表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

そして少女は生を得た

長くも無く、短くも無い人生の最後に見たのは、夜空一面に広がる星々だった。


なんてロマンチックな終わり方。ーーーなんて、らしくも無いことを考える。


最悪だ。何でこんなことに。


生が終わる直前、生まれてから今までの映像が一息に頭の中を駆け巡った。





* * * * * *





生まれてこの方、ビビリな私は十分な注意を払いながら生活をしていた。


例えば、今この瞬間、我が身に危険が迫ったらーーー、とか。


こう言う時にこうなったら、こうしようーーーー、みたいな。


言ってしまえば、妄想過多の拗らせ女である。


勿論、他人様に迷惑は掛けないタイプの。


私は、自身が変な思考回路を持っている人間である事を十分に承知していた為、人一倍自身の発言には気を付けていた。


周囲に私の異常思考に気づいている人は居なかった、と、思いたい。


ーーーとにかく。


ビビリな私は自分の生活が危険に晒されないよう、十分に注意を払いつつ生活をしていた事だけは確かである。





ーーーが。


どれ程注意を払おうとも、人間、避けられない危険に出会うこともある、ということだ。


まぁ、今回の場合は、半分自業自得というか、私が強引に出会いに行ったというか。


端的に言えば、

友人付き合いで景色の美しい温泉街へ。

温泉街からしばらくした所にある山に登る。

落ち掛けた友人と入れ替わるように落ちた私。

ということである。


ーーー何?


ーーーそもそもビビリは、危ない場所へ行かないのでは無いかって?


ビビリとはいえ、人付き合いは大事にするタイプだったんだよ。


ーーービビリなのに、友人に代わって落ちることなんてあるのかって?


