34ーハルの足は短い?
「ゆっくりして下さって良いのですよ」
「ありがとう、しかし次に行かないといけないんだ」
「リヒト様の最強の剣を拝見したかったのですが」
「いや、そんな見せる程のもんじゃねーよ」
「ソニル様が模擬戦をして下さいましてな。誰も相手にならんかったのですよ」
「ソニルの奴、そんな事をしていたのかよ」
「アハハハ。ソニルらしいじゃないか」
ソニルはサービス精神旺盛だからね。賑やかな性格といい、コミュお化けともいう。アヴィー先生もそうだ。誰とでも分け隔てなく接する。そして、ソニルもアヴィー先生も優しい。
だが、ソニルは最強の5戦士の中でも最強だ。エルフの中で1番強いのだ。少年ぽさを感じさせるキュートなあの見た目からは想像つかないが。
「じーちゃんよりちゅえーのか?」
「ワシはあまり剣が得意ではないからのぉ」
「しょーなのか?」
「ハルはオールラウンダーだな」
「ふふん、しょうか?」
長老に褒められてちょっぴり得意気なハルだ。そういえば、前の旅の時にドワーフの親方に短剣を作ってもらっていた。あれはどこにいったんだ?
「ハルちゃん、でも短剣を無限収納にずっと収納してるもんな」
まだ無限収納に仕舞っていたのか。
「かえれ、らってもっちゃいねーし」
「使わな余計勿体ないやん」
「しょっか?」
「そうやな」
「ハル、そうだぞ」
「ん、わかっちゃ」
さて、そろそろお別れの時だ。カエデは名残惜しそうだ。
「カエデ、またおいでな」
「ねーちゃん、待ってるわ」
「また、帰りに寄らせてもらいましょう」
「是非とも、お待ちしてますぞ」
「長老様、良いのですか?」
「良いも何も。いつでも会いに来ると良いんだ」
「長老、ありがとう!」
そして、一行は次の精霊樹がある場所へと向かう。
次はどんな場所にあるのだろう? また街中なのだろうか? それにしても、ドラゴシオン王国よりも精霊樹が生えている場所が多い。それだけ精霊樹の浄化の力が必要なのだろう。
「ハル、分かるか?」
「分かんねー」
「だから、ワールドマップを見てみるんだ」
「ん……じーちゃん、こりぇ1番近いのはこりぇどうやって行くんら?」
「だろう?」
おや? どんなところにあるのだろう?
「長老、どうしたんだ?」
「次に向かう精霊樹なんだが、どうやら3つ先の領地なんだが」
「おう、行こうぜ」
「りひと、領地の端っこなんら」
「おう、行くぞ」
「りひと、端っこの端っこなんら」
「ん? 意味が分からんぞ」
「こことは違って平野ではないんだ。少し険しいかもしれんぞ」
「険しいってか? でもアンスティノスの国内なんだから大したことねーだろう?」
「それがなぁ、小さな谷底かも知れん」
「谷か……ま、なんとかなるだろう? 長老、行ってみないと分かんねーだろう?」
「まあ、そうだな」
「おし、いくじょ」
またハルが張り切って片手を挙げている。だが、アンスティノスではヒポポはハルの亜空間の中だ。シュシュも小さくなって大人しくミーレに抱かれている。
と、ハルが走りだした。乗るものがないと走るんだね。タッタッタッタと走って行くが、なにしろちびっ子だ。直ぐにリヒトに追いつかれてしまい抱き上げられた。
「よし、行くか」
「りひと、おりぇ張り切って走ってたのに」
「遅ーんだよ」
「ちびっ子らからな」
「アハハハ。ヒポポやシュシュに乗れねーからな」
「しょうなんら。不便らな」
「ハル、良い運動になるわよ。お腹が出てきているんだから、しっかり歩きなさい」
「みーれ、らからおりぇは幼児体形なんら」
「はいはい」
なら、リヒトに抱っこされてちゃ駄目じゃないか。
「ほら、ハル。歩くか?」
「ん、めんろーらな」
リヒトに下され、イオスと手を繋ぎトコトコと歩く。うん、ちびっ子だ。遅い。
「いおしゅ、おしぇー」
「アハハハ、仕方ないな」
「らっこしゅる?」
「いや、さっき歩き出したばっかじゃねーか」
「しょっか」
もう飽きている。いつも早いシュシュやヒポポに乗っているからスピード感が違うのだろう。
長老の転移では行けないのだろうか?
「ワシが1度も行った事がない場所だからなぁ」
「しょっか」
長老でも行った事がない場所らしい。ハルちゃん、だから転移は無理だね。残念だ。
「偶にはこうして歩くのも良いだろう?」
「おしぇー」
「ハルがな」
「おりぇ、一生懸命ありゅいてりゅじょ」
「ハルはまだちびっ子だからな」
「足が短けーんだよ」
「りひと、しょれはちがうじょ」
「違わねーだろう?」
「らっておりぇはかりゃだがちっせーんら。らから足も短くねーんら」
そこに拘るんだね。
「アハハハ、どっちにしろ短けーだろう」
「らからちげー」
「アッハッハッハ」
なんとも呑気な一行だ。ハルの歩く速度に合わせてのんびりと移動する一行。3つ先の領地だと長老が話していた。いつになったら到着するのやら。
「こりゃ、なかなかだの」
「じーちゃん、何がら?」
「なかなか到着せんぞ」
「遅いからな」
「りひと、らからおりぇはちびっ子らから」
「いや、そうじゃない。馬を持ってきたら良かったな」
「確かに」
「1度、エルヒューレに戻るか?」
「えッ!? 長老、マジかよ?」
「ああ。その方が早いかも知れん。馬を持って此処まで転移すりゃあいいんだ」
「長老の発想が凄いよな」
「本当よね」
「ん」
「なんだ? ワシは変な事を言っとるか?」
変と言うか、長老ならではと言うべきか。長距離転移ができる長老だからこその考えだ。普通はそんな事考えつかない。だって長距離の転移なんて出来ないのだから。




