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第7話 密約にして婚約

 ――1週間後。

 陽光の降り注ぐ中、私は久しぶりに学校へ登校した。

 キシンガム家の家紋が入った馬車から降りようとする私へ、先に降りたフランシス様が手を差し伸べる。

 

「もうじき卒業でしたね。婚約を発表するにはいい時期だ」

 

 学校を卒業した貴族令嬢の中には、すぐに結婚して相手の家に入る者も少なくない。

 家のため、親が決めた相手と結ばれることはごく普通のことでもある。

 

 私もそれについては充分理解していた。

 理解していたからこそ、幼いながらにそんなものに捉われずにプロポーズをしてくれた()のことが愛おしかった。

 狼の仮面を被った彼と別れたあと、マシューお兄様から彼の正体がロイド・ウォーレンハイムだと聞かされてから、私の中でロイドの存在は特別なものになっていった。

 だからこの学校で彼と再会したときは嬉しかったし、彼との婚約話が持ち上がったときも拒否するなんて考えは最初から浮かばなかった。

 むしろ、それが家の為にもなるのなら願ってもない幸せな婚約だと思っていた。

 それなのに……。

 

 私は少し迷ってからフランシス様の手へ自分の手を重ねる。

 

「ええ、本当に。まさか、貴方と2回目の婚約することになるとは思いませんでした」

 

 そう言って見上げたフランシス様は、高名な彫刻家が繊細に掘り出した彫像のように美しかった。

 風になびく銀髪は揺れる水面のように輝き、瞳は冷え冷えとした氷塊の青を宿している。

 そう、この人が私の新しい婚約者――。

 

 この1週間、婚約破棄から新たな婚約へと、私の置かれている環境は目まぐるしく変化した。

 書類に署名したり関係者の元へ挨拶に回ったり、短期間ではありえないほどの予定が詰め込まれ、流れに身を任せるだけでもやっとだった。

 

「1回目は無かったことにすればいいのです。お望みとあらば、忘れさせて差し上げますよ」

「まあ、お優しい婚約者様ですこと」

 

 私たちは校内のとある場所へ向かってゆっくりと歩き出した。

 自習期間中ということもあって人の姿はまばらだけれど、こうして私が新しい婚約者と歩いているところを目撃する生徒は必ずいる。

 彼らの目に『仲睦まじいリリーナ・エドフォードとフランシス・キシンガム』を印象付けるため、私は敢えて彼へ身を寄せる。

 

「……リリーナ嬢は機転が利かれるようですね」

「ありがとうございます。あと、私のことはリリーナで結構です」

「では、貴方もフランシスと」

 

 そう言って、彼はおもむろに私の手を取って甲に口付けた。

 その瞬間、どこかから女性の黄色い悲鳴が上がる。

 どうやら私が思っていた以上に、学校中の人間が私たちの様子を観察しているらしかった。

 そして、恭しく私の手を取る彼はそのことに気づいていて、こんなことをしたのだ。

 青い目がこちらへ何かを促してくる。

 

「……フ、フラン……シス……」

 

 さすがに恥ずかしくて声が掠れる。

 

「もう一度」

「っ! ……フラン、シス……!」

「まあ、いいでしょう。でも次は、もっと愛情を込めてください。こんなふうにね……リリーナ?」

 

 ぞくっとするくらい甘い声が耳元をくすぐって、一気に身体が熱くなる。

 すっかり玩具にされていることに苛立ちを感じ、キッと睨み付けるけれどフランシスの余裕ある表情を崩すことはできない。

 むしろ、口元にはうっすらと笑みさえ浮かんでいた。

 

 よりにもよって、この人が婚約者……!

 

 すべてはあの夜――エドフォード家の談話室で交わされた密談によって、取り決められたことだった。

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