第十話 宝物庫
翌日、エレナとマーク。そして国の財務を管理している第4師団師団長、ルドミル・ウル・シーアの3人が宝物庫へと赴いた。
「うわー!ここが宝物庫かー!」
エレナは、無邪気な子供のように宝物庫の扉の前へと走り出す。
「ちょっエレナ様!はしたのうございます!走るのはおやめください!」
「えー、良いじゃん!だって宝物庫だよ?ダイヤの指輪にサファイアのネックレス!全女性の夢だよねー!」
目を宝石のように輝かせるエレナを見て、困った表情をするマーク。
「そういえば、他の師団長の人達はどうしたの?」
エレナが不思議そうに聞くと、マークは答えた。
「彼らにも仕事がありますから」
マークの答えに、ルドミルが付け加える。
「それと、宝物庫の開けかたは私と陛下以外に知ることは許されないので、3人で行くべきだと私が提案しましたマークは陛下の護衛と言うことで特別に立ち会いを許可しています」
「へー、そうなんだ」
と、なんとなーく答えるエレナだったが、彼女の興味はそんなところにはなく。
「この先に、色んな宝物が……」
期待を胸に膨らませ、エレナは宝物庫の扉の取っ手に両手をかける。エレナがゆっくりと扉を開こうとしたとき。
「お待ちください陛下。そのまま扉を開けば、陛下の両手は吹っ飛びます」
ルドミルは眼鏡をくいっと持ち上げて言った。
「り……りょ、両手がふ、吹っ飛ぶ?」
真っ青な顔で大量の冷や汗を垂らすエレナに、ルドミルは続けて淡々と答える。
「ええ、その扉は囮です。いつ誰が何時、この宝を狙うか分かりませんから」
ルドミルはそう言うと、手のひらに橙色の魔方陣を浮かび上がらせる。
「マーク、一応宝物庫を開ける方法を知る事は、、国の財産を管理する私と王しか知ることを許されない。すこし目を瞑ってもらおう」
「分かりました」
マークが目を瞑ると、ルドミルは宝物庫から十歩ほど、距離を測りながら後ろに下がり、足下に魔方陣をかざす。
「……ここか」
ルドミルは小さく呟くと、足下の地面のタイルをひょいっと一枚持ち上げた。
「え!?どうなってんの!?」
エレナが驚くと、ルドミルは表情を変えずに答える。
「宝物庫を開けるために必要なので、このタイルだけ剥がせるようになっています」
そんなこと出来るんだ……と、村ではそんな仕掛け見た事がなかったために感心するエレナ。
タイルがあった場所を不思議そうにのぞき込むと、そこには、緑の魔方陣が展開されていた。
ルドミルは、魔方陣の解除をすることが出来る赤紫色の魔方陣を展開し、緑の魔方陣を解除する。
「これで、扉を開けても爆発しなくなりました」
「本当?じゃあ、もう宝物庫開けても良いの?」
キラキラしためでルドミルを見つめるエレナ。
「ええ、どうぞ……マーク、もう目を開けても良いぞ」
「は……はい」
ルドミルの指示を受け、マークが目を開けると、そこには宝物庫の取っ手に手をかけるエレナの姿があった。
「じゃあ、開けます!」
ギギーッという音を立てながら、エレナはゆっくりと扉を開ける。
「わーーーっ!」
美しい絵画。きらめく宝石の数々。黄金のアクセサリーの山……ではなく、そこにあったのは世界中からかき集められた名だたる武器の数々だった。
「……」
ユーシア帝国が世界を支配していた頃は、力こそが価値だった。故に、宝石や金銀財宝よりも、強い武器こそをこの国の財産としていたところは、武力で世界を支配しようとしていたこの国らしいと言えるだろう。
「あれ、なんか想像とちが……」
宝物庫の光景を見て固まるエレナの前に、ルドミルとマークが体をプルプルと震わせながら歩いて行く。
「これは……初めてこの宝物庫の扉を開けたが、素晴らしい、素晴らしいと思わないか、マーク」
目をキラリと輝かせるルドミル。
「ええ、これぞまさしく宝の山……ルドミル様ほど武器の価値には詳しくありませんが、それでも、ここにある武器の価値がどれほどの物か、あの見事な刃を見るだけでもヒシヒシと伝わってきます」
ルドミルは顔を真っ赤に染め、こぼれ出る笑みを必死に押さえながら言った。
「ゴホン、それでは、貴族達に売る武器の選定を開始する」
いつもより少し高いトーンで宣言するルドミルに、エレナは言った。
「ごめん……私には分からないかも」