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花言葉シリーズ

地獄への手向け

作者: 怪連堂

 俺には大好きな甥っ子がいた。

 兄の子供で無邪気で素直な、目に入れても痛くないくらいだった。

 産まれたと聞いて両親と一緒にお祝いに行って、甥っ子の顔を見た瞬間から俺は目を奪われた。

 兄に似てぱっちりとした大きな瞳と、義姉に似た焦げ茶のくりくりの髪の毛。可愛くて可愛くて仕方が無くなってしまった。

 それからというもの、俺は兄の家族のもとへ通った。仕事をしながら遠方の兄の家へ行くのはしんどかったが、それでも甥っ子に一目会うためならば苦ではなかった。

 俺は心底、甥っ子を愛していたのだ。

 なのに一か月ほど前のこと。兄家族は旅行先で車ごと海の中に沈んでいたという。警察によると全員の体から兄が服用していたという睡眠導入剤が検出されたのだとか。

 俺はその事実を聞かされた時、心底驚いた。

 兄は順風満帆に見えたからだ。とても病気や不眠に悩まされていたとは思えなかった。

 しかしその兆候や素質はもともとあったのかもしれない。

 一時期兄とは険悪だった。

 思春期真っただ中だった兄と、少し年の離れた俺は、上手く話が合わずそれにイラついた兄が俺に手を上げることもしばしばあった。そのたびに母が庇ってくれたが、母がいない時を狙って鬱憤を晴らされることもあった。一時期病院へ通っていたのも知っている。それほど不安定になっていた時期があったのだ。

 しかしそれも次第に薬の服用と治療のお陰で落ち着いた。

 兄が大学に入ったころには、すっかりその暴力性は無くなっていた。

 兄弟で通院したときは、どうなるかと思ったと笑うのが母の口癖だった。

 そしてお互い大人になり、義姉との結婚が決まった時に兄は謝罪してくれた。あの時はすまなかった、と。自分も馬鹿で餓鬼だった、と。深々と謝罪された。

 俺はもう昔のことだからと言って、兄の背中をさすったのを覚えている。それよりもこれから義姉との結婚生活を頑張って、絶対に幸せにするように約束させた。

 兄はその約束を守った。

 一流企業に就職し、結婚四年目には二人によく似た、可愛い息子も生まれた。兄家族は、本当に幸せそうに見えた。実際幸せだったと思う。

 それなのにこんな結果になってしまった。俺は彼らの葬式のときにはもうこの世にいないことを実感して号泣してしまった。

 不幸中の幸いだったのは、家族全員で亡くなったことか。

 家族で一緒に居られるのなら、あまり悲しくは無いだろう。

 俺は毎日お供えに行く。

 家でたくさん摘んだ四つ葉のクローバーを携えて。

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