33ークリオネ仕様
「ひぽ、しぇいれいじゅうはいりゅのか?」
「ぶもぉッ」
ヒポポが一鳴きした。すると彼方此方から同時に小さな精霊獣が現れた。まだ少し弱々しくフワフワと浮かんでいる。生まれたばかりなのだろう。さっき麦畑で見た精霊獣と同じだ。
青空の様なスカイブルーの半透明な身体にチューリップの様な頭には小さな角が2本、そして、ヒラヒラと翼の様に動くヒレ? 身体の先には3枚の小さな葉っぱがついている。
この地域の精霊獣はクリオネ仕様で統一なのかも知れない。その精霊獣達が皆、ハル目掛けてやって来る。
「ハル、ヒールなのれす」
「よし、元気になりゅんらじょ。ひーりゅ」
ハルが両手を広げて全部の精霊獣に行き渡るように詠唱した。白い光に包まれる精霊獣達。さっきよりもずっとキラキラと光りだし、ハルの周りをフワフワと飛んでいる。光の粒子がハルを包み込むように見える。
「元気になったなのれす」
「おう、キラキラ見えるようになったぞ」
「リヒトもそろそろハッキリと見える様になると思うんだがな」
「長老、そうなのか?」
「ああ。リヒトの魔力量ならそろそろだろう。慣れるからな」
「よし、よ~く見てみよう」
リヒトは目を凝らす。と言うよりも、眉間に皺を寄せ目をぎゅっと細めている。そんな事で見えるようになるのか? それは単純過ぎるだろう。
「まだ、見えねーな」
「リヒト様、目を凝らしたからといって見えるものでもないでしょう?」
「ルシカ、そうか?」
まるで、ハルの様な事を言っている。
「りひと、ちょっちおばか?」
「ちょっちって何だよ」
いや、そっちじゃない。おバカと言われた方に怒ろう。
「アハハハ。リヒトはまだまだか。さて、ヒポポ。精霊女王の事を聞いてくれるかの?」
「ぶも」
ヒポポがワラワラと集まっている精霊獣に聞いている。ぶもぶもと鳴きながら大きな頭を動かしている。ついでに短い尻尾も動いている。
「ほんと、可愛いわ」
「ミーレ、ヒポポの尻尾だろ?」
「イオス、可愛いわよね」
「ちょっと笑えるけどな。プハハ」
可愛いらしい。あの大きな身体に似つかわしくない小さな平たい尻尾。そこにまた小さな3枚の葉っぱがついている。それがヒョコヒョコと動いている。
「ぶも」
「しょっか」
「ハル、何と言っている?」
「ここもじゅっと前にきたって」
「そうか。麦畑の精霊樹と同じ時期だろうな」
「らな」
「何千年も前なのれす。あっちに寄ってこっちにも来たなのれす」
また、コハルは詳しい事を言い出した。精霊樹に聞いたのか?
「精霊獣がそう言っていたなのれす」
ん? なんだと?
「コハル、精霊獣の言っている事が分かるのか?」
「当然なのれす」
「こはりゅ……」
また、コハルは大切な事を……まあ、仕方ない。コハルの格は上だと言ってもまだ子リスだ。
「コハル、じゃあヒポポに聞いてもらわなくてもいいじゃねーか」
「それは違うなのれす。直接話す事は出来ないなのれす」
なんだって? 話している内容は理解できるが、直接話す事は出来ないという事なのか?
「精霊獣同士がいいなのれす」
よく分からない。とにかく、ヒポポが話してくれるから分かるという事なのだろう。そうしておこう。
その日は領主邸にお泊りした。カエデは両親の家にお泊りだ。いつもハルの隣のベッドはカエデが占領していたが、今日はいない。代わりに長老がハルと同じ部屋で寝ている。ああ、忘れてはいけない。大きな2頭も一緒だ。シュシュはハルと同じベッドに、ヒポポはベッドのすぐ側で横になっている。
「ハル、寂しくないか?」
「じーちゃん、なんれら?」
「ずっとカエデと一緒だっただろう?」
「らいじょぶら。今らけらって分かってりゅかりゃな」
「そうか。ハル、良い子だ」
「ふふふん。じーちゃんと一緒もいいじょ」
「そうか?」
「ん、おりぇはいちゅも1人れ寝てたかりゃな。ろんな時れも1人らった」
「ハル……」
これは、ハルの前世の話だ。家族に虐げられ、いつも独りぼっちだったハル。その事を言っているんだ。前世のハルは身体が弱かった。しょっちゅう熱を出して寝込んでいた。そんな時も独りぼっちだった。どんな気持ちで熱に耐えていたのだろう? 居た堪れない気持ちになる。
「もうそんな事はないぞ。じーちゃんやアヴィー、それにリヒト達もずっと一緒だ」
「あたしもずっとハルちゃんと一緒よ」
「じーちゃん、しゅしゅ。ありがてーな」
「そうか?」
「ん……ありがてー……」
ハルが寝息を立てだした。シュシュとヒポポがいつもの様に添い寝をしている。
長老がパーピを飛ばす。アヴィー先生に飛ばしているのだろうか? 平和な夜、ふと人恋しくなるような夜。ハルがスヤスヤと寝息を立てている。
小さく丸くなってお手々はぷくぷくなほっぺの下だ。そして、隣で大きく横になっているシュシュにくっつくように寝ている。
この可愛いハルに寂しい思いをさせてはいかん、守るんだと思っている長老。
また、明日からはアンスティノス大公国にある精霊樹を探す旅だ。
今日はカエデも両親に甘えている事だろう。




