第二十二話 少女、ドレスを着る
女王様のドレス……それは、色とりどりの美しい宝石や、白馬に乗った素敵な旦那様と並ぶ、女子の夢。そして、エレナの判断で、このいたいけな少女の夢を、今この瞬間に、一つ叶えることが出来る。
「じゃあ、来てみる?サイズとか違うけど」
未だ着させても良いのかと悩む程、エレナの頭にはまだほんの少しの理性が残っていたのだが。
涙をためていたからだろうか。その時少女が向けた瞳が、エレナには一層輝いて見えた。その時、エレナの瞳が、まるでその少女に洗脳されたかのように輝きだした。
「か、可愛い」
ポロッと一言、エレナがそうこぼすと、エレナはその場で女王のドレスを脱ぎ始める。
「えっと、確かここをこうして、こうやって……」
もう時期戻ってくるマークのことなど、エレナの頭からはとっくのとうに抜けてしまっている。
一体いくつボタンを外し、紐をほどいたのかも分からなくなりながら、20分ほどドレスと格闘した後。
「やっと脱げた」
エレナは自ら着ていたドレスをようやく脱ぎ終わると、一生懸命その重たいドレスを持ち上げ、スカートのひらひらの部分から少女の体をドレスにくぐらせた。
肩幅も狭い上、ドレスも重く、少女のドレス姿はぶっかぶかのよれよれだったのだが、少女はドレスのスカート部分のひらひらを地面に擦らせながら、満足そうな笑みで、純粋無垢な感情で、嬉しそうに言った。
「これ、ちょうだい!」
「え……」
無邪気な子供は、思った事を素直正直に言っただけだ。きっと、この子にはその言葉がどれほど大変なことを言っているのかも分かっていない。
そしてエレナは、そんな子供と同様ドレスの価値を知らない純粋無垢な大人だった。
「そんなに欲しい?」
エレナといえど、そんな簡単に女王のためのドレスを渡しては行けないことぐらい分かっている。だが、エレナは女王であるが故に、知っているのだ。このドレスと同じ物が、城に4着あること。そしてこのドレス以外にも、数種類のドレスが存在することを。
エレナは、天秤にかけた。本来のドレスの価値ではなく、自分の替えのある衣服を少女に渡すか、それとも渡さずに少女の夢を打ち砕くか。
「でも……私」
その時思い浮かんだのは、ユートの姿だった。エレナは彼に、女子の夢という夢を叶えてもらった。
ユートが冒険から持ち帰った物の中には、まれに色鮮やかな宝石があった。宝石をアクセサリーにする職人が村にいなかったため、綺麗な宝石は直置きではあったが、家に飾っていた。
白馬に乗った旦那様。ユージは決して白馬に乗っていたわけではなかったが、それでも、素敵な旦那様と出会え、幸せな時間を過ごした。そして、女王のドレス。ユージがエレナを女王に即位させ、そして今、毎日のように、美しく煌びやかなドレスに身を包んでいる。
全部、ユートに叶えてもらった。なら、叶えてもらった夢のほんの少しくらい、この少女にお裾分けしても良いだろう。
「うん、あげる!そのドレス、大切にしてね!」
エレナは笑顔で、少女にそう言った。少女もまた、その幼い顔いっぱいに笑顔を広げ、小さな体から溢れんばかりの思いで体を震わせながら言った。
「ありがとう……お姉ちゃん!」
その言葉を聞いた瞬間、エレナの体の中に駆け巡った充実感。こんな一言だけで、この後の書類の山に永遠とサインをし続ける仕事も、何とかやっていける気がした。ただ一つ、エレナが気がかりなのは……。
ユージの次に浮かんできたのは、マークの姿だ。きっと眉間にしわを寄せて、腕を組みながら仁王立ちして自分のことを待っているに違いない。その上ドレスも、その辺に通った女の子に渡してしまったとなれば。
「(3時間……)」
それが、エレナが割り出したマークがエレナに対して説教をする時間だ。
やはり返してもらうべきだろうか……。
人通りのない路地裏で、エレナは一人、マークのように眉間にしわをよせて考える。
「やっぱり、勝手すぎだよね」
ドレスの価値もよく分かっていない自分が、ドレスを勝手に人に渡したりするのは良くない。エレナはそう思い直し、少女の方を向き直る。
「ごめんね、やっぱりそのドレスかえ……え、え?」
少女は、エレナの前から消えていた。女王のドレスと共に。




