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第十五話 平和の代償

「むむ……この料理、食しても良いものか」


 イザベラの噂に対して一番危機感を持っていたのは、ドレッドだった。彼は唯一、帝国時代から国に仕える軍人だ。イザベラがどういう人間か、エレナやマークよりはよほど理解している。

 

 だからこそ、もしも交渉が決裂したときは、それを理由に密偵を送り込むか、王宮を愚弄したとして表沙汰にし、イザベラが影で行っている事を白昼堂々と調べ、無理矢理交渉を成立させる等して、早めにイザベラの問題を解決しようと考えていた。


「おいしい!マーク!この料理すごいおいしいよ!こんなの王宮でも食べた事無い!ひぇー、おいしすぎる!」


「え……」


 ドレッドが、そんな幸せそうな悲鳴が聞こえた方に目をやると、そこには唇にトマトケチャップを付けながら、それはそれは美味そうに目の前にあるものを食していく女王様の姿だった。


「な、エレナ様毒味が!」


「大丈夫大丈夫!ほら、全然平気でしょ!毒味は私がしといたから、皆も食べなよ」


 マークその姿に呆れながら、仕方ないと料理を食し始める。そして、その姿を見た他の兵士達も、次々と料理を食べ始めた。


「(いや、毒味を貴方がするのは本末転倒なんですが?何をやっているんだマーク!)」 


 顎を外しながら、ドレッドも致し方なく目の前の肉を頬張った。


 魔力の乱れによって作物の育ちも悪く、魔擦病で作り手もいないため、豪華な料理をたらふく食べることが少ない。一心不乱に目の前の料理にがっつくエレナは恐らく、緊張を紛らわそうとしていたのだろう。これから、国民の命をかけた取引を行うのだから。


「エレナ様、食事はその辺しておきましょう。我々は取引に来たのです。食べ過ぎると思考が鈍ってしまいます」


「……そう、だね」


 エレナはその手を止めると、目の前にあるケーキののった皿を取って言った。


「最後に、これだけ食べさせて……」


 無意識の上目遣いで、エレナがマークに頼む。だが、マークは一切表情を変えず、いや、むしろ厳しい表情で一言。


「国民よりケーキですか」


 エレナはすっとケーキをその場に置いた。


「私どものもてなしが、エレナ様に満足していただけたようで何よりです」


 エレナは、とろけそうな顔でほっぺに手を当てていった。


「いやーもう、本当に大満足です」


 満面の笑みで、エレナは言った。だが、その手は震えていた。恐らく、感じ取ったのだろう。イザベラが話を切り出そうとしていることを。


だが、食事を食べ始めてからずっと震えていたエレナの手を見て、マークも動揺にイザベラが話を切り出す前に警戒をしていた。


 この場で、初めから一度も気を抜いていなかったのは、エレナ只一人だけだった。


 「そろそろ良い時間です、交渉を始めましょう」


 これまでの落ち着いた声とは打って変わり、ほんの少し圧の混じった低い声でイザベラは言った。場の空気が一瞬でひりつく。


 兵士達も突然のことで完全に不意を突かれ、驚いていた。ドレッドも元々かなり食べるタイプであるため、つい食事に夢中になってしまっていたため、反応は兵士達と同様だった。


「先日、そちらのドレッドがこの邸宅に来て持ちかけてきた、我々エル・ユーシア家が保有する魔擦病を直す薬を、宝物庫の宝と交換したいという申し出ですが……受けることはできません」


 皆、何となく分かっていた。イザベラ・エル・ユーシアは、一筋縄でいく人間ではない。元は弱小貴族だった彼女は、最終的に王の心を射止め、王妃にまで上り詰めた。女王本人が来たからと言って、そう簡単に主張を曲げるような女ではない。


 その強い意志を体現したような鋭い眼光が、エレナの目を真っ直ぐに見つめる。


 一瞬ひるむエレナ。だが、ユートの遺したペンダントを握りしめ、エレナもまた、覚悟を決めたように目を見開いて、イザベラの目を見つめる。


 「その理由を、聞いても良い?」


 先ほどまでの恐縮したような敬語は消え去り、王宮にいるいつも通りのエレナの口調に戻る。

 イザベラはその様子に少し感心しながらも、表情を一つ変えず淡々と続けた。


「この薬は、この家。そして、私含め、私と関わりのある人々を守る為に、この家の総力を挙げて国中から集めました。帝国の世が終わり、戦争が終わった今、私は武器にさほど価値を感じません。今のこの薬の価値。そしてこの薬を集めるために働いてくれた者達の労力は、そちらの提示した武器では見合わない。そう、私が判断いたしました」


 ああ、このお方は。イザベラ・エル・ユーシアは、しっかりと先を見据えている。そう、ドレッドとマークは思う。


「それじゃあ、貴方に渡す宝物庫の武器を、貴方が提示した分だけ増やせば、交渉成立させてくれる?」


「なっ!」


 ドレッドとマーク、兵士達は大きく動揺する。只でさえ、宝物庫の武器の8割程度を既に薬に変えてしまっている。これ以上減ってしまえば、戦後の貧しいこの世界で、万が一の保険として残していた財源が消え去る。


「(それだけは駄目だ。どうか、エレナ様の提示を断ってくれ!)」


 冷や汗を垂らしながら、心の中でドレッドが願う。


「良いでしょう、ただし……その武器は私に決めさせていただきたい」


 (良かった!通じた!私の思いが!)そう聞こえてきそうな程に、エレナが目を輝かせ、安堵すると同時に、ドレッドマーク含む他の兵士達は唇を噛みしめた。


「うん、教えて、貴方が欲しいものを」


 エレナがそう言うと、イザベラはほんの少しだけニヤリと笑って言った。


「剣の勇者、遊佐剣二の神器たる、神裁の剣。弓の勇者、弓削優華の神器たる豊穣の弓矢。そして……」


 次の言葉が何なのか、その場の全員が理解した。理解した上で、エレナは願った。


「(お願い、それだけはやめて……それ以上、私から奪わないで)」


「槍の勇者、槍田勇人の神器たる、天啓の槍。この3つの神器であれば、私は薬を差し出しましょう」


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