやらなきゃいけない。
「本当、どこまで俺の仕事を増やせば気が済むんだ、あいつは」
帰りの馬車の中で、俺は部下に聞こえないよう独りごちた。
翌日の早朝、俺は振り出しに戻った女王様のドレスの調査を進めるため、エレナ様が少女にドレスを渡した現場に赴いた。昨日連れてきた部下の二人は、仕事があるところを無理言ってきてもらったため、今日は仕事に戻るように指示をした。
代わりに、この国で一番探知の魔法を得意としている騎士に、無理言って同行してもらった。
「おいマーク……一応俺は師団長だぞ?第八師団の。今日も仕事が山積みなんだがな」
「すみません。ですが、手がかりが何も掴めない今は、エレナ様がドレスを渡した現場をもう一度調査すべきだと判断しました。調査が終わったら、職務に戻ってくれて大丈夫です」
俺がそう答えると、ドレッドさんは苦笑いしながら言った。
「しかしまぁ、女王のドレスを道で出会った少女に渡してしまうとは、ハチャメチャというか、エレナ様らしいというか……」
「ええ……全くです」
そのハチャメチャの尻拭いをするのは、いつだって俺だ。エレナのやることが、確かに今までにない方向性から、国をよくしているのは間違いない。あの商店街も、元々ほとんどの人々が魔擦病に倒れていたところを、エレナが薬を配ったことでかつての活気を取り戻した。
それだけじゃない、今やユーシア王国中が、復活の兆しを見せている。経済が少しずつ回り始め、人々は仕事に励み、物を買い、生活をしている。それでも戦争以前の暮らしとはほど遠いほどに貧しいが、エレナのしたことは、確実に国民を救っている。
分かっている……そんなエレナの、内なる善を国中にばらまくような、突飛な動きを支えることが、俺の役目だと。
それでも、やはり思ってしまう。
「いい加減にして欲しい」




