第〇話 序章
ガシャコン
「あれ?」
ガジャー
私の肘が当たった書類は、ふわりと机から落ちると、見事にシュレッダーに吸い込まれて行った。
もちろん、それはきれいなコマ切れとなってダストボックスに落ちる。
「え?え?え?」
これって、まだ生存するものですよね。
「ちょっと!ルカ!なにやったの!」
上司であるジェシカ女史は、ひいいと叫びながら、椅子から立ち上がった。
「ほかの書類は!ああ、大丈夫ね、すぐにシュレッダーの電源止めて!」
「あ、はい。」
そばのデスクから、同僚のカエラが立ち上がってコンセントを引っこ抜いた。
「なんてことしてくれたのよ!ルカ!」
「あああの…」
「うかつを通り越して、これは犯罪よ。」
私はどうしていいかわからずおろおろする。
「こうしてはいられないわ、すぐに対策しないと。」
ジェシカは長い黒髪を揺らして、立ち上がる。
「カエラ、そいつ拘束しておいて!」
ジェシカの言葉に、私は戦慄する。
拘束?
犯罪?
「あわわわわわ」
ぼうっとしている間に、私はカエラに後ろ手縛り上げられてしまった。
私の上司の上司は、雲の上の人で、外部に話を通してこの事態に当っている。
ジェシカは、眉をつりあげて電話を握りしめている。
内線は上司につながっている。
眉間には深い皺が寄っている、跡が残りそう。
ぱし~ん
ぱし~ん
乾いた音が部屋に響く。
音が近く聞こえるのは、その音が私のお尻から聞こえてくるからだ。
「あううううう!」
「ひい!」
「声なんか出すんじゃない!」
ジェシカの叱責に、必死になって歯を食いしばる。
周りには、同僚が何十人もいる。
私のお尻にスリッパがあたるたびに、みな体を固くするのだ。
手は後ろ手に縛られて、身動きできない。
私は女ばかりの職場で、パンツおろされてスリッパでお尻を叩かれている。
「上から、百叩きって言われているんだからね!」
ちくしょう!私の肘め~
このスリッパ、鉄の芯でも入ってるんじゃないの?
めっさ脳天まで響くんだけど。
あ、上司の上司がテレビ電話でなんかしゃべってる。
あの人が、あたしがドジした相手か~
ぱし~ん!
ひいいい
げ、トラクターごと橋から落ちて…あら~ぐちゃけてる!
これは、修理とか修復とかはムリだわ。
あっちはアマテラっさんの管轄だし。
そうか、こっちのイシュタールならなんとかなりそう。