表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

第二話 一文無しはつらいよ! その①

 チグリスからもらったメイスをかついで、チコと連れだって歩いていく。

 ドワーフは結構戦闘能力がたかいそうで、チコは油断なく周りに目を配っている。

 なかなか好い動きや。

 でもまあ、畑の真ん中で、そこまで緊張しなくてもいいのやけど。

 畑は緑の葉っぱが並んでずっと続いている。

 ほうれんそうに似ているけど、畝らしいものも見当たらへん。

 じかに植えているカンジ。

 掘り起こしたりしてるのかなあ?


 道はやはり三メートルほどで、荷馬車のわだちが草を生やさない。


 正直言って、この状態はどうなんや?

 記憶があるわけではないが、街に対する違和感がぬぐえきれへん。

 簡単に言うと、あての知っている街とはちがう。

 こんな石と木組みの家なんかなかった。

 いや、木組みなんやけど、これじゃない感。


 道路だって、こんなやない。

 石で舗装された道やて、観光地以外になかったし。

 水道がない。

 トイレが臭い。

 トイレに紙がない。(終わってはるな。)


 どう言うわけか、魔法なんてものがあって、生活に密着してはる。


 ここ重要。


(まほうは、いつもチートなものやけど、実際に見ると手品にしか見えへん。)


 移動手段が、徒歩か馬車しかあらしまへん。

 俺は、なぜこんなところにいるんやろう?

 チコの横を歩きながら、そんなことを考えていた。



 道のわきを細い小川が流れているけど用水路かな?

 水の流れは、石積みの水路を行く。

 ところどころで道は交差していて、荷馬車がすれ違うこともできる。

 ゆるくうねった丘の向こうに草原が見える。

 どうやら開発が止まっているようだ。

 人口が少ないから、そこまでしなくても喰えるのかもな。

 なんせ、ニマンニンモ居るのやさかい。


 背丈の高い草が茂っている。

 道のわきには広葉樹が植えてあって、涼しい影を落としてはる。

 まあ、植えてあるのか、残っているのかは不明やけど。

 空はよく晴れて、歩くとかなり汗が出る。

 時刻は午後三時ごろ、そう言えばセミの声がしいいへんな。

「セミ?まだ早いよ。鳴きだすのは七月からよ。」

「そうか?」

 なにやら気配が…

「…向こうになにかいてはるな。」



 畑を抜けて、草原に出た。

 境にも木が植えてあるのか、ずっと続いている。

 森までは一〇〇メートルくらい離れているか。

 草原にもぽつぽつと広葉樹が立っているので、見通しがいいとは言えへんが、まあなんとかなりそうや。

 木陰は涼しいしな。

 俺の意識を捕まえたのは、ウサギのようやな。


 三本ぐらい向こうのケヤキの下に、茶色と白のまだらになったウサギが立ってはる。

 どうやらメンチ切ってるみたいや。

「目が合ったな、来るぞ。チコは、木の陰にいて。」

「うん。」

 やはり早い。

 三〇メートルくらい、瞬く間につめる。

 だいたい、ウサギは五〇メートルを四秒半くらいで走るそうだ。


「来い…」

 あては、メイスを上段に構えて、ウサギを待った。



 速い!



 ウサギは目前で、鋭い前歯を見せながら飛びかかってきた。

「ち!こいつめ!チェストォ!」

 おもきし眉間を狙ってメイスを振り下ろすと、めこっと頭蓋骨が歪んで昏倒した。

 やはり一撃や。

 ウサギは、目が飛び出て耳から血を吹きだして倒れている。

 このメイス、バランスがええな。

 なんちゅうか使いやすい。


「すごい…ユフラテ、すごいよ。」

「いっちょあがり、三十五~六キロくらいかな。」

「おおきいね。」

 木の枝に吊り下げて血抜きをする、チコも慣れているのか気にもしていない。

「あ、なんか足音がするよ。」

「本当や、あっちか。」

 どすどすと、重い足音がするほうを向くと、体長二メートルを超えるようなイノシシがいた。

 チコは、ブラウンボアだと言う。

 単なる茶色いイノシシだわ。


 前の牙が左右に二本ずつ、合計四本上を向いている。

 凶暴そうな面構え。

 あれで切り裂かれたら、足なんかひどいことになるやろな。

「約一トンはありそうやな。」

「でかすぎるよ!」

 チコが悲痛な声を洩らした。

 あては、かえって落ち着いてきたんやけど。

「見つかってしまってはしょうことない、チコ、木の上に登れ。ぶつかると危ない。」

「う、うん、ユフラテも気を付けてね。」

「ああ、まかせぇ。」

 なにを任せるんだかよくわからんけど。


 チコは、それでも木の上で、弓に矢をつがえている。


 よくはわからんけど、この辺の野生動物はどいつもこいつも攻撃的なやつばっかしやん。

 ウサギの当社比二倍くらい早い速度で迫りくる大イノシシ!

 最初は重い体重に、ダッシュが付いてこないが、加速がつくと速い!

