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35ー精霊樹がじぇんじぇんねー

 結局どうしたかというと、長老がエルヒューレまで転移で戻り馬を取ってきた。

 

「ちょっと待っているんだぞ」


 と、直ぐそこまで出掛けるかの様に言ってシュンッと消えた長老。ほんの数分で馬を連れて戻ってきたんだ。感覚が違いすぎて理解できない。

 そして、馬でパカパカと進む一行。ハルはいつもの通り、リヒトの前に乗っている。


「馬らと楽らな」

「ハル、楽ばかりしているからお腹が出ちゃうのよ」

「みーりぇ、らからぁ」

「アハハハ、ハルは幼児体形なんだよな」

「しょうら、りひと。しゃーねーんら」

「大きくなってもお腹が出ていたらどうするの?」

「しゃーねー」

「仕方がないの?」

「ん、しゃーねー」

「ハル、それは駄目よ。痩せなきゃ」

「みーりぇ、らいじょぶら。おっきくなったらお腹もへこむ」

「ふふふ、そうね」

「しょうら」


 さて、どうだろうね。ハルが大きくなったところなんて今は想像もできない。いつまでも可愛らしいハルちゃんでいて欲しいもんだ。

 3つ先の領地という事は結構な距離がある。最低1日は野営になるか? それとも、宿があるのだろうか?


「今日中に2つ向こうまで行きたいもんだ」

「じーちゃん、ろーしてら?」

「2つ向こうの領地だと確か宿があった筈だ」

「しょっか」


 長老はよく知っている。と、行った事がないと話していたのにどうして分かるんだ?


「行った事はないんだ。アヴィーが確か話しておった」


 なるほど。アヴィー先生ならよく知っていそうだ。

 アヴィー先生は今、協定の話でアンスティノス中を飛び回っている。もう行ったことがない領地はないのではないかという位にだ。


「ばーちゃんは来ないのか?」

「この辺はまだ無理だな」

「しょっか」

「もっと中央に近くなったら来るだろうよ。今は城にいるらしいからな」

「アヴィー先生、城に居るのか?」

「なんだ、リヒト。そりゃそうだろう。大公から直々に依頼されている事なのだからな」

「そうか」


 領主が変わるだけで、土地の様子も一変する様だ。

 先のネコ獣人の領主が治めていた領地はまだ手付かずの平原もあったが、大部分は麦畑になっていた。近辺の麦を一手に担っているのだろう。

 次の領地は畑といっても、麦ではなく野菜だった。そして、先の領地ほど広くはない。ヒューマンの領主が治める領地らしい。それまでは普通に獣人が行きかっていたのに、全く見かけなくなる。それほど、偏見がまだ強く残っている。

 ヒューマンの領主はヒューマン至上主義の者が多い。そこまでではなくても、獣人よりは自分と同じヒューマンと思うのだろう。獣人には耳と尻尾がある。それだけだ。あとはヒューマンと変わりない。寧ろ身体能力は、ヒューマンよりも高い。それでも、自分達とは違うと少なからず偏見を持つのだろう。

 エルフは長命種だからだろうか。そんな偏見は全く持たない。普段、ヘーネの大森林の奥深くで生活していて滅多な事では外に出ないのにだ。

 だが、誰かが種族の違う伴侶を連れ帰っても、すんなりと受け入れる。差別する事もない。

 長い時間の中で一時の事だと思うのだろうか。それは分からないが。


「もう少し行けば次の領地に入れるな」

「じーちゃん、なんれ分かりゅんら?」

「ハル、ワールドマップだと言っとるだろう」

「しょうらった」

「ハル、宝の持ち腐れだぞ」

「あー、リヒト様。それ自分のセリフやわ」


 カエデがイオスの前に乗っている。この2人は良い師弟関係だ。


「知恵の持ち腐れとも言うな」

「かえれ、なんら?」

「せっかく役に立つのを持ってるのに使えてないなぁ、て事や」

「なりゅほろ~」

「ハル、分かってんのか?」

「りひと、何がら?」

「ハルの事を言ってるんだぞ」

「えぇ? しょっか?」

「そうやな」

「アハハハ」


 イオスが笑っている。イオスは1番笑い上戸かも知れない。


「よし、わーりゅろまっぷら」


 いきなりハルがそういうと、目を閉じて胸に両手を揃えて置いた。そのエクボのある可愛らしいお手々は何の為だ?


「ん、分かんねー」

「ブハハハ!」

「イオス兄さん、笑い過ぎやわ。アハハハ」

「カエデも笑ってるじゃねーか」


 この師弟はどちらも笑い上戸らしい。よく似たものだ。

 また周りの様子が変わった。今度は小さな建屋が幾つも並んでいる。


「この領地は木材の加工場が多いんだ」

「長老、木か?」

「ああ。加工といっても調度品や小物だな」

「ほう」


 よく見ると、建屋の前に椅子や小さな踏み台等が出してある。加工するだけでなく、防腐剤のようなものだろうか。何かを塗って乾かしている様にも見える。

 木材の加工場が多いということは、木が近くにあるのだろうか?


「あ、じーちゃん。林か?」

「そうだな。あの林がずっと次の領地まで続いていてその境に小さな谷があるらしい。そこが目的地だ」

「しょっか。けろ、林がありゅならしぇいれいじゅもないかなぁ?」

「ハル、ワールドマップを見てみなさい」

「ん」


 また、ハルが胸に両手を揃えて置いた。そうしないと、ワールドマップが見られないのか? いや、そんな筈はないだろう。可愛らしいから良いけども。


「ねーな」

「だろう」

「ハル、そうなのか?」

「ん、じぇんじぇんねー」

「あんだって?」

「ブハハハ、ルシカ、またリヒト様が分かってねーぞ」

「リヒト様、全然ないとハルは言っているのですよ」

「おう」


 リヒト、まだ通訳が必要か?


「やっぱ、りゅしかは頼りになりゅな」


 ほらみろ、言われちゃった。どんどんルシカの株が上がって、どんどんリヒトの株が下がっていくぞ。


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