第十二話 宝と引き換えに
ルドミルによる武器の選定と仕分けはかなり適格だったようで、薬を買い占めていたほとんどの貴族達が、差し出された宝によだれを垂らしながら二つ返事でOKした。
それもそのはずで、王宮の宝物庫にある宝など、ユーシア王国が滅びでもしない限り決して手に入れることの出来ない一品揃いだ。
足下を見ようとしてくる貴族や、それでも薬を渋る貴族も一定数いたらしいが、簡単に首を縦に振らない貴族にはミルヴァやルドミル等が、
「我が国王がここまでの誠意を尽くしているのに、それに答えないと言うことは、どういうことか分かっているんだろうな?」
と、ある意味貴族にも強くものを言える性格の二人を向かわせたマークの采配もあり、無事ことなきを得た。
もちろんその報告を聞いたエレナは、そういうやり方はやめて欲しいと二人にハッキリと言ったのだが。
「交渉ごとにはそういうことも必要です。相手が良心的であるとも限りません」
と、ルドミルに言われたエレナは、少し表情を暗くしながらもその意見に納得した。
そんなことがありつつ九つの貴族達から薬を買うことに成功し、全ては順調にいっていると思われたのだが……。
「交渉を、断られた?」
でしょうな。と言った風に、師団長達は、報告をするドレッドを見つめる。
「ええ、どんなものを持ってこようと、決して薬を渡したりはしないと」
「確か、ドレッドさんが言った所って、イザベラさん?の家だったよね」
「はい、イザベラ・エル・ユーシア様です」
その名前を聞き、エレナは驚いた。
「ユーシアって、確か王様の家にしかつかない名前なんじゃ……」
国の王家が、その名を名乗ることがしきたり。槍の勇者も、戦争中に国の決まり事を変える事をめんどうに思い、そのままユーシアの名を名乗った。
「王家が名乗らなきゃいけない名前……ってことは」
「はい、もう一つのこの国の王家。ユーシア帝国時代の王、グリド・エル・ユーシア様の妻にあたるお方です」
「イザベラさんは、どうして交渉をしてくれなかったの?」
エレナが訪ねると、ドレッドは答える。
「イザベラ様は、かつて夫が槍の勇者に殺され、政権も奪われたことで王妃としてのお立場も失われました。ですから……その」
罰が悪そうに口ごもるドレッドの代わりに、エレナが言った。
「私達のことが嫌いだから、交渉したくないってことだよね……」
「はい、端的に言うとそうなります」
自分の夫を殺した上に、自分の社会的立場すらも奪われる。そんなことをしてきた人達と交渉なんてする気にならないだろう。ましてや、交渉相手である国のトップは、かけがえのないものを奪った男の妻。
「ああ……そんなの無理だよ。私だったら、顔も見たくないもん」
侍女に綺麗に整えてもらったくすんだ金髪の髪をわしゃわしゃとかきむしるエレナと、崩れていく髪をみて頭を抱えるマーク。
「どうしよう、やっぱり、交渉成立させないと駄目だよね……イザベラさんの家が、一番薬を多く持ってるんだし」
「その薬を手に入れなければ、薬を巡って国民同士が争う可能性があります」
ルドミルが端的に口を挟むと、エレナは再び頭を抱えた。
エレナは考える。いや、考えることなんて一つしか無い。だが、それをする勇気が自分にあるのか。どうしようと顔を伏せるエレナは、自分の頬をパシン!と叩いて言った。
「私、イザベラさんに会いに行く。会って、宝物庫の宝と薬を交換してもらえるよう、直接お願いする!」
エレナの発言に皆少し驚いていたが、何となく予想は出来ていた。そんな中で一番大きく取り乱したのは、ミルヴァだった。
「なっ正気ですか陛下!貴方はイザベラ様にとって、夫の仇も同然!貴方が邸宅に赴いた結果、その場で囲まれて打たれてしまう可能性だってあるのですよ!」
「私も、あまり賛成は出来ません……ユート様によって人生を狂わされたお方と会うのはエレナ様のお心への負担も、計り知れないでしょうし」
ミルヴァに続けてドレッドも、エレナがイザベラの元へ向かうことに反対する。
二人に説得され、エレナはどうするべきか迷い口ごもった。
そんな中、マークはエレナに、優しく訪ねた。
「陛下、どういたしますか?」
エレナは、そんなマークの表情を見た瞬間、とても安心したような笑みを浮かべて答えた。
「やっぱり私は、会ってお願いしに行くべきだと思う」
「陛下!」
ミルヴァが止めようとするが、エレナは続ける。
「だって、国民の命がかかってるんだもん、心の負担なんて言ってられない。私だって命張って頑張らなきゃ!」
エレナは、引きつった笑顔で言った。
「もしかしたら、イザベラさん良い人で、仲良くなれたりするかも知れないし……ね?」
玉座の間が、エレナの言葉で沈黙する。
「ふっ、あっはははははは」
ドレッドが、その巨体を震わせて大きな笑い声を上げた。
「え、え? 私何か面白いこと言った?」
あわあわするエレナに、笑いすぎて目に溜まった涙を拭きながら、ドレッドは言った。
「いえ、陛下らしいなと思いまして」
ドレッドがそう言うと、エレナの前にマークが跪いて言った。
「陛下がそう望むのなら、我々は従うまで。イザベラ様の邸宅でもし危険な事態に陥ったら、私マーク・ロムルスが、陛下を必ずお守りいたします」
マークがそう言うと、ドレッドも威勢良く叫ぶ。
「同じく!」
そのやりとりを、目を見開きながら眺めているミルヴァに対し、ドレッドは言った。
「安心してください、ミルヴァ団長。貴方の優秀な元部下が、必ずや陛下を守って見せます!」
ニコッと笑いかけるドレッドを、ものすごい眼力で睨み付けながら、ミルヴァは歯切れの悪そうに答える。
「……もう、好きにしろ」
ミルヴァは自分の立ち位置へと引き下がる。
「では、イザベラ様の邸宅にはいつ参りますか?陛下」
マークが訪ねると、エレナは答える。
「明日の朝、起きたらすぐに」




