第6話 扇動にして陰謀
「要約すると、『隣国のスパイが国内の貴族同士の対立を扇動しようとしている』という内容です」
手紙の内容を確認していたお父様は硬い表情のまま、それを私に手渡してくる。
綺麗な筆跡とは裏腹に、手紙に書かれているのはきな臭い計画に注意するようにという警告だった。
「貴族の対立というと、宰相のペジェット派と保守のマルディニー派ね」
エドフォード家は革新的な考えを持ったペジェット派の筆頭でもあって、精霊教会の保守的な考えを支持するマルディニー派とは自然と疎遠になっている。
昔から交流のあったウォーレンハイム家は穏健派ではあるものの、ペジェット派に属している。
私とロイドとの婚約話がとんとん拍子に進んだのは、同じ派閥だったからという点が大きかった。
「二大派閥の対立が激しくなることも問題ですが、エドフォード家とウォーレンハイム家が仲違いすればウォーレンハイム家の負債は膨らみ続け、領地と領民が苦しむことになる。派閥闘争に注目が集まっている間に隣国の密偵によって一揆を誘発されれば、どうなるか……」
フランシス様の声は淡々としたものだったけれど、私はぞっとした。
わざと領民が苦しむように仕向け、一揆を誘発する――もしも各地で同じように一揆が起こされれば、あっという間に内乱に及ぶ危険がある。
いくら緊張関係にある隣国とはいえ、そこまで民を苦しめるなんてあってはならないことだった。
「だが、この手紙の警告がロイドの件と関係するかはわからないだろう」
お父様は動じることなく、向かいに座るフランシス様を見る。
それはつまり、ウォーレンハイム家への融資は取りやめるつもりでいることを示していた。
こんなことになってまで融資をするというのは、どう考えてもあり得ないことだけれど、裏で隣国が糸を引いている証拠があるなら話は変わってくる。
私は縋る思いで銀髪碧眼の秘書官を見つめた。
「確かに、今はまだ不確定なことが多い。ただ、これだけは覚えておいていただきたい。どんな凶事も最初は取るに足らない異変なのです。そうして人々が見過ごし、時が来たときに災禍の花が開く……」
どこか底冷えのする声音で何かを思い出すかのように青い目を閉じたフランシス様は、ゆっくりと手を組む。
ようやく登り始めた朝日に照らされた顔は、端正な彫像のようだった。
「ふむ……」
お父様は何か感じ取ったのか、目を細めて考えに耽っている。
そういえば、フランシス様のご両親であるキシンガム伯爵夫妻は旅行中に暗殺されたと聞いたことがある。
犯人たちは捕まったものの、実行犯とは別に黒幕がいたのではないかという噂が今もまことしやかに囁かれていた。
そんな生い立ちの彼からしてみれば、どんな些細な異変も見逃したくはないのかもしれない。
彼が国王秘書官として働いているのも、ひょっとすると自分と同じような境遇の人をひとりでも減らすためだろか……?
「確実な証拠と言えるものはありませんが、手紙が届く少し前から『妙な動きをしている貴族がいる』と、フランシスから報告がありました。そこで、我々はその貴族の関係者を監視していたんです」
「ほう、その貴族とは……?」
マシューお兄様は視線でフランシス様に答えるようにと促す。
「グレイ男爵家。マリア・グレイの実家です」