９９話：奥の手を取り出していく
「グ、グルル……グルル……！」
「はは、戦ってる最中にそんな驚いた顔なんてしない方がいいんじゃないかな？ それじゃあルリさんを傷つけた借りを……今すぐここで返して貰うよ！！」
「ユウ君……」
「ッ！！ ……グルルル……」
僕はそう言いながらキングワイバーンに向かって睨みつけていった。すると一瞬だけキングワイバーンは僕の眼光に怯んでいったけど、それからすぐに……。
「グ、グッ……！ グ、グルルルアアアァッッ！！」
「うん？」
―— バサッ、バサッ、バサッ……！
それからすぐにキングワイバーンは大きな咆哮と共に大きな翼を広げて空高くへと飛翔していった。
「逃げる……わけじゃないよね？」
「グルルル……グギャアアアアッ！」
キングワイバーンは逃げるつもりで空高くに舞っていったのかと思ったけど、でもあの目は逃げようとしている目ではない。あの目はまだ闘志をむき出しにしている目だ。
「もしかしてもう一度突撃してくる気？ だけど今度の突撃には僕も蒼炎の壁を呼び出すよ？ いくらキングワイバーンと言えども生身で最上級の蒼炎の壁に食らいつく訳ないよね？」
いくら最上級モンスターと言えども僕の最大の防御魔法に生身で突撃してきたらタダでは済まないはずだ。僕の呼び出す蒼炎の壁で大ダメージを与えつつ、最後に僕が反撃を食らわせればそれで倒しきる事が出来る可能性は十分ある。
でも流石にキングワイバーンだってそんな馬鹿ではないはずだ。何故なら先程の戦闘で僕の蒼炎の壁で岩石を全て溶かしていったのをキングワイバーンはしっかりと見ていた。
だから僕に目掛けてもう一度キングワイバーンが突撃した所で、今度はあの蒼炎の壁が立ちふさがる可能性が非常に高いと容易に想像出来るはずだ。
それなのに……このまま無策にもう一度僕に突撃してくるつもりなのか……？
「ググ、グギャアアアアアアアアアッ！！」
「ん……？ って、なっ！？」
「えっ！？ キングワイバーンの身体が……！？」
キングワイバーンは空高くまで舞っていった後、もう一度大きな咆哮を上げてみせた。するとキングワイバーンの身体から……。
―— パキッ……パキ、パキッ……！
キングワイバーンの身体からパキパキという異音が鳴りだしていった。そしてその異音と共にキングワイバーンの身体は違う物質へどんどんと変化していっていた。
「なるほど。石化魔法か……！」
「ス、スクルド……？ それって……一体どんな技なの？」
「はい。スクルドは上級闇魔法の一つで、自身を様々な鉱石や鉱物、金属などに変化させる事が出来るという変化技です。身体を鉱石や鉱物に変えてしまうので行動力は若干落ちてしまいますが、その分防御力の高い鉱石に変化する事で自身の防御力を大幅に引き上げる事が出来るという特殊な強化魔法です」
「な、なるほど……そんな特殊な魔法があるんだね……と、という事はキングワイバーンは今……何かしらの鉱物に変わろうとしてるって事……？」
「はい。おそらくは自身の防御力を引き上げるために……って、な、何だって！？」
―— パキッ……パキ、パキッ……！
そして今、パキパキという異音と共にキングワイバーンの全身は全て金色の石へと変化させていった。これはまさしく……。
「……金華石か」
金華石はダンジョン内にのみ採掘される超希少鉱物の一つだ。希少度合で言ったら黒煉石なんかよりも遥かに高い。こんなにも大量の金華石を手に入れたらきっと億万長者になるだろうな……。
「お、おうかせき？ そ、それはどんな石なの……？」
「はい、金華石はダンジョン内でしか採掘出来ない超希少鉱石の一つです。基本的にはマグマ地帯でしか採掘出来ません。そして金華石はとある特徴から最上級の武器や防具を作る際に使われる鉱石です」
「な、なるほど。それで、その特徴って一体……？」
「金華石の特徴は二点です。“非常に硬い性質”を持つという点と“耐熱性質に非常に優れている”という点です」
「っ！？ そ、それじゃあ……！？」
「はい。おそらく僕の行動を見て学習したという事でしょうね」
キングワイバーンは先ほどの戦闘で僕は火属性の魔法に長けているという事を学習してきたんだ。だからキングワイバーンは自分の身体を非常に硬くて熱にも強いと言われている“金煉石”に自身の身体を変えていったのだろう。
やはり最上級モンスターかつアストルフォのボスモンスター……倒すのは一筋縄ではいかないようだ。
「……ふぅ、こうなったら仕方ない……それじゃあ僕も奥の手を出すしかないようだね！ 下級闇魔法発動、闇穴生成！」
―― ブォン……！
僕はそう言いながらダークホールを発動していった。これは僕が唯一使える闇魔法だ。これは前にも言ったように亜空間の穴を呼び出す魔法だ。僕はこれを武器庫に使っている。
僕は基本的にいつも小さな短剣や双剣しか持ち歩かない。それは重い武器やデカい武器などを持ち歩いていては冒険の邪魔になるからだ。
それにモンスターによって有利になる武器種が変わる。だから戦うモンスターを見極めて使う武器を選定するのが一流の冒険者としてやるべき事だ。
そしてスクルドを発動して最強の防御力を得ているキングワイバーンを打ち倒すために必要な武器は……もうこれしかない！
「僕の魔力が持つかどうかにかかっているけど……それじゃあ君の強さに敬意を表して……僕も最強の武器で相手をさせて貰うよ！」
―— ブンッ！
僕はその亜空間の穴の中に手を突っ込んでいき、そしてその中に入ってる剣の柄を握りしめて、勢い良くその剣を取りだしていった。
「……や、久しぶり。相棒」
「グ、グギャッ！？ グ、グルルルッ……！」
「わ、わぁっ……すっごく……きれいな炎の剣……？」
僕はそう呟きながらその剣をキングワイバーンに向けて持ち構え直していった。僕が握りしめているその剣は真っ赤な刀身がとても特徴的で、その剣を見ているだけでも熱く火傷してしまいそうになる不思議な剣だった。
