第十一話 裸の女王様
「宝物庫の武器の内、遺すべき二割を私が選定しました」
王宮会議にて、ルドミルは、師団長達の前に宝物庫にあった武器の数々を並べた。
「おおー、」
その場にいた全ての師団長達が、目をきらめかせた。
エレナは女性である第2師団長のミルヴァと、第7師団長のリカ・マーフィーの表情をしれっとのぞき込む。
他の師団長同様目を輝かせるミルヴァに、少しがっかりするエレナ。しかし、困惑した表情で武器を見つめるリカをみて、エレナは武器に興味ないのは自分だけじゃないことに安堵する。
「現在薬を大量に買い占めている貴族達の数は、およそ10。彼らの好みに併せて、売る武器を仕分けました。これを持って我々師団長が自ら赴き、貴族達と交渉を行います」
「私は、行かなくて大丈夫?」
エレナが訪ねると、ルドミルは答えた。
「ええ、我々だけで十分です。そもそも、貴族の家は近所にあるわけではありません。全ての貴族の家を回っていたら、一体何ヶ月かかるか」
今も尚、国民は病に苦しんでいる。そんなに時間をかける余裕はない。
「分かった……じゃあ、皆お願いします!」
エレナは、師団長達に頭を深々と下げた。
国王が部下に頭を下げる。それは、国王の権力を示す上であってはならないことだ。
師団長達は、頭を下げたエレナの姿を見て、大きくたじろいた。
「エレナ様!軽々しく頭を下げるのはおやめください!」
焦ってマークがエレナをたしなめると、エレナは、純粋な瞳でマークを見つめて言った。
「分かってる、マークの言いたいことは。何となく。私もしばらく女王をやって、ちょっと分かってきたから……でも私は、皆に何かをお願いするときは、身分に関係なく頭を下げたいの」
エレナは申し訳なさそうに、皆にニコッと笑いかけて言った。
「私には、それしか出来ないから」
「そんな!……」
そんなことはない。と、言いかけた言葉をマークは飲み込んだ。実際、エレナの言うとおりだ。エレナに出来る事は数少ない。
だが、そんな何も出来ない女王が偉そうに権力を振りかざしていて、皆はそんな王に着いてくるのだろうか。
もしかしたら、エレナの王としての魅力は、そんな飾らない所にあるのかもしれない。
「(だがしかし、飾らぬ王など、そんなことがあって良いのだろうか)」
頭を悩ませるマーク。そんなとき、ドレッドはマークに声をかけた。
「マーク、このお方はきっと……新たな時代の王なのだ」
「新たな時代の……王」
マークは、そんな飾らない王が納める世界を想像した。
どんな身分の物とも分け隔て無く接し、国民と共に笑い合い、国民と共に悲しむ。決して、国を大きく引っ張っていく姿ではない……が、悪くないのかもしれない。
国民のために力を尽くそうとしている。何よりも大切な思いは、持ち合わせている。
今一度、マークは考える。新たな時代の王とは……何か。
王の護衛たる自分のすべきこととは何か。
「陛下、度重なるご無礼、失礼いたしました」
マークはエレナの前に出て跪く。
そう、新たな時代。人々の価値観や考えがめまぐるしく変わっていくこの世界で、彼女を、受け入れること。
決して変わらない、国民を守ろうとする彼女の心を、しっかりと見ること。
「え、そんな謝らないで!女王らしくない私が悪いんだし……」
この無知な女王を守るのは、簡単なことではない。
これまでマークは、既存の国民の頂点に立つ力のある王というイメージの枠にエレナを押し込むことで、ただの村娘という、力の無いエレナを、国民から守ろうとしていた。
これからマークが守るのは、力のある王というイメージから外れた、彼女らしい等身大の新たな女王だ。
「女王らしく、私は貴方にそう言い続けました……たった今それを、全て撤回します」
突然そう言い出したマークに、エレナは困惑しながら言う。
「ごめんね……マーク。ありがとう」
マークの言葉を聞いたエレナは、師団長達に向かって再び頭を下げて言った。
「師団長の皆さん!……魔擦病に苦しむ国民のために、どうかお願いします」
師団長達は、一斉にエレナに跪く。
「はっ!」
ほんの少しだけ、エレナの表情はいつもより明るかった。
王宮に来て初めて、マークが女王ではなく、エレナの護衛となった、安心感からなのかどうかは、彼女にも分からない。