第二十五話 情報収集
商店街の人々が言うには、アイラという少女は3ヶ月前にこの辺りに引っ越してきたそうだ。だが、魔擦病で両親が動けなくなり、王宮から薬の支給が始まるまでは、この商店街の人々に物乞いをしていたそうだ。
王宮から薬が支給されて以降は、両親が働けるようになったため、商店街には徐々にあまり顔を出さなくなったらしい。
物乞いをしているという点からも、エレナのドレスを欲しがった少女の性格と一致する。
「商店街に来なくなったのは、いつ頃なんだ?」
「えっと確か2週間くらい前だったかな」
「この辺りにまだ住んでいるのか?」
「ああ、住んでるよ。この商店街の通りを王宮とは反対方向に真っ直ぐ15分くらい歩いて、所にある十字路を右に曲がって八件目の家だ」
ずいぶんと商店街から近いな。まあ、10才の少女が通える距離なら、このくらいが妥当か。
「協力感謝する、行くぞ」
俺は二人の部下にそう言って、商店街を立ち去ろうとした。
その時。
「おいちょっと、マークの兄ちゃんよぉ」
「俺は急いでいる、用なら後にしてくれ」
「そうじゃなくてよぉ……食った分の代金は払ってくんねぇか?」
気づくと、俺と、俺の部下の周りを商店街の人々が、満面の笑みで取り囲んでいた。
「エレナには無料で食べさせていたんじゃないのか?」
俺がそう言うと、商店街の強面の一人の店主が、わざとらしくとぼけたような顔で言った。
「そりゃおめぇ、女王様の護衛にこび売ったって仕方ねぇだろぉ?」
強面店主がそう言うと、骨董品を売っている中年の店主も続けて言った。
「俺達は利益になりそうな人にこびを売るんだからな!」
商店街の皆が口々に、「違いねぇや!がはは!」と笑い声を上げた。
全く、騎士への侮辱だ……だが、そんなことを言っても許される空気を作っている。食えない奴らだ。
「分かった、代金は後で王宮から払わせておく。だからそこをどいてくれ」
俺がそう言うと、商店街の人々はずらーっと道を空けた。
「毎度あり、今後ともごひいきに、な!マークの兄ちゃん!」
全く、自分たちから料理を無理矢理振る舞い、無料という雰囲気を出しておいて食べたら代金はしっかりふんだくるとは。
「もうここまで来たら、合法的な詐欺だな」
だが、そんなことをされても許してしまう、商人達の人当たりの良さと団結力は、流石としか言い様がないな。
「エレナ様のこと、大切にしろよー!」
余計なお世話だ。そもそも俺にはその立場にないというのに。勝手に盛り上がって……だが、悪い気はしない。
何気に王宮に来てから数年経っている俺も、商店街に客としていくのは初めてだ。
初めてだからだろうか……確かに、商店街の異常な団結力はすごいが、俺は少し、それが不気味に感じた。
後ろを振り返ると、商店街の人々は既に仕事に戻っているが……何故だろう。未だに見られている気がする。
そんな違和感を背中に感じながら、俺は商店街の人々に言われた道を通り、エレナのドレスを持っているかもしれない少女、アイラの家に向かった。
「ここか」
俺は、商店街の人に言われた家にたどり着き、扉に二回ノックをする。
「ユーシア王国王宮の騎士、マーク・ロムルスだ。この家に住むアイラという少女に聞きたいことがある」
俺がそう言うと、家の中からドタバタという音がした後、30代くらいの二人の夫婦が、そーっと扉を開けて出てきた。
「本日は、どういったご用件でしょうか」
アイラの父親らしき男が、小さな声で怯える様に言った。
そうだ、これが王宮の者が来た時の普通の反応だ。
「もしかして、家のアイラが何か失礼なことをしましたでしょうか?」
母親らしき女性が、顔を真っ青にしながら俺に尋ねる。
「失礼、かどうかは分からないのですが……」
エレナがそもそも人の態度に対して失礼だなんて感情を抱くはずもない。
「一つ問題がありまして」
俺が夫婦にことのいきさつを話すと、母親は聞きながらその場で膝から崩れ落ち、父親は冷や汗をダラダラ垂らしながら、急いで部屋からアイラを呼びに行った。
アイラが玄関に出てきたときには、父親にこっぴどく叱られており、ギャーギャー泣き喚きながらの登場だった。
茶髪、10才くらいの少女……エレナの言っていた特徴と一致している。
「ひっぐ、ひっぐ」
それにしても、怯えられたものだな。さっきまで父親に叱られて泣きじゃくっていたのに、俺の顔を凝視するやいなや、涙が引っ込み震え始めた。
子供は苦手だ。何を考えているのか分からない。
「マークさんその……もう少し笑顔で接してあげてはいかがでしょうか?」
もう一人の部下、女性騎士のキールが、苦笑いしながら俺に言った。
そんなに恐い顔をしていただろうか。俺は何とか努力して笑顔を作る。
「アイラちゃん、すまないが質問に答えてくれないか?エレナ様のドレスを持ち帰ったのは、君だね?」
そう訪ねると、アイラは俺の表情を見て更に涙を浮かべてわめきだした。
俺がキールの方を見ると、彼女は俺の顔を見ないようにそっぽを向いている。
そして、レイは俺の顔を見て笑いをこらえていた。
「だから私、ドレスなんて知らないって言ってるじゃん!」




