ゲーム
幼い頃、一歩ずつしか前進できない歩兵が敵陣に入った途端に覚醒するルールに興奮したものだった。異国からやってきた先祖の遺した本で知った、現物を見たことのないゲーム。よく似たゲームで、最深部まで踏み入った兵が好きな身分に転身するルールを持ったものもあるらしい。前者が覚醒なら後者は異例の大出世、あるいは偽りの身分から真の姿を取り戻すような、いずれにしても大興奮間違いなしの展開だった。
今、目前にはまさにその時が迫っている。まともに名を呼ばれたことすらない雑兵の己が戦況をひっくり返す起死回生の一手を打てる時が。極度の疲労も空腹も、折れた骨の痛みも熱さえも麻痺した体で最後の一歩を今踏み出す。
第22回 毎月300字小説企画、お題は「歩く」でした。
……が投稿日を1日間違えていたので、ひっそりと公開のみしておきます。