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第十三話 イザベラ邸へ

 王宮を出発したエレナは、ドレッドの配下の護衛の兵士数十人とマークと共に、二週間ほど馬車に乗ってイザベラの家へと向かった。


 日が落ちた頃にようやく到着し、エレナ女王は馬車の中から姿を現す。


 マークは、剣の先端に緑の魔方陣を展開し、そこから炎を生み出して、松明にした。その光を頼りに、エレナは足下に注意をしながら馬車を降りる。


「よいしょっと」


 イザベラの住む豪邸を目にし、エレナは目を丸くする。


「え、何これ……本当に家?」


 なんやかんや、王宮では自分の寝室の外が常に仕事場であるエレナにとって、王宮は確かに広くとも、自分の家という感覚では無かった。そのため、貴族の住む広大な家を見るのは初めてだった。


「こんな広い家に、たった二人で住んでるの?」


 イザベラには、夫のグリド・エル・ユーシアが遺した一人息子が存在する。


 名前は、パウル・エル・ユーシア。まだたったの6才だが、4才の時に父親を失って以来、ずっと塞ぎ込んでいる。


「いえ、流石にこの豪邸の管理などを行うものを数十人雇い、この家に住まわせているようです」


「数十人って、数百人は住めそうだけど……(庭なんて広すぎて終わりが見えないし)」


 エレナが辺りをキョロキョロ見回していると、突如ズガガガっという音が辺りに鳴り響いた。下面に描かれた三角形の頂点に、勝利を示すグラジオラスの花が描かれた家紋を中心に添えた、巨大な鉄格子の扉が開かれる。


「私当家の管理をしております、スミス・オルダーと申します。当主、イザベラ様がお待ちです。どうぞ、中へお入りください」


 扉が開くと、きっちりとしたタキシードに身を包んだ白髪の男。スミスが現れ、エレナ達を出迎えた。マークはその男を冷たい目で睨み付け、威圧するように言う。


「元王妃とは言え、一貴族のイザベラ様本人の出迎えがないとはどういうことだ。ここにいらっしゃるのは、ユーシア王国現女王、エレナ・ユーシア様だぞ!」


「いや、マークちょっと」


 エレナがマークを止めようとすると、ドレッドはエレナの手を掴んでいった。


「失礼いたします陛下。これは貴族と女王様の立場の違いを示すためにも、必要なことなのです」


 エレナは、心配そうにマークの方を見つめる。

 するとスミスはマークの言葉に一切動揺を見せず、その場で潔く跪く。


「誠に申し訳ありません。女王様を我が当主が出迎えぬことが出来ぬ無礼、どうかお許しを。当家も、まさか陛下が直々にこの家にやってくるとは思っておらず、対応が遅れております」


「エレナ様が当家に行くという通達は、八日前には届いているハズだが?」


「……」


 スミスはその場で深く俯き、一瞬言葉を詰まらせる。


「何か言いにくいことでもおありなのですか?」


 ドレッドがスミスに尋ねる。


「誠に恥ずかしながら、貴族の家に女王様が来るという事態は、帝国時代王宮に使えていた私にも聞いたことがなく。一体どのような対応をすれば良いのか、考えあぐねておりました」


 スミスはゆっくりと立ち上がると、扉の遙か向こうにある巨大な手宅の方に手を差し出していった。


「故に、様々な場所から一流料理人と食材を集め、陛下をおもてなしをする。それこそが、イザベラ様の考えた、陛下へのお出迎えの仕方でございます」


 この広大なユーシア王国の領地の中で、一流の料理人を集めることは並大抵のことではない。更に、只でさえ魔力の乱れで作物が育ちにくいこの国の状況で、一流の食材を集めることは更に困難。それを、エレナが到着するまでの9日程で全てを整えた。


 マークはそれらを考慮し、出迎えなかったイザベラの件を不問にする。


「良いだろう、そちらの誠意は伝わった。我々を案内しろ」


「感謝いたします。ではこちらへ」


 スミスが案内を始め、エレナとマーク、ドレッドは彼の後ろを歩こうとした。

 途中、後ろの兵士達も二人に続こうとしたので、ドレッドが彼らにその場にいるよう命じる。


「お前達はここまでで良い、交渉しに行くのだからな。武器を持った兵士が大勢入ったら、向こうにも失礼だろう。お前達は、本当に万が一の時に動いてくれ」


「しかし、大丈夫でしょうか。最近、イザベラ様の良くない噂も流れておりますし」


 心配そうに言う兵士の声を聞いていたスミスは、歩みを止めていった。


「護衛の兵士の方も是非いらしてください……皆様にも、もてなす準備は出来ております」


 護衛の数十人の兵士達は顔を見合わせ戸惑う。


「本当に、よろしいのですか?」


 ドレッドがスミスに問う。


「はい、こちらが交渉に対して、武力を行使することはないという意思表示にもなりますので」


 淡々とスミスが答えると、ドレッドは兵士達についてこいとサインを出す。

 静かに頷く兵士達。


「では、参ります」

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