ビビリだからこそ、友人を見捨てた人間なんて称号を得たくなかったんだよ。

いくら事故とはいえ、その場に私が居ただけで、友人の家族は私を責める理由たり得るだろう?ーーー"何で助けてくれなかったのか"って。


大半の人間は私は悪く無いと言うだろうが、友人の家族はそうは言わないだろう。ただ、それが嫌だっただけ。


死ぬつもりは毛頭無かったが、想像以上にあった高さに白目を剥きたくなった。


これは、助からないな。


バカみたいな自問自答をしている内に、恐怖故か意識がふっと潰えてーーー、多分、私はそのまま生を終えた。






* * * * * *








ふわふわと心地良い水の中を漂っていたら、急にぎゅうと身体を押さえつけられて、ゆっくりと何処かへ流された。


静かで暗く安心出来る場所から一転、騒々しく眩しい見知らぬ場所へと押し出された私は驚きの声をあげた。


「あー!(急に何!)」


「おめでとうございます。元気な女の子ですよ。」


「!」


私を抱える腕が、しっかりとしたやや筋肉質なものから、今にも折れそうな細く頼りないものに変わる。


「初めまして。私の可愛い子。」


何処までも愛おしさを込めた声がして、ぼやけた私の視界が少しマシになった時、眼前には女神もかくやというような、とてもとても美しい女性が微笑んでいた。


「あー!(誰ー!)」


ーーーこうして私、セレーネ・フェアモントは2度目の生を受けたのだった。








* * * * * *









ーーー時は流れて。


ころころと床を転がる事が出来るようになり。


とてちてと2本の腕と2本の足で移動が出来るようになり。


よろよろと物に掴まりつつ2本の足で立てるようになった頃。


私は日々、自分が住んでいる邸の探検に勤しんでいた。


今日の目的地は、父の執務室である。


馴染みのメイドの手を引いて、父の執務室の前まで歩く。


扉の前で立ち止まって、コンコンと扉を鳴らし、自身の来訪を告げた。


「しぇれーね、でしゅ。(セレーネです。)」


やや間があって、そっと扉が開かれる。


扉の前には父の補佐の青年が立っていた。


「お嬢様、どうぞお入り下さい。」


青年は私が部屋へ入り易いよう、さり気なく脇へ避けつつ、声を掛けてくれる。


「ありゃと。(ありがとう。)」


その行動にきちんと感謝を述べて、私は父の元へと足を進めた。






ーーーが。


父が座る執務机の手前に設置された、応対用の机の前で足が止まる。


勿論、目線は応接机の上の物に釘付けであった。


机上のソレを右から左からまじまじと見つめる。


そして、目の前にある、私の手よりもやや大きなソレを手に取った。


「なぁに、こりぇ。とぉめ、な、いち?(何だこれは。透明な、石?)」


すんすんと匂いを嗅ごうと引き寄せたソレは、大きな手に掴まれて遠ざかっていく。


「あーっ。」


次いで、私自身も持ち上げられて、視界が一気に高くなった。


「おはよう、セリィ。これが気になるのかい?」


私を持ち上げたその人は、椅子に座った自身の膝の上に私を乗せると、そっと頭を撫でつつ、優しく尋ねてくれる。


「ぉはよ、ぱぁぱ。しょれ、なぁに?(おはよう、パパ。それは何?)」


心地良さに身を任せつつ、先程の物を指差して首を傾げる。


うんうんと頷いた父は、私を撫でる手を止めると、指を差した先にあるそれを私の目の前にことりと置いてくれた。


「これはね、魔石という物だ。魔力、あー、魔法を使う人が持っている、魔法を使う為のエネルギー源の様なものを溜めておく事が出来る石だよ。」


「ふんふん。(ふむふむ。)」


私の父は、赤子相手でも決して軽く扱う事なく、しっかりと説明してくれる。本当に良い父に恵まれたものである。


「今、セリィの目の前にある石は透明だろう?これは、この石に魔力が一切入っていない事を示しているんだ。そこに、このようにーーーー魔力を加えると色がつく。魔石につく色は魔力を加える人毎に異なるんだ。」


「いりょ、かわりゅ。ぱぁぱ、いりょ、あか?(人によって色が変わるのか。パパの色は赤色って事?)」


「そうだね。パパが魔力を加えた魔石の色は赤色になる。」


ふむふむと頷きつつ、魔石に手を伸ばすと、後ろから伸びてきた細く柔らかい掌にふんわりと手を包み込まれた。


「あらあら。魔石はまだセリィには早いから、もう少し大きくなってからにしましょうね。」


「まぁま⁉︎(ママ⁉︎)」


「おや。おはよう、ルネ。」


私の手を包んだ掌の持ち主は、母だった。


いつの間に背後に⁉︎


入室から背後に来るまで、一切気づけなかった。


母、恐るべし。


特段、驚く様子のない父を見て、これは気づいていたなと理解する。


父も気づいていたなら、そうと教えてくれても良いのに。驚いたじゃないか。




因みに、おっとりとした口調で話す私の母の名は、ルナリア・フェアモントという。


深層のご令嬢にしか見えないけれど、実際は我が家で1番の魔法使いらしい。




「おはよう、あなた。」


包まれていた手が解放され、母が父におはようのハグをする。


父と母でサンドイッチされた私の口から、ほぅと小さな息が漏れた。


父と母の間は最も安心できる、居心地の良い場所である。









ハグを終えてそっと離れた母が、柔らかく下げた眦を少し吊り上げて、私を見つめる。


「ーーーねぇ、セリィ?何かママに言うことはない?」


ーーーあ。そういえば。


いつもは探検の前に、きちんと母に確認を取っていたけれど、今日はすっかり忘れていた。


どうやら母は、何も言わずに部屋を飛び出して来た私を心配して、探しに来てくれたようだ。


「ぉへや、でた、めんな、ちゃい。(何も言わずにお部屋から出て来て、ごめんなさい。)」


申し訳なさに、やや俯きがちになった私の頭を、母が優しく撫でてくれる。


「えぇ。次からはきちんと、ママに言ってから、お部屋を出るようにしてね。」


次いで、私に向けていた優しい表情から一転。


先程よりも眦を吊り上げた母が父を見つめる。


「ーーーところで、あ・な・た?いくらセリィが賢くて聞き上手だからって、セリィの近くに魔石を置かないの。」


「ごめんごめん、つい。」


「つい、じゃありません。危ないでしょう。全く。次が無いようにして下さいね。ーーーさぁ、セリィ、こちらにおいで。」


父の膝の上から母の腕の中へ移った私は、取り敢えず母に抱き着いておいた。


母は暖かくて優しい香りがする。


肉体年齢がまだ小さい私は、母の腕の中で、すとんと眠りに落ちた。


精神的には眠くなかったのだが。


全く。幼い身体とは不便な物である。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