 まるで、DOHCがカムに乗ったように、一気に加速する。

 ドドドと言うよりも、ガガガと言った足音になる。

 メイスの柄に唾をかけて、迎え撃つ。

「こい…」

 上段に構えたメイスを振り下ろす前に、イノシシは目前にいた。

「うわ!」

 あやうくかわして、構えなおす。


 ちくしょう、間合いをしくじった。

 ギリだったないま。

「大丈夫!ユフラテー?」

「だいじょうぶ!」

 今ので間合いは見切った、速度に修正をかける。

 イノシシはぐるりと円を描いて、方向転換してくる。

 速度が速くて、回転半径が一〇メートルくらいあるんや。


「こい。」

 正眼から上段に移行しながら、一歩前に出る。

「ちぇい!」

 ごちんと音がして、イノシシの眉間がへこむが、気にせず方向を変えて戻ってくる。


 が、あての眼前でふらふらとゆれると横向きに倒れた。

「や、やったの?」

「いや、まだ生きてる…そい!」

 もう一度ごちんと音がして、固い頭蓋骨が割れた。

「これは大きすぎる、かついで戻れない。」

「そうだね、うちに行って荷馬車を取ってくるよ。」

「ひとりで大丈夫か?」

「こんなのが獲れたんなら、ほかの獣はそうすぐには出てこないよ。行ってくる!」

 チコは、樹上から降りると一気に駆け出した。


 なるほど早いな。

 ドワーフは筋肉だるまだから遅いなんて言ったやつはだれだ?

 すっげえ速く走るぞ。

 すぐに畑をすり抜けて、外壁にたどりついた。

 小さい体でたいしたもんや。

 こっちを向いて手を振ってはる。


 あては、視線を感じて振り向いた。

「!」

 もう一匹いた。白ウサギや。

 こいつも、赤い目をむいて攻撃してくる。

 どんだけ学習しないやつらなん?

 もしくは、好戦的な生き物やな。

 おもしろいので、メイスを軽く振り回し、いろいろ扱いを研究しながらウサギを翻弄する。

 ウサギの顔は、アン●マンのように腫れてしまった。

 とどめの一撃を見舞うころに、騒ぎを聞いてもう一匹のウサギが顔を出した。

 こいつも白い。

 すれ違いざま、一撃で仕留める。


 血抜きをしながら、こいつらのばかさ加減にあきれる。

 どいつも四十キロは下らない。

 木に吊るすロープがない。

 きょろきょろと回りを見回すと、下草の間にツル草が見える。

「よし、これでええわ。」

 そのへんからツルを引きずり出してきた。

 頭を下にして吊るすと、喉を切る。

 チグリスから借りたナイフはよく切れるわ。

 どへーっと血が出て、そのへんスプラッタ。

 下に掘った穴に吸い込まれていく。


「銀貨がざくざくしてきたな。貨幣価値がイマイチよくわからんが。」


 かぽかぽと音がして、ロバの曳く荷車がやってきた。

 御者台にはチコとチグリスの姿があった。

「ユフラテ~!とうちゃんも連れてきた、イノシシ乗せるのー。」

「おう、ウサギも増えたぞー。」

「あらまあ、ウサギ三匹!」

 あてたちはほくほくしながら家路についた。

「しかし運がいいな、イノシシでこんなでかいのが襲ってくるとは。」

「それ、運がいいのか?」

「わはは!シシ鍋はうまいぞー。」

「はあ…そんなに体力使わなかったからいいわ。このメイス、使い勝手がええわ。」

「そうか?」

「うん、振り回しやすい。この白ウサギでいろいろためしてみたけど、どれも攻撃しやすかった。」


「すごいんだよとうちゃん!ウサギを一撃でやっつけた。」

 チコがはしゃいでいる。

「へえ、なんか心得があるのかね?」

「前に、剣を習ってたらしい。技が勝手に出る。」

「そう言やあ、最初もなんいやら掛け声かけてたな。めんだったか?」

「はあ、メンかー、そういえばなんでメンなんやろ?」

「そりゃこっちが聞きたい。」


 ブラウンボアはその巨体を横たえているので、なんとかして荷台に乗せたい。

 三人で引っ張れば、乗せられるんじゃないか?

「うお、こりゃ重い!動かんぞ!」

 チグリスは、イノシシの足をもって引っ張るが、ずるずる動くだけで、前に進まない。

 チコもいっしょになって引っ張るが、とても上がりそうにない。

「うう~、とうちゃん、これは人を呼んでこないと上がらないよ。」

「そうだな、バラして乗せるか?」

「ええ?もったいないよ~。」

 二人は思案六方である。

「ええ?動かないか?」

 俺は、シシの後ろ脚をもって引っ張った。

「あ!」

 チコの声に押されるように、シシはずるずると動き、荷台へとずりあがった。


「な!なんで~?」

 チコの声が森にこだました。


 で~で~で~で~


「たいした力持ちだなおい!」

 チグリスがびっくりして大声を出した。

「わからんが、乗ったからええやん。」

 不思議と、体はなんともない。

 イノシシが載って、よかったな。


 ギルドに荷馬車をつけて、チコにコステロを呼びに行ってもらう。

 チコは、ギルドの入り口に飛び込んで行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