第三話 お酒は生涯の友達です その②
あてとチコは、うすい葡萄酒を五樽買い込んで、荷馬車に積み込んだ。
「わりと軽いな~。」
「げげ」
チコが目をむいている。
約三〇リットル入りの中型の樽だ。
ひょいひょいと積んでいくと、ロバが重そうなので後ろから押してあげると、かなり楽になったようすや。
本当に去年の酒は、水ばっかしのようで、感覚としてしゃびんしゃびん。
あてが飲んでも薄いと思う。
アルコールが、ちょっぴりはいったブドウジュースって感じ。
体感的に、三パーセントくらいかもせえしまへんな?
ちょっとほほがほんのり色づく程度で、すぐ醒める。
「こりゃあ本当にうっすいねえ。」
あても、情けない顔になった。
とりあえず、職人街に戻って、樽を下すことにしたんや。
「チグリス~、買ってきたよ~」
「おう、ご苦労さんって!なんだよこりゃあ。」
「有り金全部勝ってきた。」
「ばかやろう、文無しでどうするんだよ。」
「あはは。」
酒造りは、三人で交代に見張りをすることにして、最初はチグリスが見張り番に立った。
あては、酒代を稼ぐため、もう少し狩りに出ることにして、馬車にロバをくっつけて草原に出かけた。
今回は、メイスのほかに二メートルくらいの樫の棒を持ってきた。
どっちが有効かと考えたからや。
ここの剣は両刃のぶっといやつで、俗に言うソードとか言われるやつ。
まあ、ぶったたいてそのうえ、ぶった切るって言うシロモノで、あての手になじまへんし。
それなら、打撃系のみでやった方が身に合うっちゅうもんや。
草原に出てすぐにウサギが二匹。ええやん!樫の棒の実験にぴったりの相手どす。
ロバは危ないのでそこに残して、ウサギを迎え撃つようにロバの前に立つ。
「シャアアア!」
赤く塗ると三倍速く動けるやつか!
六尺棒は、くるりと回せる。
ふむ、動きやすい。
直径が約三センチと少し。
クワの柄って感じ。
白ウサギもみんな同じやないんやな、一匹はジグザグに走ってこっちを撹乱するつもりらしい。
アホ、影は一匹分しかいないんや!
その影の動きをとらえて、樫の棒を脇がまえに持ち替える。
前からくるウサギには、棒の丸いところしか見えへん。
「三段突き!」
ぱしぱしぱし!
ウサギは、眉間・人中・あごと三箇所突かれて、鼻血を吹きながらあとじさる。
「キィー!」
自慢の前歯が折れてしまった。
って、食いモンになったらそんなんどうでもええやん。
げっ歯類だから、すぐ生えてくるしな。
くるりと前に回して、上段に構えて真っ向唐竹割に振り落とす。
六尺棒が風を切る音が心地よい。
しゅん!
「ぐぎゃ!」
頭骸骨を断ち割る感触が手に伝わったので、白ウサギはそのまま捨て置いて次の黒ウサギを目にとらえる。
クロウサギは、毛皮が高く売れるのでギルドでも喜ばれるそうやし。
「よしよし、逃げないな。」
どんだけ好戦的なのか、こいつらはけして逃げへんし。
攻撃主体の脳みそらしいので、仲間がやられてもぜんぜん気にしてないし。
まあ、仲間という意識があるかどうかもわからんが。
若干の時間差で飛び込んできたクロウサギ。
こいつは人一倍脚力が強いらしく、ひととびで二メートルほど飛び上がる。
空中にあっては、軌道修正なんかできひんやろ。
あては、右に左に六尺を振り回して、顔、肩、胸と打ち据える。
もちろん、足も手も痛そうなところは逃がさない。
やはり、メイスよりも六尺のほうが使いやすい。
さんざん打ち据えて、眉間を割ってとどめを刺したる。
思ったより疲れてへん。
ウサギを荷台に乗せて、もう少し進むと、前方に豚がいてる。
イノシシかと思ったが、牙がない。
「って!顔だけ豚で、立ってはるやん!」
西田敏行がやってた猪八戒のでかいやつみたい。
あとで聞いたらオーク鬼である。
ほとんど二足歩行の豚。
身長二メートル半!
ただし、手には三本指があって、こん棒を使うらしい。
そいつもマルタを持ってはる。
「おっきわ~」
往々にして、このへんのモンスタ-も魔物もサイズが大きい。
人間に対して、約一.五倍はあるよ。
「ちくしょう、打撃に強そうやな。」
六尺を体の後ろに引いて、構えなおす。
本当にでかい、身長三メートル近いぞ。
俺の遠近感は甘いと言わざるを得ない。
近くに寄ってからそのでかさにビビる。
筋骨隆々ってやつや。
オーク鬼は、声も出さずにこん棒を振り回した。
ぶぅんと、低い音がして頭の上をこん棒が走る。
あてのこめかみには冷や汗が走った。
スピードが遅いのに、こんな音がするなんて、どんだけ力が強いんや。
さらにそれが戻ってきた。
「ひょえ!」
俺は、変な声を出してしまった。
こん棒が戻るタイミングで、六尺を突き出すと先がオーク鬼のあごに当たった。
「ぷごっ!」
あ・怒ってる怒ってる、痛かったやろな。
真っ向唐竹割に、こん棒が振り下ろされる。
なんやこの爆発力!
地面にめり込むと同時に、土砂と石が八方に飛び出す。
「いて!いてて!」
後ろに飛び退ったのに、顔に小石が当たる。
それが何度も繰り返されるもんだから、そこら中にホコリが舞う。
俺の顔も石で切れて血がにじんでいる。
ちくしょう、このままじゃロバも危ないな…
あては、オーク鬼を中心に左に回り始める、目標はあくまであてに固定させて、スキを窺う。
いや、スキだらけなんやけど、パワーがありすぎて正直いってビビってるんやないか?
周りには遮蔽物もない、ちくしょうめデカい…二〇〇キロはゆうにあるな。
ブタのくせに…
なんか沸々と怒りが沸いてきた、どちくしょうが。
まずは、こん棒を振り回す右腕から殺してやる!
ふり降ろされたこん棒が地面に着く前に、横合いから小手を狙う。
「コテ~!」
ぱあんといい音がして、右手の外側が真っ赤になるが、それだけ。
一発ではダメだった。
「ならば、折れるまで何度でもやったるわ!」
息が荒くなる。
ぱし!ぱし!
まだ振り回せるのか!なんちゅうパワーや!
「ぐおおおお!」
いや、敵もかなり怒っているようやった。
痛いからな。
腕をたたきながら、眉間にツキを入れてやる。
鼻づらも鼻血を振りまいて真っ赤や。
何度も何度も繰り返し、攻撃を加える。
こっちは、疲労以外はノーダメージなんやけど、こっちが先に参りそうや。
大幅に振り上げたこん棒が降り始める時を狙って、一気に間合いを詰める。
ぼきい!
敵の振り下ろす勢いを利用して、下からたたき上げた。
うまくハマって、右手の手首付近をヘチ折ることに成功した。
こん棒が右手から離れる。
からん。
オーク鬼は、右手を左手で押さえて痛みをこらえているようや。
痛みで頭が自然と下がってくる。
棍棒を足で遠くへ蹴り飛ばして、そのまま六尺を上段に振り上げ、渾身の一撃を下がった頭に叩き込む。
ぼきい!
こっちの六尺が折れたわ!
しかし、敵もかなりのダメージを受けたようで、膝がくずれている。
アタマがくらんくらん揺れている、目が回ったか?
あては六尺を放り出し、馬車にメイスを取りに戻る。
余裕はあるはず、あいつはまだ動けない。
まだ起き上がるなよ…ちくしょう!
俺の足はどんだけ遅いんや!
馬車までが遠い!
いつになったら到着するんやて!
さんざん時間がかかったみたいやけど、あとで考えれば五秒もないようや。
「はあはあ!」
やっと荷台にたどりついて、メイスを持ち上げる。
あ!アホンダラ、寝てろ!
オーク鬼が膝に力を入れて、起き上がろうとしている。
どんだけ打たれ強いんや!
まあ、アブラミ多そうやもんな。
顔を上げると、眉間に見事なこぶがぷっくりできてはる。
メイスを構えて、豚に駆け寄ると、思い切り膝に一撃を打ち込んだ!
ぐしゃりと、いやな手ごたえがして膝の皿が割れる感触が伝わってくる。
「ぐおおおお!」
「いてーか!」
もういっちょう!
右ひじを砕く!
がきい!
ふう~、やっと余裕が出てきた。
こえーよこいつ!
集団で出てきたら対処に困るな。
いったん離れて、ためを作って、ちょうど俺の目の高さの頭頂部を狙う。
こいつ、豚のくせに頭の両脇に角はやしてるんだぜ。
その真ん中を狙って、一気にメイスを振り下ろすが、一発でへこまない!
「かてー!」
むっちゃ硬い!
もういっちょう!
がいん!
「まだかー!!」
ごきい!
鼻と耳から血を噴き出して、ようやく前のめりに倒れこんだ。
どど~んと音がする。
さすがデカい。
「はあはあ…(*´Д`)」
こっちだって、膝ががくがくして立ってられないくらい疲労困憊している。
神経もささくれだってる。
これでなんか出てきたら、ちょっと危ない。
おい、フラグが立つぞ!
…ウサギだ。
茶色と白のブチウサギがこっちを見て、ニヤリと笑ったような気がした。
こっちはメイスを杖にして、よろよろ立ち上がる。
アホンダラ、こっちゃオーク鬼をやっつけてるんや!
ウサギごとき、だれがビビるかっ!
いまさらに重いメイスを持ち上げて、走ってくるウサギを待ちかまえ、ごきんと一発!
力加減ができなくて、ウサギの頭が消し飛んだ。
「アホンダラが、雉も鳴かずば撃たれまいに。」
おまけが増えた。